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4-5

 僕の眼前には目を丸くして驚く美人姉妹二人がいた。

 片方は今日の十一時に待ち合わせをしていた紗希さん、もう片方は絶賛無視をされていて気まずい相手である姉の汐莉こと伊東だ。

「い、今井さんが『カオル』さんなの!?」

「うん、申し訳ないけどそうなんだ」

 取り乱す紗希さんの問いにはっきりと答える。

「い、今井! どういうことなのか説明して!」

「僕とは話してくれないんじゃなかったのか、伊東」

「そういうのいいから説明して!」

 こっちとしては、火曜から金曜と無視され続けたことに対する不満を述べたかった。おかげで鬼崎から「え、今井くんフラれた!? ウケる!」と散々イジられたし。

「ほんとに強引な奴だなぁ……。まぁ、いいや。簡単に言ってしまえば、囮捜査みたいなことをさせてもらったって感じかな」

 この一週間、慣れないSNSを懸命に使った。

 パパ活をしている大学三年生『カオル』を演じ切ることができた……と思う。結果として、紗希さんはここに来てくれたわけだし。

 月曜日の話し合いで紗希さんのアカウントは把握していた。僕は鴨のフリをして彼女に接触して、何とか今日の約束を取り付けることができたのだ。

「騙してたんですねっ……!」

「それについては本当にごめん。だけど分かって欲しかったんだ。紗希さんが考えるほど単純な男ばかりじゃないし、こうやって巧妙に嘘をつく奴もいるってことをさ」

 SNSで見ず知らずの相手に会うということはこういうリスクがある。自分が主導権を握っているつもりが、実は相手に握られてしまっていることだって大いにあり得る。

「……いい勉強になりました。おかげでこんな風に時間を浪費することになったんですから。で、今井さんは何の目的でこんなことを? 状況は前と何一つ変わってませんけど? また平行線の水掛論をしますか?」

「そうよ、今井! これじゃあ、この間と同じじゃない! あたし達にもう関わらないでってお願いしたでしょ!」

 そんな姉妹揃って捲し立てないでほしい。本当に似た者同士だ。

 お互いが家族のことを想って行動して、それで自分自身を蔑ろにして、それがまた一方の家族を傷つけて奮起させる原因になってしまって。

 こんなにも優しく愛に溢れたすれ違いを僕は知らなかった。

「――僕の家はさ。母親が死んでから完全に崩壊しててさ。父親との関係は冷え切ってて。家族っていう箱の中に、仕方なく二人の人間が収まっているみたいな感じなんだよ」

 二人は面食らった顔をしていた。それはそうだろうな。いきなりこんな身の上話をして「何言ってんだ、こいつ」状態だと思う。

 だけど、僕の想いを言葉にするにはこのプロセスはどうしても必要だ。

「そんな経緯もあって家族なんて紛い物だと思ってたし、家族ですらあっさり壊れてしまうんだから、その他の人間なんてもっと信用できないと考えてた」

 ……そう、つい最近までは。

「でもさ、伊東家と関わるようになってから思い出したんだ。今は終わってる僕の家にも『そういう時間』はあったことをさ。失って、初めて気付いて。その時間の尊さが分かって。とにかく伊東家が眩しくて仕方なかった」

 すでに鼻声になっており、せめて泣くまいと必死に目頭に力を入れる。もし目の前に鏡があったら不細工な自分の顔が映るに違いない。

「だから、これは僕のエゴだけど、自分勝手な理屈だけど、伊東家には今のまま仲良くいてほしい。二人が色々と考えているのは分かるけど……第三者目線それは間違っていると思う」

 最後の言葉に対して、姉妹二人はキッと目を鋭くしてこちらを睨んでくる。

 そして、何かしらの反論を口にしようとしているのが見て取れた。

「……けど、他人の僕がどうこう言うべき問題じゃないこともちゃんと分かってる」

 危ないところだった。

 この言葉を口にしてなかったら姉妹双方からの『口撃』があったに違いない。二人は僕の言葉を受けて、喉まで出かかっていた言葉を引っ込めた様子だ。

「何が言いたいかって言うとさ。僕は自分の父親のことなんて一ミリも信じられないけど、世の父親が全員そうじゃないって当たり前のことを伊東家に教えてもらったから」

 僕は自分の父親が嫌いだ。だけど、伊東家の父親なら信じることができる。

「――ということで、お願いします。お父さん」

 ポケットからスマートフォンを取り出して電話を掛けた。

 十秒もしないうちにドタドタとこちらに足音が近づいてくる。

「貴様にお父さんと言われる筋合いはない!」

『パパ!?』

 自分で解決できないなら誰かを頼る。

 今まで出来なかった当然のことを実践してみた結果だった。

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