18.勲章を授与されました①
あれから、王都に戻ったクラウスは、騎士団の団長とともに、新たに増強した討伐隊を率いて、再び北方地方の平定に向かった。
討伐隊が奮闘したおかげで、北方地方は、なんとか平穏を取り戻すことができた。
長い冬が終わった。
きれいな青空に、春を告げる、ふわふわとしたミモザの黄色が映える。
足元には、ニゲラや、タンポポ、チューリップも咲いている。
風はまだ冷たいが、陽の光は暖かくなってきた。
今日は、王宮で、戦績があった者への褒賞の授与式がある。
二度にわたって現場に赴いたクラウスを始め、何人かの騎士が対象になった。
アデレードも、騎士たちへの治療が評価され、勲章が贈られた。
加えて、アデレード一代に限り、王室から魔石の所有が認められることになった。
アデレードの死後は王室に返さなければならないが、生きている間は、アデレードの所属品として自由に使っていいという。
これは、彼女の圧倒的な魔術の技量と、逆に圧倒的に足りない魔力量を考慮されて決められた、破格の扱いだった。
★★★
勲章授与式は、謁見の間で行われたが、すぐに終わった。
現国王は、儀式張ったことが好きではない。
即位後、どんどん式典を簡略化していたが、それは周囲にも歓迎されていた。
授与式の後には、王宮の一室で、簡単な立食パーティーがあった。
顔見知りとなった沢山の騎士たちから、アデレードは、温かい感謝の言葉をもらった。
「よかったな」
傍らにいたマティアス王子が声をかけてきた。
「これで、好きなように魔石も使えるぞ。俺の許可なしにね」
「ありがとうございます」
アデレードは微笑んだ。
魔石の一代限りの所有、という破格の待遇に、マティアス王子の口添えがあったことは分かっている。
今までは魔石は業務以外に使うことができなかった。
自由に使えることが本当にうれしい。
自分の力を一部、取り戻したかのようだ。
人だかりをぬって、奥の方から、ユリアン王太子が近づいてきた。
明るい銀髪、濃い葡萄色の瞳。
マティアス王子とは全然違うタイプの美男子だ。
騎士団を統括しているだけあって、体格もいい。
「あなたが、アデレードか。今回の貢献、感謝している」
王太子は、手を差し伸べてきた。
アデレードは膝を曲げて、その手を取る。
「あなたがいなければ、犠牲者の数はずっと増えていただろう」
「僕の大切な部下たちを救ってくれてありがとう」
「いいえ、大したことは何も・・・」
アデレードはふと違和感を覚えた。
ユリアン王太子は、愛想がいい。
物腰も柔らかい。
だから分かりにくい。
王太子の顔は笑っているが、目が笑っていない。
じっとアデレードを観察している。
探るような雰囲気が、初めて会った時のマティアス王子とよく似ていた。
(わたしを警戒しているのかしら?・・・一体、なぜ)
(王族って、みんな疑い深いものなの?)
「僕たち、髪の色がおそろいだね」
「あ、ありがとうございます」
緊張しながらアデレードは答えた。
王太子がすっとアデレードに近づいて、目を覗き込んでくる。
「なんだか、近い存在に感じるな」
(怖い。怖すぎる・・・)
「あ、ありがとうございます?」
「・・・歓談中、悪いが、俺たちは忙しいから、そろそろ行かないと」
なぜか、横に立っているマティアス王子の機嫌が、急激に悪くなっている。
顔を見なくても、イライラしているのが、雰囲気で分かる。
「え、俺たち?」
アデレードは首をかしげる。
(研究所はお休みだし、わたしも王子も、今日は忙しい日ではなかったよね?)
「じゃあ、また後でな。兄上」
アデレードは、マティアス王子に腕を引かれた。
(痛い。何でそんなに力が入っているの?)
ユリアン王太子はマティアス王子を見て、笑った。
「ふふっ。なるほどな・・・本当にお前は分かりやすいな」
分かりやすいって、なにがだろう。
ユリアン王太子の言っていることがよく分からない。
「なんだか、俺も興味出てきた。ええと、アデレー・・・」
王太子が言い終わらないうちに、マティアス王子はアデレードを引きずるようにして出口へ向かった。
「えっ、ちょっと、待ってください。まだ話のとちゅう・・・」
マティアス王子は腕をつかんで離してくれない。
「なんなんですか!?」
「どうしよう。ユリアンさまにすごく無礼だったかも・・・まずいですよ」
「ああ?全然、問題ないだろ」
「だいたい、お前はへらへらしすぎだ。もう少ししっかりしろよ」
「へらへら・・・いや、何を怒っているのか全然分からないんですが・・・」
「とにかく、もう切り上げるぞ」
アデレードは、マティアス王子に押し出されるようにして、会場を出た。




