1. その女子は..........
俺の学校には、天使がいる。
保健室の天使。
基本、いつでもそこにいる美少女のことを、学校のみんなはそう呼ぶ。
いつも窓の外を見つめる、あの少女のことを。
◆ ◆ ◆
「優利!」
後ろから聞こえた友の声に、俺は机から顔をあげた。
朝霞 優利。
俺の名前である。
現在高校1年生。
天月高校という、県内でも屈指の難関校に所属している。
俺の名前は両親曰く、人に優しくしてその人にとっての利益になる存在でありますように、だそうだ。
俺はこの名前を気に入っている。
この名に恥じないように生きてきたつもりだ。
うぬぼれや自慢ではないけど、これまで様々な人を助けてきた自覚はある。
道案内だったり、荷物を持ってあげたり。
人に優しくするのは心地良い。
まあ、なにも最初からそう思っていたわけではないのだが。
まあそのせいで..............
「お前ってほんとにお人好しだよな」
友人の橘 隼人に何度そう言われたかはわからないが。
「なんだよ。お人好しなのはいいことだろ?」
俺はこのお人好しな性格を長所だと思っている。
だからいつもこう言ってるのだが...........
「お前また宿題の当番変わってただろ?お前は人に優しすぎるんだよ。まったく、自分を全く勘定にいれてないんだから.........」
隼人はやれやれと行った様子でつぶやく。
その言葉の後半は俺の耳には届いていない。
「それよりさ、今週末ボランティアあるんだけど一緒にいかね?」
「はあ、またかよ〜。別にいいけどさぁ」
「さっすが俺の友!」
隼人とは、よくボランティア活動をしている。
ごみ拾いだったり、清掃だったり。
そのこともあって地域のおばあさんたちとも結構顔見知りだ。
そんな俺だが放課後、必ず行く場所がある。
ホームルームが終わった。
「じゃあな、隼人」
「ああ、また明日」
隼人に別れの挨拶を済ませ、俺は例の場所に向かう。
3階の教室を出て、1番近くの階段で1階まで降りる。
途中、階段の窓からひょこっと顔を出した燕がかわいい。
ぽかぽかとした気分のまま階段を降りた俺は、廊下の右の突き当りにある部屋の扉を開いた。
白を基調とした部屋には、3つのベッドとそれぞれにカーテンがついており、部屋から流れてくる消毒の匂いが、俺の鼻をくすぐる。
左にはパソコンやマウスなどが置かれているテーブルがあり、白衣を着た女性の先生が何かを打ち込んでいる
天月高校保健室。
俺の安寧を得られる場所であり、第2の家。
無論、保健室はもれなく俺の第2の家なのだが。
「おお、朝霞じゃないか」
俺が保健室に一歩足を踏み入れると、パソコンをカタカタやっていた人物がこっちを向いた。
「こんにちは、穂香先生」
この保健室の主である渡辺 穂香先生。いわゆる養護教諭である。
白い肌。
後ろで一つにくくったきれいな黒髪。
その黒髪にマッチした吸い込まれるような黒い瞳が、眼鏡の奥からこちらを覗いている。
身長も高く、体の方も..............まあ、色々成長しているとだけ言っておこう。
そんな穂香先生は、俺のことを見るなりニヤッと意地の悪い笑みを浮かべた。
俺は身構えた。
この人がこの顔をするのは絶対何かを考えているときである。
「ちょうどいい。ここにある資料を整理してくれないか?あいにく他の仕事もあってね」
「いやですよ。それは先生の仕事じゃないですか」
俺はきっぱりと断った。
いくらお人好しな俺でもただ利用されるのは嫌なのだ。
もっとも..........
「じゃあ君にはここに来る権利はないな?帰ってくれて構わないぞ?」
「はあ、もうこのくだりめんどくさくなってきました」
俺はいままでこの誘いを一度も断ったことがない。
あくまで最終的には.........だが。
入学して俺がここを訪れてからはや2ヶ月。
俺は毎日のようにこの意地の悪い先生の手伝いをしている。
まあ、この人が俺を利用しているだけではないということはもうわかっているからな。
「そうか?私は好きだぞ。このくだり」
「別にいらないですしそろそろやめにします」
毎日こんなことしてなんの意味があったんだろう、と我ながら今更ながらに思う。
どうせ手伝うなら、反抗するほうが無駄ってものだ。
そうして茶番を打ち切り、俺は慣れた手つきで資料の整理を始めた。
相変わらずこの人は片付けが苦手だなぁ。
毎日片付けてんのに毎日こんだけ汚くなるなんて、一種の才能じゃないか?
そんなことを考えながら、俺はひたすらに資料を整理する。
整理を始めて少し経ったとき。
「それにしても相変わらずだな」
「何がですか?」
「ふっ、わかっているのだろう?後ろだよ後ろ」
「そうですねぇ。」
先生が俺にそう言ってくる。
普通の人なら何が?と思うかもしれないが、俺は疑問を抱かない。
なぜならこれもまた、2ヶ月もの間ほぼ変わらずかわされてきた会話だからである。
その時、ちょうど資料整理が一段落した。
俺は資料を机に置くと後ろに目を向ける。
窓からの風で靡く銀色の髪。
その瞳はどこまでも広がるような深い藍色。
ベッドに腰掛ける姿はとても絵になっており、その少女を中心に光を放っているように錯覚さえする。
「こんにちは」
「こんにちは♪」
俺が笑顔で挨拶すると、彼女もにっこりと微笑んで挨拶してくれる。
この少女こそ、保健室の天使。
神咲 雪である。
そして学校一の美少女と呼ばれる彼女は今日も...........
俺だけを見つめてくる。
お読みいただきありがとうございます!
この度新しく書き始めました今作、いかがだったでしょうか。
個人的にはハーレム展開が好きなので、初の一対一となります。
誤字脱字や表現に拙いこともあるかと思いますが、これからもお読みいただけると幸いです!
あと、自分は他にも作品をいくつか連載していますので、お読みいただけるとたいへんありがたいです!