3. その不良は...........
「た、助けてください!」
保健室に響く男子生徒の切羽詰まったような声。
そんな声に俺は驚くでも怒るでもなく静かに手に持っている資料を机においた。
どうやら、仕事の時間らしい。
「どうしたの?」
後ろを振り向くと、神咲さんが男子生徒の目の前まで来て訪ねていた。
男子生徒は少し恥ずかしそうにうつむきながらも要件を話す。
「お、俺の友達が上級生の先輩に絡まれてて..........。校舎の裏に連れて行かれちゃったんです」
男子生徒は少し泣きそうになりながらも言う。
「本当は俺がぶつかっちゃったのがいけないんです。でもあいつ、すぐに位置を入れ替えて自分がやったって.........それで........」
なるほど、その手のやつか。
だが..........
「校舎裏に連れて行かれただけでひどいことをされるとは限らないんじゃない?」
と、神咲さんが言う。
そのとおりだ。
もしかしたら校舎裏でパーティーするだけかもしれない。
可能性が100%じゃない以上迂闊には動けない。
「それはそうですけど........」
男子生徒は少し申し訳なさそうにしていった。
「連れて行かれた相手がその.........琉王先輩のグループなんです.......」
琉王 怜央。
この天月高校の問題児である。
あいつが関わってんなら不安になるのも納得だな。
「わかった。俺が行こう」
そう言って俺は扉へと向かう。
「私も行こうか?」
「いや、いいよ。こういうのは俺の専門だ」
俺がそう言うと神咲さんは大人しく引き下がる。
「あ、ありがとうございます!」
「はいはい。お礼はいいから早く連れて行って?」
「はい!」
そうして俺と男子生徒は走り出した。
◆ ◆ ◆
「おら!」
「グッ.....!!」
体に痛みが走る。
手で防いでいてもなお体にダメージが入る重い拳。
それに耐えながら俺は思う。
これはいつまで続くのだろうかと。
親友を助けれたのは良しとしてもここからどうすればいいかわからない。
痛い。
誰か助けてほしい。
そう願ってもこんな校舎裏を通る人がいるはずもなく..........
「そこまでにしてもらおうか」
混沌とした校舎裏に突然声が響き渡る。
そこには一人の男子生徒と、親友の姿があった。
「結城!」
上級生が男子生徒に気を取られている間に、親友の鳴上 健人が俺に駆け寄ってくる。
「大丈夫か結城!?」
「大丈夫なわけあるかバカ。それよりあの人は........」
「あの人は噂になってる人だよ」
「噂?」
「うん。うちの学校に今年からできた部活」
そういって2人は彼に目を向ける。
「相談部部長、朝霞優利」
「相談部...........」
◆ ◆ ◆
相談部。
俺、朝霞優利が今年新しく作った部活動である。
主に部室として保健室を使用している。
部員はぎっりぎりの3人。
俺と神咲さんともう一人の女子生徒である。
顧問は穂香先生にやってもらっている。
名前からしてわかると思うが活動内容は............
「さて、お前たちかかってこいよ」
俺は手首をふって挑発する。
この手のやつらは頭に血が登りやすいからなぁ。
俺の思惑通り、すぐにカッとなった上級生が殴りかかってくる。
「オラァ!くたばれ!」
複数人の拳が降り注ぐ中、俺は...........
「神咲さんは謎だなぁ」
全く関係ないことを考えながら受け流していた。
そして猛攻が止まる一瞬の隙に相手の腹に一撃ねじ込む。
「グフッ.......」
一撃を受けた上級生たちは悶絶しながら次々に倒れていく。
その後も俺は攻撃を続け、5分足らずで上級生たちは全員床に伏した。
ただ一人を除いては............
「流石だな優利」
「お前もっと抑制しろよ...........」
「俺が声をかけるとやる気を出すから何もできねぇんだよ」
今しがた俺と話す体格のいい男。
名を琉王 怜央。
学校の噂では暴力に訴えかける極悪人。
だがその本当の姿は..........
喧嘩がバカ強く人相が悪くてリーダーシップがない善人なのである。
◆ ◆ ◆
「すまなかった」
怜央が殴られていた男子生徒、草薙 結城に頭を下げる。
草薙はそれに対して困惑の表情を見せる。
「草薙。怜央のことを悪く思わないでくれ。こいつはお目付け役なんだ」
俺はすかさずフォローをいれる。
琉王 怜央。
学校で最強の不良と噂される彼の本当の姿は............
「勝手に絡んだことを聞いてあいつ等のもとにすっ飛んでいったんだが..........ちょっと間に合わなかったみたいだ」
彼ら不良をなるべく悪事へ加担させないように見張る、いわばまとめ役なのである。
もっとも、こいつにそこまでのリーダーシップがないのでこういうことが起こるのだが.........
まあ、いいやつなのは確かだ。
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