20.勲章を授与されました③
ーーーー授賞式翌日の錬金術研究所。
アデレードは、ディルクとゲルダの二人とともに廊下を歩いていた。
「昨日の授賞式、どうでした? 立食パーティーではなにが出たんですか?」
「ええと、そんなに食べなかったからあまり覚えていないわ。あ、オイスターは美味しかったな」
「ああ、いいなぁ。くそっ。僕も食べたかった」
オイスター好きのディルクは悔しそうだ。
ディルクが思い出したように言う。
「そういえば、マリアン王太子にも声かけられたらしいね」
「ええっ、そうなんですか?王太子はすごい美形で人気あるらしいですね。師匠はどう思いました?」
「どうって、普通に怖かったわよ・・・」
「こ、怖い?それはいったいどうして・・・」
話していると、廊下の向こうから、マティアス王子が歩いてきた。
「し、師匠、そんなに怖い顔して、どうしたんですか?」
「アデレード、マティアス王子と何かあったの?」
「ごめん、二人とも先に行っていてください」
「わかりました・・・」
「わかったよ」
★★★
アデレードは、マティアス王子の前に立ちふさがった。
王子は、珍しく、少したじろいだ。
「王子、わたし、なにかしましたか?」
「いきなり何の話だ」
「高慢で、身持ちが悪いって王太子様に、マティアス様が伝えたと」
「・・・・それをお前にわざわざ伝えたのはだれだ」
「おっしゃったんですね」
「・・・・クラウスか。あの野郎」
「・・・ひどい。おっしゃるようなことをした覚えはないんですが」
ここ一年近く、一緒に過ごしてみて、マティアス王子の人となりは分かっていたつもりだった。
ぶっきらぼうで、愛想はないかもしれないけれど、陰口を叩くような人ではないはずだ。
だからこそ、すごいショックだ。
昨日から悲しくてたまらない。
「身持ちが悪いって、わたしのどういうところですか」
「いや、それは兄上の」嫌いなタイプで・・・
「兄上の?」
「いや、何でもない」
「?・・・初めて会った時に、王子と、舞踏会の夜の庭で踊ったことですか」
「は?それは全然悪くないだろ」
「え?じゃあなんで?他に心当たりはないんですが・・・」
「うるさいな。くそっ。兄上にお前が目をつけられたら困るだろうが」
「・・・困るって、マティアス王子が?」
「そうだよ。だから兄の嫌いなタイプを言っただけだ。気にするな」
「あの」
「なんだよ」
「なんでマティアスさまが困るんでしょうか」
ドンっと横の壁を、マティアス王子が叩いた。
顔が真っ赤だった。
「どうしてそんなことも分からないんだ。頭はいいはずだろう。お前はエリス・・・」
言いかけて、ハッと王子は黙った。
アデレードの手が震えてくる。
「え?え?・・・も、もしかして」
「・・・ああ、お前がエリス・バウアーだってことは知っている」
言うつもりではなかったんだが・・・と、王子は頭をガシガシ掻いた。
「な、なんでそのことを」
「なんでって、見てれば分かる。古代文字の知識も、魔術の技法も普通じゃない。・・・・・魔石を使うとき、お前の髪は赤くなるって知ってたか。瞳もオッドアイに戻ってるぞ」
し、知らなかった!!もっと早く言って欲しい。
「い、いつからですか」
「・・・お前が魔石を使っているのを見たときに、確信した。他にも数人知っている・・・ディルクもな」
(えっ、ディルクまで・・・今まで知らんぷりして接してくれていたんだ)
「ちなみにレティシアもな。病室で気がついたそうだ。今では、お前のこと、すごく怖がっているぞ」
(・・・確かに、クラウスを治した後、レティシアの様子は変だったわ・・・逃げるように帰ってしまったし)
「勘違いしないで欲しいんだが」
「俺は別にお前がエリス・バウアーだから好きなわけじゃない・・・俺にとってエリス・バウアーは、おまけだ」
アデレードの顔が真っ赤になった。
「お前・・・さすがに鈍すぎるだろ」
「だ、だって、わたしそういうのは疎くて。前世でも、魔術一筋でした。結婚もしていなかったし」
「そうか・・・そうなのか。・・・それは何よりだ」
マティアス王子がアデレードの手を取った。
今までに見たことのない顔をしていた。
目が真剣だった。
アデレードの手を取ったまま、王子は膝をついた。
「あなたの最期の話は知っている。あなたを見ながらいつも思っていた・・・・そのとき、俺がいたら、あなたを守れたかもしれないのにって」
「アデレード。あなたに、国のために命を落とすような真似は、絶対にさせません。俺がいる限り、絶対に」
「だから、そばにいてください・・・ずっと」
「ふふっ」
途中から、急に敬語になったのがおかしくて、アデレードは笑った。
笑いながら、涙がこぼれる。
誰かに守ってもらおうなんて、今まで一度も思ったことはなかった。
いつも人々を守る立場だったーーーー自分を犠牲にしてでも。
それが、かつてのわたしだった。
わたしはもう、エリス・バウアーではないけれど。
ーーーーアデレードでよかったーーーー
マティアス王子の指が、アデレードの涙を拭った。
いつまでも涙が止まらなかった。




