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ヴァースの町  作者: れな
3/10

飴玉がふたつ。

ドンドン。ドンドン。


鈍い音が、何度も何度も辺りに重く響く。その音を出している本人が、四角い建物の扉の前にいた。

キョウカは肩まで伸びた黒い髪を揺らしながら、浮いている事を利用して何度も扉を蹴りつける。

相当な物音を立てているのだが、腕の中で眠るユキは起きる気配などなかった。


「おい!!ホープ!!おいコラ出て来いや!!」


その見た目の愛くるしさとは反面に、乱暴な言葉を使って「ホープ」という人を呼ぶ。建物の中から微かに怒鳴るような声が聞こえると、勢いよく外と建物を隔てる扉が開かれた。


「おーまえマジでうるっせぇな。いい加減幽霊だからって好き勝手騒ぐのやめてくれよ。」


中から出てきたのは、濃い紫色の髪をした男性。羽織っている色褪せた深緑の白衣を着直すと、キョウカが抱えるユキの存在にようやく気づく。


「俺と話してたら急に気分が悪くなったみたいでな。悪いけどホープが診てくれ。」

「お前ここを病院って勘違いしてねぇか?」


腕を前にやると、自然とユキがホープと呼ばれた男性に近づく。その様子を見てホープは愚痴を吐くように言うが、3秒ほど間が空くと、小さくため息をついた。


「真ん中の1番奥の部屋だ。あそこなら、ある程度の物は揃ってる。」


親指を建物の奥の方向に指して、連れて行けとキョウカに視線で伝える。それを汲み取ったキョウカは、段々と明るい表情になり、最後には満面の笑みを見せた。


「さーっすがホープ!そう言ってくれると思った!」


フワフワと浮かびながらも、跳ねるように奥へと移動すると、すかさず後ろから「あんま揺らすな!!!」と怒鳴りつけられてしまう。その声量に少し体を縮こませれば、今度は大人しくゆっくり移動した。



部屋のベッドにユキを寝かしてやると、そのタイミングでホープが同じ部屋に入ってくる。


「二度と患者連れてくんなよ。」


すれ違い様に睨みをきかせながらそんな事を言われたが、キョウカは次もあるとしたら連れてくる気満々だ。そんな睨みの1つ程度でやめるほど、彼女は素直ではなかった。


ユキをホープに任せて部屋を出ると、大きな菓子袋を持ったピンク髪の少女の姿を見つける。反射的に「リイカ」と名前を口に出して呼びかけると、少女は大きなスカートを舞わせながらこちらを振り向いた。


「あれ、キョウカじゃーん。もう帰ってきたの?」

「まーちょっとトラブルがあってな。」


目の中の花柄が特徴的なその少女は、キョウカの曖昧な返事を聞くと「ふーん」と興味のなさそうな返事を返す。キョウカがお菓子について聞くと、2人で食べるんだと返ってきた。


「昨日来たコノハさんと意気投合しちゃって。これからお茶をするんだ〜。」


小さい身長によく似合う可愛らしい笑みを浮かべると、軽く片手を振り別れを告げる。

13年ほど前にやってきたリイカと、つい昨日現れたコノハ。2人はキョウカと同じ死者であり、幽霊だ。


「んー…。コノハさんと話してみたかったけど、リイカが先客でいるし、また今度でいいかな。」


独り言をいつも喋る調子で口にすれば、さっき姿を消したばかりのリイカが一瞬だけ頭を見せた。

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