9. 九条瑠璃という女子は
前話の改行を調整しました。
もし、前のほうが良かった!という方がいれば感想をください!すぐに訂正したいと思います。
放課後。
私、九条瑠璃は空き教室に来ていた。
空き教室といえば告白だが、どうもそういうのじゃない気がする。
私を呼び出したのは同級生の朝霞優利。
よく保健室にいて、相談事を聞いてくれるという噂を聞く、密かに女子に人気の男子である。
そんな優利くんがなんのようだろうか。
私が空き教室につくと優利くんはすでに来ていた。
「九条、突然呼び出してすまない」
優利くんは開口一番に突然呼び出したことについて謝罪してきた。
こういうところがモテるんだなあ、と思いながら
「別に暇だったし大丈夫」
と返す。
本当は三人の友だちと帰る約束をしていたが、あんまり時間はかからないということで教室で待ってもらっている。
「それで、なんのよう?」
私は時間も惜しいので、本題に入るよう急かす。
すると優利くんは、急に雰囲気を変え深刻そうな顔をしていった。
「今回君を呼び出したのは.......天野心晴についてなんだけど」
心臓をぎゅっと掴まれた感覚になる。
言葉が詰まる。
天野心晴。
私がいじめた子で..........私が不登校に追い込んだ子。
「お前があいつにいじめを始めたことは知ってる。どうしてだ?どうしてそんな事をした?」
優利くんの言葉には多かれ少なかれ怒りの感情が籠もっていた。
そのすごいプレッシャーに思わず後ろへ一歩下がってしまう。
だが、私はここで引くわけには行かない。
「羨ましかったからよ!私が持ってないものを持っていて、友達にも恵まれていて........それに私の周りにいた人たちだってあの子のことを疎ましく思っていたし............!」
すると優利くんは不思議そうな顔をしていった。
「君はいろいろなものを持っているだろう?友だちもいるしお金だってある。あいつには及ばずとも勉強や運動もできるし.........」
そうじゃない。そうじゃないの。
「そうじゃない..........私に...友達なんかいないの」
すると優利くんの顔がすこし歪んだ気がした。
私は、優利くんは不思議な子だと思った。
誰の前であっても、こんなに弱気になって自分の感情を話したことはない。
この人の前では.......本当の自分を出せると思った。
なんでかは.......わからないけど。
「ねえ、優利くん。私の話........聞いてくれる?」
私のその質問に対して、一瞬驚いたような顔をした優利くんはすぐに真剣な表情になって、ゆっくりと頷いた。
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私は大手財閥の令嬢。
お金なら腐るほどあったし、手に入れられないものはなかった。
ただひとつ.........愛を除いて。
私の親は仕事熱心な人で、ほとんど家に返ってくることはなかった。
だから幼い頃の私にとって、家政婦が親代わりみたいなものだった。
だが、その家政婦も運悪く仕事に忠実な人で、愛なんて言葉とは疎い人だった。
もっとも、それは私が他人だったからかもしれないが。
それから私は小中と成長していった。
だが、小中であった人たちの中に愛をくれるような、温かい人はいなかった。
いるのは私ではなく私の後ろ。私の親やお金によってくる虫だけ。
そんな日々にうんざりしていた私はある日、三人の女子に提案をされた。
私が彼女らにお金を払う代わりに友達になってあげると。
彼女たちも金にしか目がないことはわかっていた。
だけど、私はほしいと思ってしまったのだ。
人生で一度もできたことのない......友達という存在が。
それからの日々はとても楽しいものだった。
一緒に遊びに行って、美味しいものを食べて。
仮初の友達であっても、ともに遊ぶ日々は楽しいものだった。
ただ、”愛”について理解することは叶わなかったけど。
だから、羨ましかった。
才能を持っていて、たくさんの人に囲まれていた天野が。
それに三人も天野のことをよく思っていなくて、いじめようと言い出した。
別に私は嫉妬はしていても、いじめをすることに乗り気ではなかった。
だが、怖かったのだ。
ここで断ったら、私はまた一人になってしまうんじゃないかって。
そうして私は.............
天野心晴をいじめた。
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「これは私の言い訳。許してほしいなんて言えない」
顔を上げるのが怖い。
なにをいわれるんだろう。
何をされるんだろう。
そんな不安を胸に抱えながら、私はゆっくりと優利くんの方を向いた。
そんな私の目に写ったのは..........
優しい優しい優利くんの表情だった。
まるで大丈夫とでも。
今まで辛かったねとでも言うような表情。
その優しさの中には、私の気持ちに理解し、それに対して辛く思う共感が含まれていた。
思わず涙がこぼれる。
止めようと思っても、止まらない。
とめどなく溢れてくる涙は、今まで私の中ではびこっていた悪感情を洗い流しているようだった。
しばらくして私が泣き止むのを見るなり優利くんは口を開いた。
「仮初の友達なんていない。それを友達とは言わない。とりあえず、彼女たちを友達として接するのはやめたほうがいい」
そう、まるで小さな子をあやすように言ってくる。
「無理だよ......。三人と友達じゃなくなったら、また私は一人になる。一人はいやだ!一人は.........」
心の奥底にとじこめていた感情が、南京錠を突き破り溢れてくる。
これも優利くんのもつ不思議な雰囲気の効果だろうか。
すると優利くんは優しく言った。
「俺と友だちになろう。俺が友達としてそばにいれば、一人じゃないだろ?」
「だけど........お金がないと、メリットがないと、みんな離れていっちゃう........。きっとあなただって」
人は信じられない。
自分に利益がないとわかった途端に離れていってしまう。
こんな言葉じゃ拭いきれないくらいに私の心は黒く深くなりすぎていた。
「はあ...........」
すると優利くんは一度ため息を吐いていった。
「ずっとそばにいる。君が望むなら、友達として仲間として.........親友として」
それに、と彼は言う。
「友達がいるって事自体、メリットだろ?」
人間、ずっとそばにいるなんてことはできない。
だけど、私はこの言葉が嘘には聞こえなかった。
「本当に、本当にずっと一緒にいてくれる?見捨てたりしない?」
「ああ、約束するよ」
そうして優利くんは、彼は手を差し出した。
私はその手を握った。
その手は、かつて仮初の友達と握った手よりも、ずっとずっとあったかかった。
◆ ◆ ◆
優利side
九条と理解りあったあと、誰もいない教室でひとりごちる。
九条は心晴に謝りに行った。
あの二人はきっとわかり合えると思う。
純金のドレスを着たお嬢様。
その純金の重さに、同級生も、使用人も、両親でさえそばに居続けることができなかった。
愛し続けることができなかった。
だが、もし隣に才能という名の銀のドレスを着た女の子がいてくれたのなら............
彼女たちはきっと、誰にも引き裂くことのできないかけがえのない仲間となれるだろう。
お読みいただきありがとうございます!
こういう過去形の描写個人的に好きなんですよね。みなさんはどうでしょうか。
さて、今日は僕の誕生日です!
ということでこれからのモチベのため、そしてお祝いとしてブックマークと星5つをつけてほしい。いや、つけてください!
お願いします!