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【8作目】人間嫌いだからって、天使が好きなわけじゃない  作者: あぱ山あぱ太朗
二章 隣席のオオカミ系女子を攻略せよ
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2-4

「なんだ汐莉の友達なのか! てっきり彼氏だと思っちまったぜ!」

「ええ、まぁ……はい」

「だから、友達じゃないって」

 なんとか誤解が解けて、伊東父はフランクに接してくれるようになった。あと伊東の指摘に関しては聞き飽きたのでスルーをする。

 今現在、僕は伊東家の食卓を囲ませてもらっていた。眼前には机いっぱいに並べられた晴子さんの手料理。大皿に載せられた手作りのコロッケ、豆腐のチャンプル、カボチャの煮物といった料理が机を埋め尽くしている。

 そして、手元には炊き立てのご飯とキャベツの味噌汁。本当に至れり尽くせりだった。

 自分で料理をしていると人が作ってくれた料理の有り難みが分かる。それに家族五人分の食事を作るのは大変だ。

 そうだ、五人といえば彼のことを忘れてはいけない。

「えと、拓也くん。急にお邪魔しちゃってごめんね」

 伊東の弟、末っ子で中学二年生だという拓也くんに声を掛ける。

 これくらいの年齢だと、姉の知り合いってのは距離感が分からなくて困るはずだ。ここは歳上の僕からコミュニケーションを取ってあげないと。

「お邪魔などと軽率に口にするな。渦巻く宇宙の星々の如く、私と君の運命は既に重なっているのだから。万物はあらゆる可能性を秩序ある形で組み合わせて創造されている。君が私に対話を求めることもまたその一部だ」

 伊東の弟は、まるで劇中人物のような芝居がかった物言いで応じた。

 当然だが何を言っているのか理解はできない。

「拓也は最近ずっとそんな感じだから話し掛けても無駄だよ」

 すかさず姉がフォローする。うんざりとした様子だった。うん、中学二年生なんてこんなもんだよな。ここまでじゃないけど僕にも覚えはあるし。

 ……それに、だ。この言い回しにはどこか既知感があった。

「拓也くん『漆黒の覚醒者』って分かる……? 何だっけあのキャラ、狂人のフリをしてるけど実は行方不明になっていた最強の魔法使いみたいな」

 正式名称は『漆黒の覚醒者~最強魔法使いと最弱召使い~』だったかな。

 厨二病全開タイトルとは裏腹に中身は本格的なダークファンタジー。それこそ中学生の頃に好きだった作品で、ちょうど今アニメをやっているはずだ。

「レン・ヴィルヘルム!」

「あーそれそれ! じゃあ、やっぱり?」

「うん! え、兄ちゃんも好きなんだ!? アニメ見てる!?」

「いや、僕は原作の方で読んでるんだけど」

「あ、そうなんだ! いいなぁ、学校の図書室には置いてなくて……」

「良かったら貸してあげようか? 一応、全巻あるはず」

 シリーズものは一度手を出したら完結まで買い続けるのがモットーだからな。

 たぶん初版で(初版に拘りたい)全巻揃っていると思う。

「マジで!」

「え~悪いわよ、玲和君」

 歓喜の拓也くんとは対照的に心配そうな晴子さん。

「いえ、近所ですし大した手間でもないので」

「ほんとごめんね~? 本は良いけど拓也はしっかり勉強しなさいよ~。それと玲和君にちゃんとお礼しなさい」

「ちゃんとやるって! ありがと、兄ちゃん……!」

 普通に話してみたら年相応に素直でいい子だ。

 本のジャンルには拘らないので、思いがけ無いところで共通点があって良かった。

 ……置き去りにしてしまった伊東の方にチラッと目をやると、「弟を懐柔してもアンタと友達にはならないからね!」と言われ、机の下で足を蹴られる。

「――ありがとな、玲和。俺はそういうのに疎くて、拓也の話し相手になれないんだ」

 そんな様子を静観していた伊東父がおもむろに口を開く。

 伊東父は見かけによらずフレンドリーで、人との距離を詰めるのが上手かった。いきなり呼び捨てで名前を呼ばれたのに嫌な感じがしない。

「いいえ、そんな! 大したことじゃないですよ、お父さん」

「貴様にお父さんと言われる筋合いはない!」

 しかし、こういうところは面倒だった。伊東さんって呼ぶわけにもいかないからってだけで他意はないんだけどな。娘への溺愛っぷりが凄まじい。

「えーとじゃあ、お名前を教えてもらえませんか」

「伸治だ。気安く『伸ちゃん』と呼んでくれ」

「…………伸ちゃん」

「馴れ馴れしいぞ、貴様!」

「どっちなんすか!」

 とりあえず愉快な人であることは分かった。

 僕はあまり礼儀がなってないので、これくらいフランクな方が接しやすい。

「お話もいいけど、お箸が止まってるわよ~みんな」

「あぁ、すみません!」

 そうだった、せっかくの料理が冷めてしまったら申し訳ない。

 先程から目をつけていたコロッケに箸をつける。

「コロッケ、うまっ」

 思わず言葉が漏れてしまった。実質一人暮らしのような生活をしていると、揚げ物なんて面倒でやらないからな。揚げたてのコロッケとか久しぶりに食べる。

 サクサクした衣、じゃがいもの甘さ、絶妙に混ぜ込まれた牛ひき肉の良質な油、その全てが調和して、口の中にじんわりと広がっていく。

「でしょ、うちの料理は最高なんだから」

「何でお前が得意そうなんだよ」

 どこか得意げな伊東の顔は憎たらしくあるが、見ていて嫌なものではなかった。

 仏頂面の伊東が見せる意外な表情ということもあるし、何よりも家族のことを想っているという愛情深さが垣間見えたから。

「そうよね、汐莉が作ったわけじゃないのに~。家庭科で赤点取るだけあって、料理に関してはからっきしなのよ、この子~」

「今時、料理なんてできなくても問題ないし!」

「そんなんじゃ、お嫁に行けないわよ~」

「いいんだぞ、汐莉! 料理なんてできなくて! ずっとウチにいていいからな!」

「……うん、ちょっとは練習する」

「何でだ!?」

 伊東家の家族は大騒ぎだった。――なんか、こういうの懐かしいな。

 僕には眩し過ぎて直視できない。こんな光景がずっと続いてほしいと祈ってしまう。

 一時的ではあったが、こういう場に立ち会うことができて嬉しかった。

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