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あおむし王子とわるい魔女(2/3)


 それはちょうど三十球目のことだった。


 王様いぐあなが尻尾ですぽーんと打ち上げたかめ玉は、ゆっくりとした放物線を描いてドアノブにぶつかる。ガタンとノブに硬い甲羅が当たり、その反動でゆっくりとドアが開いた。


 おおおお、父上、やりましたね!


 薄く開いたドアに向かうと、かえるの体であれば通れそうなくらいの隙間はある。喜びでぴょんぴょんと飛び回りながら外に向かう。


 最初はなんとか椅子を動かそうとしていたのだが、椅子が重いせいか、かめがあまりにのろまなせいか、しばらく悪戦苦闘してみても一ミリくらいしか動かなかったのだ。そこで作戦を変えた。丸くなった従者かめ達を王様いぐあなが尻尾で打ち上げて、ドアノブにぶつける。飛ばされるかめ達は悲鳴をあげっぱなしだったが、王様は意外と楽しいようで、ぽんぽんとテンポ良く尻尾で跳ね飛ばしていた。ドアノブに当たった時には、短い手でガッツポーズをしていたくらいだ。


 アリスさまー! ご無事ですかー!?


 私はぴょんぴょん飛んでアリスさまの寝室に向かう。アリスさまの寝室は一階のリビングの奥だ。アリスさまに運んで貰えば一瞬なのだが、かえるの体で自力で移動するには遠すぎる。はあはあと息を切らしながら部屋に向かうと、幸い、彼女の部屋のドアは開いていた。


 アリスさまー!


「うるさいわね、なにごとよ」


 アリスさまあー!


 無事なお声が聞こえて、私は思わず泣きながら叫んでいた。アリスさまはどうやらまだ寝台に横になっているようだった。ドアのところからはよく見えないのだが、彼女の声は寝台から聞こえる。私は必死にベッドの近くまでよじのぼり、なんとかアリスさまの金髪が見えるところにまで移動した。


 彼女はこちらに背を向けるようにして、毛布に包まるようにして横になっている。


 アリスさま、お風邪が辛いのでしょうか? お熱は? お薬は? お医者さまは近くにいないのでしょうか? お食事は召し上がれました?


 私が必死に話しかけると、アリスさまはこちらに顔を向けないまま、カーテンの隙間から窓の外を見るようにした。時間を確認したのだろうか。もしかしたら今までずっと眠っていたのかもしれない。アリスさまの白い手が顔の周りの髪を払ってから、くるりとこちらを見た。寝起きのアリスさまのお顔に、どきんと心臓が鳴った。どこか潤んだ青い瞳に鼓動が早くなる。


「ちょっと寝すごしただけよ。それよりどうやって部屋を出たの?」


 それは王様いぐあなのナイスショットで。


「ナイスショット?」


 そんなことより、アリスさま体調は? 昨日より少しは顔色が良くなったようにも見えますが、まだお辛そうに見えます。少し頬も赤いですし、お熱はまだあるのではないでしょうか。大丈夫ですか?


 私の言葉にアリスさまは自分の手を額にぺたりと当てる。そして小さく首を傾げて体を起こそうとしたので、私は慌てて首を振って横になっているようにと訴えた。


「少しは熱も下がったと思うわ。お腹すいた?」


 とんでもない! 私たちの食事などお気になさらず。それよりアリスさまは何か召し上がれましたのでしょうか。お水は? お薬は? 


「別に食欲もないからいいわ」


 そう言ったアリスさまの寝台の周りには空になったグラスが置かれているだけだ。水はいつから飲まれていないのであろう。アリスさま、少しだけお待ちを! お水を汲んで参りますので!


 私はそう言って、ぴょんぴょんと跳ねて寝台を降りる。


「いいわよ別に。もうしばらく寝ておくから邪魔しないでくれたら」


 ええ、ええ、もちろん。邪魔など致しません! ゆっくりとお眠りください。


 医師など呼びたくても呼べないのだろうし、もしかしたら薬など置いていないのかもしれない。一年間はここにいて、アリスさまが体調を崩されるのなど初めてのことなのだ。本当に昨日よりは顔色が良くなっているようだったが、それでも眠るのが一番の静養になるだろう。


 私は必死に跳ねてキッチンへと向かう。


 幸い、アリスさまが井戸から水は汲んでいる。大きな桶に垂らしてある紐をするすると降りて、私のためにアリスさまが作ってくれたマグカップに水をすくう。そしてこぼさないようにゆっくりと彼女の部屋まで運んだのだが、アリスさまの空のグラスにその水を入れても数滴分にしかならない。あと三往復ほどしたのだが、それだけでへとへとになっていたし、それでもグラスの底に水を張ることすらできなかった。


 だいたい部屋からキッチンへと移動するだけでカエルの足で何分もかかるのだ。距離というよりも寝台に登ったり炊事場に登ったりとアップダウンがすごい。アリスさまがお目覚めになるまでに、アリスさまに飲んでいただけるほどの水が貯められるだろうか。


 そんなことを考えながら、なんとも言えない気分でグラスを見つめている私に、眠っているはずのアリスさまから声がかけられた。


「……ねえ、フローそれ本気でやってるの?」


 急に声をかけられ驚いて飛び上がる。


 アリスさま! 申し訳ありません、起こしてしまいましたか!? 


「いえ、あなたの行動が不可解すぎて最初から眠れないのだけど」


 ええ、ずっと見ておられたのですか? 


「馬鹿じゃないのかしら。別に私は動けるのだから、水が飲みたければ自分で飲みに行くわよ」


 それはそうかもしれませんが、ですがゆっくりとお休みになるからには出来れば動かずに眠っていて欲しいのです。


「あなたがそこでバタバタやってる方が眠れないわ」


 そう言われて、私はしゅんと小さくなる。


 それはそうかもしれない、とは思う。何かアリスさまの力になりたかったのだが、だが、今の私に出来ることはほとんどない。悔しさに涙を滲ませていると、アリスさまは上体を起こした。


 そして何を思ったか、私を摘んで床に放り投げる。


 きゃああああ、アリスさま、いきなり何を? そんなにお邪魔でしたら失礼します……ですが心配ですのでできれば部屋の前で見守っていることだけは許していただけるでしょうか。


「うるさいわね」


 アリスさまはそういうと、何故か手にステッキを持っていた。そしてそれは私に向けられる。


 えええ、なんだか分からないですが許してくださいー!



 

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