13. 女子会
優利が出ていったあと。
私、天野心晴は静かに目の前の女を見つめる。
神咲 雪。
得体のしれない私の三人目のライバル。
私の優利を奪おうとしている女狐であることはまず間違いない。
私と優利の空間である保健室にことごとく訪れて......本当に鬱陶しい。
あ、もちろん保健室だし病人が優先ではあるけど。
「「「......」」」
誰も喋らない沈黙の時間。
さっきまであんなに明るかった女狐も、沈黙が苦手ですぐに空気を読まずぶち破ってくる瑠璃も珍しくおとなしい。
理由は......わかってる。
この重い雰囲気のせいだろう。
正直、私はこういう重々しい空気が嫌いだ。
思い出したくないことを嫌でも思い出してしまう。
ふと、もう一度女狐のことを見る。
彼女から漏れ出る負のオーラ。
それは、かつての私や瑠璃がまとっていたものとあまりにも酷似していて......
私にはどうしても、他人事には思えないのだ。
「わたしたちに話したいことがあったんでしょ。早く話して」
「......」
私は沈黙に耐えかねて、彼女に声を掛ける。
だが、私が声をかけたにもかかわらず、女狐は俯いたまま。
私の目には、彼女が葛藤しているように写った。
心の奥底にある黒くてドロドロとした塊。
きっと、それが彼女が前に進むための足かせになっている。
話すべきか。
話していいものか。
話したところで何かが変わるのか。好転するのか。
彼女の瞳は不安に揺れていた。
そして、私はその目を知っていた。
わかる。
嫌でもわかってしまう。
あれは......恐怖だ。
自分をさらけ出すことに対しての。
ふと視線を感じて横を見ると、瑠璃が心配そうな顔をして私と彼女を交互に見る。
きっと私も同じような顔をしているんだろう。
このまま彼女が決意できるまで待つ。
それは確かに平和だし、正しい選択かもしれない。
でも、私はそれをしてやんない。
恋敵だから意地悪したいし。
なにより..........
そうやってうじうじしている間はいつまで経っても成長できないと.....誰よりも知っているから。
「ねぇ、女狐!」
「......!」
私はあえて大きな声を出して彼女を呼ぶ。
私の声に反応して、女狐はビクッと肩を震わせると、恐る恐るといった様子でこちらを見上げた。
ふふ、いい気味だ。
いつもは優位に立たれているからか、この状況を少し楽しいと思ってしまう自分がいる。
いつもあんなに鬱陶しいくらい輝いてるくせに。
今の彼女には、そういう光がない。
いつもの明るい彼女からは考えられない顔をしている。
「私には、あなたが今から言おうとしていることがどんなことなのか、だいたい分かる」
「......!」
「そして、それが決して明るいものじゃないってことも、人に軽々しく言えるようなことじゃないってことも」
「それは......」
「だから......別に話さなくてもいい」
「え......いいの?話さなくて......」
私の言葉に少なからず彼女は驚いているようだった。
「別にいい。だって、それを私や瑠璃に話したところで、何かが解決するわけじゃないし」
瑠璃が私に賛同するようにうんうんと頷く。
もしもこの場にいたのが優利だったら。
そんな事を考えてしまう。
優しくて、誰よりも他人思いな彼ならきっと、大丈夫?話聞こか?なんて、優しい言葉を投げかけるのだろう。
あ、それはナンパするやつの言葉だったかもしれない。
まぁ、ともかくだ。
そういう優しい言葉を否定するつもりはない。
私や瑠璃も、そんな優しさに救われた一人だから。
だけど同時に、思う。
優しさは、希望を見せて自分を奮い立たせてくれるけど、根底にある問題を解決してくれるわけじゃない。
心の問題はどこまで行っても自分の問題。
解決するには結局......自分でなんとかするしかない。
それ以外に方法なんてない。
近道なんてないんだ。
「私達に言うのは勝手だけど、言っても解決するとは思わない。できるのはせいぜい、落ち込んでるときに頭を撫でてあげるだけ」
「撫で......?」
「そう。頭ナデナデ。私達は、あなたが前に踏み出すための勇気をあげることはできる。けど、結局前に進むのはあなた自身。あなたが頑張るしかない」
「そう.....だね.......」
そう言って彼女は顔を上げた。
まだいつも通りとはいかないけど、その顔はさっきと比べて、憑き物が落ちたように晴れやかだった。
まとっていた負のオーラはどこへやら。
瞳には確かに、光と......強い意志が宿っていた。
「うん......そうだよね。うん!」
女狐が......いや、神咲が急に立ち上がる。
「ありがと!心晴ちゃん!やっぱり私、まだ話さない!自分と向き合ってみるよ!」
「うんそれがいい」
「でも、きっとまた落ち込んじゃうと思う」
彼女が私と瑠璃を指差す。
「だからその時は......頭、撫でてね?」
「ふふふ、任せて。神の手と呼ばれた私の実力を見せてあげる」
「私は頭なんて撫でないわよ。じゃあ......私とはショッピングに行きましょ。あなたに着せたい服が頭の中に沢山浮かんでいるから」
「ふふ!楽しみにしておくね!」
ああ、やっぱり、と私は思う。
彼女は暗い表情よりも明るい表情が似合う。
そして、そんな彼女を私は......
(あんまり嫌いじゃない......)
そう思ったのだった。
◆ ◆ ◆
「俺はいつまで仲間外れなんだよ......しゅん......」
どうもお読みいただきありがとうございます!
それと更新めちゃ遅れてマジでごめんなさい!
高校の進級のほうでちょいばたばたしてて.....
まあともかく!
またちょくちょく更新するのでぜひお読みいただければと思います!




