表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

08.王宮の舞踏会④

 ーーーーこの人は私をなぐさめてくれているんだ。

 そう気がつくと、アデレードは少し心配になった。


(王宮のバラを勝手に消費して大丈夫なんだろうか)


 今ので結構な数のバラが、消費されたはずだ。


「ありがとうございます」


 アデレードはハンカチをしまった。


「でも、もう十分です。バラがもったいないもの・・・わたし一人のために」


 思わず言ってしまって、しまったと思った。

 温かく感じられた男の雰囲気が、不意に固いものになったからだ。


「へぇ」


 男は、アデレードの顔を覗き込んだ。


「おかしいな。この古代魔法は僕以外、ほとんど知られていないと思っていた」

「なんでバラからの錬成魔法だと分かったんだ」


「な、なぜかそんな気がしただけです」


 アデレードは、しどろもどろになって言った。

 かつては、ぜんぜん珍しい魔法じゃなかったし、危険性もない。

 むしろ人を喜ばせるための魔法だ。そんなに強く反応しないでほしい。


「それにしては断定的な物言いでしたよね、あなたに魔法が使えるとも思えないが」


 急に敬語になるところが怖い。


「そう言えば、ヴィスタルグ伯爵家の令嬢は、最近、ずいぶん変わったという評判だったな」

「ーーーーお前、本当にアデレード嬢か」


 突然グッと全身に圧力を感じた。

 男が魔力でアデレードを調べているのが分かる。

 成りすましを見定めているのだ。

 冷やかな力の流れが、アデレードの頭の中を、身体の中を探るように巡っていくのを感じた。

 まるで丸裸だ。この感触だと、男はかなりの実力者だと思われる。


(わたしが、擬態魔法をかけてアデレードになりすましている他の誰かではないか、疑っているんだ)


 擬態魔法とは、短時間だが、他の人間や動物に変化できる魔法だ。

 かなり高度な魔法で、上級魔術師くらいでないと使えない。

 トラブルの元になるので、王国では使用が禁止されていた。


 アデレードはだんだん腹が立ってきた。


(まるで犯罪者扱いじゃない。さっきまで、花火を見せていてくれたくせに!)

(魔力がないって、なんて無力なの)


 前世では、自分にここまで舐めた真似をするものはいなかったし、させなかった。

 

「なんで?わたし、そんなにおかしく見えますか?」

「擬態魔法なんて使えるわけないでしょ」


「えーと、そうだな。擬態ではないな。だったら俺に分からないはずがない。うーん、なんというか、もう一人お前の中にいるというか、ごめん、何言っているか分からないよな、とにかく少し気になったんだよ」


(なにこの人。鋭すぎる)


「だいたい擬態魔法を使うのなら、もっとレティシアさまに寄せていきます」

「だってクラウスはレティシアさまみたいな女性がタイプなんだもの」


 言ってて自分がみじめになる。


(ダメだ泣きそうだ)


「まあ、そうかもな」


「あいづちを打たないで!」


「わたし、喉が渇いていたのよね。ちょっとそれ、頂きます」


 アデレードは、男の持っていたグラスを奪いとって、一気にあおった。


(なんて失礼な男なの)

(もしも前世のエリス・バルマーだったら、お前ごとき魔術師は、今頃ひざまずいて命乞いでもしているだろう)


「え、あ、それけっこう強い酒・・・おい、一気に飲むな。知らんぞ」



★★★



「あああ、ダイエットもしたのに、ぜんぜん意味なかったな。ぜんぜん相手にされないよ」


「・・・・・・・・」


「ぜんぜん知らない変な人にまで疑われてばっかりだし」


「・・・・・・・・」


「ああ、踊りたかったな」ーーーークラウスと。


「・・・・・なら、せっかくだから踊っていこうか」


「・・・え?どこで?」


「ここでだ」


 男は立ち上がると、身を少しかがめて、手をアデレードに差し伸べた。

 大広間からの音楽は、ずいぶん小さくなってはいるが、ここまで響いている。


「え、は?あなたと?わたしはべつに・・」


「お前が踊りたいと言ったんだろうが。これは命令だ」


「ねえ、さっきから思っていたのだけど、なんでそんなに偉そうなのよ。女性に対して無礼すぎるわ」


「ーーーーあ、おれはマティアスだ。」


 ばさり、と男はフードをとった。

 漆黒の髪に、深い緑の目。整ってはいるが愛想のかけらもない表情。


「・・・・・・・マ、マティアス王子・・・」


「無礼すぎるのはお前だろ。人の酒で酔うなよ。・・・ま、今回は、気にしないでいてやるが」


「・・・ひどいです」


 色々な点でひどいとしか言いようがない。

 王族なら最初から言ってほしい。


 そういえば、魔術師団は、第二王子のマティアス王子が統括していた。

 いつもはほとんど公式行事に出てくることがない人だ。

 明るく礼儀正しい王太子とは違い、ぶっきらぼうな物言いで、特に女性からは怖がられている、とどこかで聞いたことがあった。


(そっか。マティアス王子か。納得したー)


 アデレートもやけっぱちな気分になっていた。


「め、命令なら・・・」と差し出された手を掴む。


 舞踏会で、兄以外の男の人と踊るのは初めてだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ