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2,だてにあの世はみてねーぜ

 ドナドナが聞こえてくるような昼下がり。

 私が出会ったのは徘徊する元紳士風の死者そして、でっかい美女だった。

 3人は仲良くなり、ひとつ屋根の下で身を寄せあった。

 すると生まれた子供は大きく育ち桃太郎という名前をつけることになりました。

 次回予告。

 明日はどっちだ。


 だてにあの世はみてねーぜ。

 というか絶賛あの世で鬼と徘徊中だったりする。

 見える景色は空だけ、相変わらず夕陽よりも血にちかい色の空だ。

 風もなく、空気は澱んでいる。

 やはり死者たちに囲まれているからだろうか、少し臭いがきつい。マジでキツイ。

 現在私の身体は首から腰までの胴体と片腕を女の死者より譲り受けた状態。

 少し気になるのは元々何色だったのか分からないレベルに汚いフード付きパーカーのもう一枚中にはキャミソール。そのさらに奥には緩やかな谷間が見える。ふむ。

 やや褐色で小ぶりで慎ましいそれはあってもなくてもそこまで気にならない、そう気にならない。体幹はスポーティーで、細いながらに中身が詰まっている感じだ。

 ボディを手に入れたら、呼吸がもどり、発声が可能になった。というメリットもあったけれど、デメリットとして、臭いを感じることになった。

 どうやら、色々と破損していたけれど、嗅覚は壊れていなかったようだ。

 良い臭いなるものが、この地獄にあるとは思えず、こんな機能なら働かなくても良かったのにと思わずにいられない。


 ドンブラコであったり、ドナドナであったり。運ばれていくだけの無情さ、不条理さを表現するなら後者かもしれないけれど、そうだね運命がどうなっていくのか考えるのは、あなた達鬼どもからしたら滑稽だろうよ。

 なとど鬼どもに悪態の一つでも付けたらまだ良かった。

 笑ってくれて良い。私は死んだというのに、このあとどうなるか分からなくて手は震え、胸の鼓動は止まっているのに、ゆっくり締め付けられているように感じる。端的に言えば怖い。

 将来の不安に震えることは生きている人、生きようとしている人の特権だと思っていたが、そんなことはなかった。

 死んでからだって同じだ。地獄に落ちてもそこは変わらないらしい。

「お前なんていらん。糞と一緒に流されてしまえ」

 頭のなかでもう一度リフレインした。

 あの時の事が私の記憶であり記録で、コンテキストだとすると死んでそのしがらみや関係を絶ちたいと考えたのかななどと、空に消えてくまで考えてみたが何も起こらない。もしそうだったとして、今その考えにとらわれてしまっている私を生きているときの私がみたらさぞ辛いことだろう。


 どれくらい経ったのだろうか、ドサッという音とともにこれまでずっと続いていた、揺れが収まり、鬼の姿が見える。

 どうやら、地面に私たちが入ったカゴを置いたようだ。

 全く気づかなかったけれど、鬼は他にもカゴを持っていたようで、そのあと2つほどのカゴを地面に置くような動きがあり、先程聴いた音がした。

 すると、話し声が聞こえてくる。

「シリアルナンバーを発言ください」

「1451ー1506」

「続いて、素体群領域ナンバーを発言ください」

「2029ー1011」

「認識完了。ただいま領域検索中です少々お待ちください。」

「ご苦労様です。相変わらずかい?」

「ええ、特に変わったことはありませんよ」

「この年は本当に多いらしいね」

「結構大きな戦争してるらしいってのは聞いてますね」

「我々にとっては悪くはないけど、閻魔様とか基本ワンオペだから最近不機嫌らしいよ」

「素体の量が増えてるのは、こっちにくる人数が多いってのもあるが、ちゃんと下調べが行き届いてないからとりあえず地獄送っておけば安心って考えらしいです」

「雑だな」

「カテゴリーZが減るのはこの戦争のおかげなのかもしれませんよ」

「いやいや、前回の大きな戦争の時は瞬間的にとても増えたよ、大体欠損有りの問題有りだったし」

「でも全体としては減ってたらしいじゃないですか」

「そうなのか、それは知らなかった」

「おっと、検索終了したようです。データ転送しますね」

「10分もすれば、終わりますかね?」

「3カゴ分だから30分かからないくらいでしょう。違う場所に捨てなきゃいけない規則ですからね」

「守ってるのはあなたくらいなものかもしれませんよ」

「ああ、うん。だからこそ守り続けてるんだ」

 話だけを聴いてると私を運んでいる鬼は律儀な性格らしい。誰に見られているでもないのにちゃんとしている鬼だ。どこかで報われてくれれば嬉しい。

「どうです? このあと、一緒に人間の足をツマミに一杯」

 さっきの言葉は嘘だ。即時前言撤回。こんな恐ろしい言葉が同じ口から出るとは思わなかった。この鬼畜めが。

 こんな鬼どこまでいってもただの鬼だ。うんうん、そういう文化もあるよね! 多様性を受け入れよう!この場でそのセリフを言えた奴には拍手を送ってその手でぶっ叩いてやる。

 私には人間の足をツマミにしようとする文化なんてちょっと理解てきないし、したくない。

 やつを敵と認定。

 それがホモ・サピエンスとしてのパーソナリティーだろう。

「やめておくよ、嫁の機嫌が最近悪いからさっさと帰って一緒に料理したりしたいんだ」

 門衛が良いやつだった。仕事もあって嫁もいて、なんなら今晩子作りってか。

 いいぞ、もっと君の幸せってやつを見せてくれ。私も君のためなら祈りのひとつも捧げよう。

「それで、新鮮な人間を捕って帰りたいんだが、一匹くれないか?」

 はい、また即時前言撤回。ここまで恐ろしい言葉がこの世にあるとは、同じやつの口から出てきた言葉とは思えない。この鬼畜め!

 すると、カゴのなかに巨大な手が入ってきて何人かの人間を鷲掴みする。

 必死に手を隣のやつに伸ばし、押すようにして身体を端に移動させることに成功し、間一髪で回避できた。そして隣のやつが捕まってしまった。目が合ったように感じる。やめてけろ。

 私にの耳を勝手に交換したやつが連れ去られて行ったので、私の耳はきっとあの鬼に食べられてしまうのだろう。

「廃棄するのも変わらないし、特に規則もないですし、どうぞ」

「役得だな」

 はははーなんて笑っている。

 全く笑えない状況だ。

 駆逐してやるみたいなモチベーションはないが、食べられるのは嫌だ。



 しばらくドンブラコとドナドナされていると、さらに臭いがキツくなってきた。というのも恐らく、廃棄場所なるものは我々死者たちがより集まった場所で、特殊な臭いの集まる場所ということだろう。

 揺れと合わさり吐き気がヒドイ。まぁ出るものの無いので内蔵が上下に動いているような感覚と体液が喉を熱くする感覚だけが周期的にやってくるだけなのだが、これがなかなかキツい。

 2度ほど停止したかと思うと、生ゴミをまとめてゴミ箱に入れたような音とともに死者たちの呻き声が大きくなる瞬間があった。

 棄てられたんだろう。なら次は私たちのカゴか。

 吐き気を押し込むように生唾を飲み込む。

 少し揺られていると、突然遠心力が掛かり振り回されるように転がったと感じた次の瞬間には浮遊感があり、世界が回転した。

 洗濯機に放り込まれたらこんな感じなのかもしれないななどと、暢気に思っていられたのも痛みを感じないからだ。

 世界が静寂を取り戻したので、どの辺りから転がったのかと思い見上げてみると、およそ10Mは転げ落ちてしまった。


 どうやら大きな穴に落とされたようだ。

 見回してみると穴の形状は中華鍋のようになっていて、脚があれば何とか登って脱出できそうな形をしている。

 完全に機能が停止した死者たちはズルズルと転げ落ちていって下の方に集まっている。

 よく目を凝らして下を見ると、鬼と私たち以外でははじめての他の生物を発見した。

 全体像としてはムカデのような姿をしているが頭の方は人間のそれだった。

 上半身は女で下半身がムカデ。

 良い顔面をしている。端的に言って美しい。

 また、長く艶やかな後ろ髪は乱れているということもなく、まっすぐに肩で前と後ろに分けられ揺れている。

 上半身だけなら近づいてしまいたくなる妖艶さで、誘い出されてしまいそうになる。

 などと見惚れていたら、口ではなく人間らしい腹の部分がバガァっと開き、死者を飲みこもうとする姿が見えた。

 下腹部で人体を咀嚼する姿があまりの異形さで全身に鳥肌がたち、寒気がする。

 下を見てまだ大丈夫だなんて思ってはいけなかった。

 距離にしておそらくは50〜100M位だが、なぜ見えるのかというと、彼女、いやあの化け物は通常の人間の倍くらいの大きさがあるからだった。

 あまりに美しい女性の上半身に恐ろしく不似合いな下半身と大きさにより距離感がバグってしまっているのが原因か。


 アニメや漫画ならここで、あいつを倒して脱出だとなりそうだけれど、どうしたって関わりたくない。無視を決め込むのが良いだろう。バレないように脱出だ。

 さて、脱出するにしたって、脚のない私がおよそ10Mの高さを登るというのは現実的ではない。

 死んでるから疲れないとかそういうことではなく、物理的に厳しい。90度の壁は特殊なスキルをもった戦士でも難しいだろう。

 「アティアーどこにいるんだい」

 英語ではっきりとそう聞こえた。上の方から降りてくる死者の足取りは良く、五体も揃っていた。

 他にも同じく五体満足の死者はいるんだけれど、どれも動きを止めてしまっている。

 動いているのはこいつだけだ。

 童顔で短髪、鼻の下には立派な髭を生やし生前は威厳を必要とした人だったのだろうと想像できる。例えるなら若い頃のレオナルド・ディカプリオくらいには髭が似合っていない。

 ボロボロでパッと見分からないけれど、おそらくスーツを着ていたのだろう、靴もはいている。

 こちらも一部靴底が取れかけており、相当な距離を歩いているようだったが、今でも革靴で彼の歩行を助けている。


 言葉を使っていたので、コミュニケーションをとれるかもしれない。そうすれば、協力してここから脱出することも可能かもしれない。

「すみません」

「アティアー」

「すみません、聞こえてますか?」

 見えていないし聞こえていないのか、素通りされてしまった。

 やっぱり無理なのか・・・諦めてあの美しい化け物と仲良くなったほうが現実的なのか、などと諦念を悟り始めた頃。

 「アティアーどこにいるんだい」という声が上の方から聞こえてきた。


 彼は同じルートを延々と周り続けていた。私は『アティアー』という人を探してるんだろうと想像する。

 延々と、愛する人を探し続けなければならない、見つからない悲しみを背負い続ける彼の姿はまさに地獄を体現しているかのようだった。

 むしろ、他の意識なんてほとんど失ってしまっているような死者たちは良いのだろうか。

 完全なバカになった方が実は幸せだったりするんだろうか。知らないを知らないままであったら楽だったりするのだろうか。


 彼の通るルートまで這っていく。下りながらの方がいくらか楽だったので、半分は転がりながら、半分は芋虫のように前進する。

 アティアーと呻いている顔は近くで見ると、泣いているようにも見える。気のせいだろうか。

 彼の行く道の前に立ちふさがり、いや、立てないんだけれど。

 声をかけてみる。

 やはり応えは帰ってこない。そこで彼の足にしがみつき、ずるずると引きずられ、倒れている亡者の間を縫うように進んでいく。

 彼と2周してみたが、特に新しい情報はなし。

 何とか誘導して外に出られるようにはならないか。

 3週目高い位置で気付いたことがあった。

 現在の位置からムカデ美女をの背後は少し坂が緩やかになっている。

 よじ登らなくても、この徘徊おじさんを操作さえできればここから脱出できそうだ。

 何とかして、彼を乗りこなしムカデ女の向こう側へ行けないものか。

「アティアーさんとやらはこの外なんじゃないか?」諦念を抱きながら落とした独り言に反応したレオナルド(仮)さんが初めて視線をこちらに向けた。

 その目は「どこだ?」と問い詰める強さがあった。生命を感じた。なんて陳腐な描写であろうか、でも間違いなく。

 彼の足を悪意をもって引っ張り転ばせ、反対側に見える登れそうな坂に顔の横から指をさして「あそこから外に出れる」と言うと。

 立ち上がり、歩きだした。私はそんな彼の首に片腕を回しておんぶされる格好で一緒に動き出した。

 坂の向こうに向けて。歩きだす。


 さて、どうしよう。

 ムカデ女の目の前で立ち尽くしたレオナルドにくっついていた私は窮地に立たされていた。

 確かにあそこからまっすぐ反対側の坂に行こうとしたらムカデ女さんと正面から向かい合う形になるけれども、けれども! めちゃくちゃこっち見てくるし。何も言ってこないし、こんな怖いにらめっこ知らない。

 とにかく会話を試みようそれしかないし、それしかできない。

「こんにちはー調子はどうですか?」

「アティアー」

 レオナルド今は黙ってなさい。

「お前らなんでここにいる」

 とりあえず、レオナルドを無視してくれた。

「なんでって、こっちが聞きたいんですが、分かることだけ言うと連れてこられました」

「ふーん」

 ふーんですって。何? あまり興味なし?

「向こうの坂を上って外に出たいなと思っていて」

「そうなんだ(笑)」

 そうだよ。でもなんか上から目線で美しい女性ムカデに冷笑されてドキドキしてしまう。心臓は止まってるけど。

「ダメだよ」

 やっぱりダメか。とはいえ、話はできている。いきなり食べられなかったのはなぜだ。

「どうしたら通してもらえますか」

「アティアー!」

 突然レオナルドが動き出した。とっさのできごとで腕を離してしまい、振り落とされてしまった。

 そして、レオナルドが食べられた。

「レオナルドー!」お前のことは忘れない。

 

 よし、今のうちに隠れることはできないかな。

 桃太郎がきび団子一つで服従させていく過程はブラック企業的であり、やりがい搾取の最たる例として語り継がれてきた説。

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