13.新入りですから運びます②
錬金術研究所から、騎士団本部までは徒歩で10分くらいだ。
どちらも王宮の敷地内にある。
普段ならなんてことない距離なのだが・・・。
「お、重い」
アデレードは盾を持ちながらノロノロ歩いている。
盾は、一枚5キロ以上はあるだろう。
伯爵令嬢として生まれた今世では、こんな重い荷物は持ったことがない。
(体を鍛えておいてよかった・・・)
運ばなければならない盾は全部でちょうど18個だった。
アデレードでは、1つ持って運ぶのが限界だ。
すでに3往復しているから、あと15往復しなければならない。
今日中には終わりそうもない。明日いっぱいかかるかもしれない。
(わたし、一体何やっているんだろう・・・)
★★★
騎士団本部の建物の近くまで来た時だった。
後ろから複数の馬の足音がした。
「・・・アデレード?」
(うわ、一番見られたくなかったのに!)
追い越しざまにアデレードに気がついたクラウスが、馬から降りてきた。
他の3人も同じように降りてくる。
メリッサの婚約者、ラッセルの顔もあった。
(恥ずかしすぎるわ。こんな姿を見られるなんて)
「持とうか?」
クラウスが言った。
「俺が運ぶ」
クラウスが盾に手をかける。
「ほら、貸せよ」
「いいえ。わたしの仕事だから」
アデレードも、盾を持つ手に力を込める。
二人は一瞬、見つめ合った。
「・・・あなたは翻訳部門にいると聞いたが。何でこんなことをしているんだ」
「それに言ってあるはずだ。こちらから取りに行くと」
「・・・・・・」
「・・・・・・もしかして、レティシアか?」
「・・・わたし、魔術師団では新入りなの」
「ダイエットにもなるからいいのよ。最近運動していないし」
クラウスは、アデレードをまっすぐ見つめた。
「だからと言って、さすがにこれは、あなたのやることではないだろう」
「だいたい、あなたが魔術師団に入るなんてどうかしている。聞いたときは耳を疑った。魔力もまともにないあなたが・・・」
「わたしはちゃんと働いているわ」
「そういうことじゃないだろ・・・・・・張り合うのもいい加減にしろよ。魔術師団で、あなたがレティシアに敵うわけないだろう」
「は、張り合う?レティシアと?」
そんなつもりで入ったんじゃない。
そこまでイタイ人間ではないつもりだ。
でも、クラウスには、そう見えていたのか。
「わ、わたしはマティアス王子に言われて・・・」
「何考えているのか知らないが、馬鹿なマネはやめろ」
クラウスはアデレードの目を見据えた。
「・・・俺にはっきり言ったらいいじゃないか。レティシアと付き合うなって」
「え?」
(何を言っているの)
「じゃあ、わたしが別れてくださいって言ったら、そうしてくれるの?」
「・・・ああ」
クラウスの顔は真剣だった。
「本当に!?」
そんなことがあるのだろうか。
「あなたが、この場で俺にひざまずいて懇願するなら」
「ひざまずいて懇願・・・」
アデレードは固まった。
ここは往来だ。周りに人だっている。
しかも、地面は昨日の雨でまだぬかるんでいる。
ここで跪いたら、服は泥だらけになるだろう。
「ほ、本当に別れてくれるの?」
「ああ」
クラウスは黙ってアデレードを見つめている。
「ひざまずいて懇願・・・」ーーーー固まったまま、身体が動かない。
「・・・クラウス、お前いい加減にしろよ」
見かねたのか、ラッセルがクラウスに言った。
はっと、クラウスは我に返ったような顔をした。
「と、とにかく、その盾を貸せ」
クラウスは、アデレードから力づくで盾を奪い取った。
「残りは、すぐに部下に取りに行かせる」
★★★
「レティシアには注意しておいた。俺の許可なくアデレードを使役するなと言っておいたから」
研究所に戻ると、マティアス王子が言った。
ゲルダから報告を受けたらしい。
《ーーーマティアスさまの影に隠れていなければ、ご自分では何もできないのかしら》
レティシアの言葉が蘇る。
「ありがとうございます・・・でも、大丈夫です。あのくらい、自分で運べます」
「あのなあ。そんなことさせるために、お前を入れたわけじゃない」
「騎士団側も早かったな。俺が説教している最中に来て、全部持っていったぞ」
「・・・途中で、クラウス副官と会ったので」
「ああ、そういうことかーーーーなあ、俺はクラウスは好きじゃない」
マティアス王子は、アデレードの顔をじっと見た。
「好きじゃないって言われても・・・」
「どこがいいのか知らないが、毎回、お前にそんな顔させるなんて、ゴミすぎるだろ」




