飴玉がななつ。
キョウカの提案で、私は村を見て回ることになった。ホープはお留守番らしい。研究、というものの続きをしたいんだそう。
今は2人並んで村へと歩いていた。
「ここの道も実際は村の1部なんだけどな。あんまりにも研究所が遠すぎて、そんな感じしないんだよなー。」
キョウカの話に耳を傾けながら歩いていれば、草木だらけだった視界が急に明るくなった。開けた場所に出たと思えば、そこには家が広がっていた。その光景に声を漏らすと、キョウカが私の顔を覗き込んでくる。
「想像してた村と違っただろ?」
「…あ、いえ。村自体、あまり知らないので…。」
「あぁー、そっかぁ。」
苦笑を浮かべて「ごめんな」と謝ってきたキョウカに、慌てて大きく首を横に振る。何故キョウカが謝るんだ。と問いかけてみれば、
自分も昔分からなかったのに、当たり前のようにユキに物事を聞くのは違う。と答えられた。
私はよく分からなくて首を傾げる。
「まぁ、村っていうのはあの町より小さい集まりみたいなものだよ。本質は町とは変わんなくて、そこで買い物とか学校とか、住む場所を確保して各々好きなことをするんだ。」
「町という集まりは、大きいん…ですか?」
「まぁそこそこってとこじゃないか?集落。村。町。市の順番で大きい集まりになるから、上から大体2番目だな。」
へぇ、と声を零せば、「まぁここで暮らしてく内に常識的なことは勝手に覚えてくよ」と笑ってキョウカが話す。それに相槌を打つように笑みを返すと、ポツポツと人が見えてきた。
思わず足を止めると、「怖いか?」と声がかけられる。
「……いえ、大丈夫です。」
「無理はしなくていいからな。駄目そうなら、また別の日に…」
「大丈夫です。」
キョウカの声を遮っても、私は大丈夫だと伝えたくて繰り返し強く「大丈夫」と伝える。2回目でわかってくれたのか、キョウカは私より1歩先を歩いて行った。その後を続いて歩いてくと、男性の声に呼び止められる。
「お嬢ちゃん、新入りかい?」
50代ぐらいのガタイの良い男性だった。思わず体を縮こませそうになるが、それでは何も変わらない。と自分に鞭を打ち込んで背筋を伸ばす。
「は、はい。初め、まして。」
今までで1番途切れ途切れになった気がした。自分の予想は当たっていたようで、男性はガハハっと大声を上げて笑うと私の背中に手を優しく添え、何か緑色の物を私に持たせる。反射的に感謝を述べると、優しい声色の低い声が鼓膜を震わせる。
「んな緊張すんなって。おじさんが大きすぎてビビってんのか?」
「え、いや、そんなことはない!……です…。」
「まぁまぁ。これやるから、次会った時は目を合わせて話してくれよ?」
そう言われて、ようやく私は目を合わせられてないことに気がついた。「すみません…」と謝罪を述べれば、男性はまた笑って「謝る必要は無い」と返してくれた。
「悪いな、今忙しくてゆっくり喋れなくて。」
それだけ言えば、男性はさっさと別の場所へと向かっていった。今までずっと離れた場所で私と男性のやり取りを眺めていたキョウカは、苦笑を浮かべながら私の方へと近づく。
「相変わらずだな…佐々木さんとこのおっさん…。」
「佐々木さん、ですか?」
「さっきのおじさんだよ。佐々木トミオ。この村1番の農家だ。」
農家とは何か聞くと、私が今持ってる野菜やお米というものを育てる職業のことらしい。朝早くから重労働で、とても大変なお仕事なんだとキョウカは説明してくれた。
「…凄いですね。そんな、人のために何かできるなんて。」
「仕事は誰かのためにやる事だからな。俺も、生きてた頃は居酒屋で働いてたよ。」
キョウカも前は働いていたらしい。私はその話を聞いて心から尊敬した。
私も、誰かの役にたつことが出来るのだろうか。
誰かのために、お母様みたいに
「ちょっとアータこっち来て!!」
キンっと思考を潰されるような高い声が響いたかと思えば、私は誰かに手を引っ張られて建物の中へと引きずり込まれた。