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09.魔術師団からの誘い

 舞踏会の日からは、すでに数週間が経っている。

 マティアス王子と別れた後、アデレードは大広間には戻らなかった。

 クラウスへの言付けを頼んだあと、そのまま自邸に帰宅していた。


 その後クラウスからは、どういうわけか、一度会いたいという連絡が来ている。

 アデレードに、話したいことがあるそうだ。


 以前のアデレードなら大喜びしていただろう。

 けれども、アデレードはどうしてもクラウスに会う気にはなれなかった。

 王宮の大広間で、レティシアに寄り添うクラウスの姿が、未だに目に焼き付いている。


 わたしに会って、何を話すと言うんだろう。

 


★★★



 今日は昨夜から続く大嵐で、サヴォワ学院は休校になった。

 自室にこもって、クラウスへのお断りの手紙を書いていると、侍女のテレサが扉の向こうから声をかけてきた。


「お嬢さま、ヴィスタルグ伯爵がお呼びです。書斎に来るようにと」


「分かったわ。テレサ、ちょうどよかった。これをクラウスさまに届けたいの。今書き終わるから、ちょっと待っていて」


 手紙を書き終わると、それを持って部屋を出る。


「使いの者を出しておきますね」


 いつものように淡々とテレサはふるまっているけれど、アデレードは長い付き合いだから分かる。

 アデレードがクラウスの誘いを断るという、以前だったらあり得ない状況を、テレサは明らかに面白がっていた。


「あまり、やりすぎませんように」


「やりすぎるって、なにを?」


「ふふ、駆け引きもほとほどになさいませ」


 なにか盛大な勘違いをしているテレサにだまって手紙を押しつけると、父の書斎に向かう。



★★★



 アデレードが入っていくと、ヴィスタルグ伯爵は、手にしていた書類を机の上において、アデレードに向き合った。


「アデレード、最近、サヴォワでの成績が随分いいらしいね」


 ヴィスタルグ伯爵はなぜか上機嫌だ。


「古代の魔法書や、古代文字の解読なんて、学院の教授をも凌ぐと言われているそうじゃないか」


 前世の知識があるのだから、古代文字や古代魔法に詳しいのは、当然だった。

 あまり目立ちたくはないのだが、わざと分からないふりや、わざと間違える、といったことは、アデレードは、それほど得意ではなかった。


 ーーーー宮中で評判だぞ。

 陛下の前でお父さんまで褒められた。

 お前は我が家の宝だからね。

 アデレードが才色兼備だなんてことは昔から分かっていた。

 天使のような美貌に加え、素晴らしい知性。

 一体誰に似たのかな。あ、わしかーーーー


 永遠と続きそうなので、アデレードは父の言葉を遮る。


「あの、お父さま、ご用件とは一体なんでしょう」


「実は、魔術師団からな、お前を錬金術部門に入れてみないか、と打診されている。あそこは古代魔法を研究しているからな。お前が希望するなら、入団を許可すると・・・」

 

「わたしが?・・・でも、魔力はほとんどありませんよ?」


 アデレードは困惑していた。


 魔術師団への入団が名誉なことは、アデレードだって知っている。

 王国には、ユリアン王太子直属の王立騎士団と、第二王子のマティアス率いる魔術師団がある。

 どちらも入団の難しい、実力者しか入れない少数精鋭のエリート集団だ。


 しかし、魔力のほとんどない今の自分が、魔術師団に入ったってあまり楽しいことはなさそうだった。

 大体、サヴォワ学院を卒業したら、そのまま結婚し、貴族としての社交生活に本格的に参入すると思っていたのだ。


「いったいどなたが、お父さまにそんなお話を持ってきたのでしょう?」


「そもそも、許可、許可、って上から目線ですけど、一度も入りたいってこちらからは言ってませんよね?」


「みなさまの前で、サヴォワ学院や、私の話題を振ったのはどなたですか?」


 ヴィスタルグ伯爵は、八の字に眉を下げて、少し困ったように笑った。


「ええと、どちらもマティアス王子だ。お前とは舞踏会で会ったと言っていたが」


「とても学識が深くて、お前の話は興味深かったと言っていた」


(あの晩、なにか、マティアス王子と話したっけ?)


 アデレードは首をひねる。

 あまり大したことは話していない気がするが。

 一緒に踊った時の、マティアス王子の面影を思い起こしてみる。

 酔っていて記憶は途切れ途切れだ。


 端正な顔・・・・無神経な言葉・・・・ぞんざいな態度・・・・意外な優しさ

 そして、踊りながらもアデレードをどことなく探っているような気配。


(怪しい人物だと思われているのかしら)


「ちなみに、マティアス王子からお前への伝言だが、なるべく断らないでほしいそうだ」


(なんという強引さなの・・・ほぼ命令じゃない)


「・・・・わかりました。そういうことでしたら、お受けいたします」


 王子がどういうつもりか知らないが、人の良い父が、あの王子の要求を突っぱねられるとも思えない。


 正直言って、あまり気が進まなかったが、他にやりたいこともなかった。

 今では自分から言いだしたこととはいえ、クラウスとの結婚も、このままでは気が重かった。

 クラウスがあれほど嫌がっているのだ。結婚するにしても、もう少し二人の関係が改善してからにしたかった。

 ・・・そんなことが可能であるか分からないが。


 魔術師団に入れば、少なくとも、時間的猶予ができるはずだ。

 少し、クラウスから離れて自分の頭を冷やしたい。


 ただ、気がかりもあった。


「入団いたしますが、魔術師団にはレティシアもいます」

「彼女と部署は分けていただきたいのです」


「わかった。当然だ。魔術師団側に伝えておくよ・・・・」

「それとも、もしお前さえよかったら、わしが圧力かけて、あの、けしからん子をやめさせようか?」


「やめてください、お父さま。わたし、もう、そういうことするの、やめたの」


「アデレード!!お前はなんて心のきれいな子なんだ」


 父親の賛辞は、アデレードが痺れを切らすまで続いた。





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