飴玉がむっつ。
お互い軽い自己紹介を終えると、ホープはここの村のことについて教えてくれた。
ここは、あの町に面した山の奥にある小さな村。何かしらの事情があって、ここに住むようになった人が殆どだという。みんなそれぞれ助け合って、協力し合いながらここまで長いことやり繰りしてきた。とホープは話した。
そんな話を聞いてから、私はずっと考えていたことがあった。
「私がそんな村に居続けるのは良くない。」
あの町から離れようが、私が悪魔の子であることに変わりは無い。村の人達を思うのならば、即刻ここから離れるのが最善だ。
ホープの話を聞きながらそんな事を考え、話し終わったタイミングで私は口を開いた。
「ありがとうございます。色々と教えてくだ、さって。」
頭を下げながら感謝の言葉を綴ると、ホープは明るい声色で「いいんだ」と返す。その表情は随分と柔らかくて、どこか安心する笑顔だった。だから、私はそこから離れようとベッドから立ち上がる。
ホープの視線を感じながら、私は町中に置いてあったテレビの真似事をしてみる。足を揃え、手を体の前で添えて最後にニッコリ。と笑みを作った。
「私はもう帰ります。すみません、こんなにしていただいて。」
ホープから発せられる短い声を流し聞きしながら、私は逃げるようにドアノブに手をかけようとする。だが、その掴もうとした手はドアノブを空振り、代わりにドアが独りでに動いた。
下に行っていた目線を上へとあげると、大きな瞳と目が合う。
「……ユキ、もう行っちゃうのか?」
低い声だった。キョウカの逃がさないと言いたげの目線と見つめ合うと、気まずそうな途切れ途切れの「あー…」という声が静寂を破る。
「ユキに深入りするつもりは無かったが、まぁ、なんだ。帰る場所とか、行く宛てとかはあるのか?」
ホープのその問いかけに、私は黙ったまま首を横に振った。すると、正面にいたキョウカからため息が聞こえる。
癪に触っただろうか。と不安を感じると、首の後ろに腕を回され、グッとキョウカとの距離が縮まった。
「まぁそうでしょうね。悪魔の子を受け入れてくれる場所なんて、町の近くじゃここぐらいしか無いしな。」
「で、ですが、宛はなくても…。」
「現実そう甘くはないぞ。」
「そ、れ、に。」と私に回してる方の手とは反対の手で1を作れば、リズムに合わせて小さく震わせてみせる。
「せっかく来たんだ。俺もユキとは色々話したいし、ちょっとここで疲れた体を癒してもいいんじゃないか?」
ダメだ。迷惑がかかる。
そう言葉を紡ぐ前に、キョウカからトドメを刺されるように声を遮られた。
「誰も迷惑だとか思ったりしねぇよ。」
心を読まれたように感じ、思わずキョウカの顔を見る。キョウカは優しい顔をしていた。
「わかるよ。俺だって最初はそうだった。
ここにいたら、街の人達に危害が及ぶ。平和なこの村を、俺のせいで壊す訳には行かない。だから離れよう。
……ユキもそう思ってんだろ?」
小さく首を傾げながらそう問いかけられ、私は素直に頷いた。それを見れば、キョウカは「やっぱり」と歯を見せて笑う。何がそんなに面白いのか、よく分からなかった。
「安心しな。アイツらは、町の奴らに殺されるほど脆くねぇよ。」
その言葉を最後に、キョウカは腕を離した。
「で?ユキはこれからどうするんだ?」
「これ、から……」
私の中で、何かが動かされたような気がした。
この子が本当に、私の前代悪魔の子なのか確証はない。
それでも、あの声に縋りたい私がいたのだ。
「ここに、いたい。」
本音を絞り出せば、2人は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「……です!」
今度は、吹き出して笑った。