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2. 質問


「..................」


「..................」


今俺は保健室の天使こと神咲 雪の前に座っていた。


ベッドを挟んで向かい合う俺と神咲さんの間には気まずい沈黙が...........流れてはいなかった。


あるのは安心と心地よさのみ。


そこに気まずいという感情は一切ない。


「神咲さん」


「なんですか?」


俺は質問する。


「君はなんでここに来るんだ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


神咲 雪。


保健室の天使と呼ばれる我が校の一年生。


保健室のといっても、教室に来れず保健室にいるというわけではない。


放課後、大体部活が終わる時間帯まで保健室にいるからそう言われているだけである。


可憐な容姿。


身長には見合わないほどに育った体。


透き通るような声。


そのすべてが男子を引き付けていた。


常に男子のそういう目にさらされ続け、ここに逃げてきた、というのが俺の予想なのだが、おそらくあたってはいないだろう。


彼女はとても強い。


もちろんそれは身体的な意味とかではない。


心の強さ。


それは普段から見ていてわかる。


自分は自分だと割り切っているような。


周りに流されない強さを、彼女は持っていると思う。


だからこそ不思議なのだ。


彼女がここに、生徒がどうしようもなくなって逃げてくるこの場所にいる理由が。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふふっ、聞きたい?」


神咲さんはそう言って怪しげに微笑んでくる。


「ああ、聞きたいよ。もし困っているなら相談してほしいからね。()()()()()


俺は部員である神咲さんの悩みを聞きたい。


まあ、部員でなくとも困っているのなら話を聞きたいが。


俺がそう答えると、神咲さんは更に笑みを深くして言った。


「教えない〜。まあ、いつかわかるかもね♪」


「はあ、今日も駄目か..........」


「駄目で〜す!」


はあ、これで何回目だろうか。


俺は一ヶ月前からこの質問を続けている。


そして一ヶ月間この答えしか聞けていない。


彼女いわく、「別に困っているわけじゃないよ?」だそうだが、保健室に来ている以上なにかあるのではないかと思ってしまう。


神咲さんがなにかあるみたいな返しの仕方をするのも気になる理由の一つである。


すると、神咲さんは頭をかしげて言う。


「そういえば聞いたことなかったけどさぁ。優利くんはどうしてここに来るの?」


心臓がドクンと跳ねる。


体中の筋肉がこわばるのを感じる。


まるで心臓でも掴まれたようなそんな感覚だった。


「ごめん............それは言えない.......」


俺はうつむいて言った。


すると、神咲さんは俺の頬に手を当てて、うつむいていた顔をぐいっとあげた。


「謝らなくていいんだよ。でも..........」


そういうと神咲さんはにっこりと笑う。


「お互い様だね!」


神咲さんの笑顔が、俺には眩しく写った。


今は、まだ言うことができない。


俺は神咲さんとそこまで信頼関係があるわけでもないから。


でももし、彼女のことを心の底から信頼できる日が来たのなら。


俺のこの心を、打ち明けてみてもいいかもしれない。


◆ ◆ ◆


今日も今日とて。


いつもと変わらず穂香先生の資料の整理をする。


神咲さんのことは気にはなるが、俺はこの生活を気に入っている。


保健室に来て。


穂香先生の資料の整理をして。


神咲さんとベッドに座って何気ない雑談をする日々。


そんな変わらぬ日々が、とても心地良い。


窓からは、華道部が花を植えている花壇が見える。


6月ということもあって、暑くもなく寒くもないちょうどいい風が保健室を通り抜ける。


俺はふと横を見る。


資料の上でグースカと寝ている穂香先生。


この心地良い風に眠気を誘われたか、心地よさそうな寝息を立てている。


先生はなかなかにベテランで、養護教諭の仕事と一緒に保険の先生もしているため、他の先生と比べて仕事が多い。


いつも寝不足なようだし、たまには寝かせてあげるか。


そう思って、俺がほっこりしながら資料の整理を再開しようとすると...........


「た、助けてください!」


スライド式の保健室のドアが素早く開かれ、保険室内にSOSの言葉が響き渡ったのだった。

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