かえる王子と爬虫類たち(1/3)
『 ——わしは、国王である。
そう言うと皆、ふんと鼻で笑い飛ばすか、世にも気の毒なものを見るような視線を向けてくる。だが、それは紛れもなく事実なのである。
嘘だと思うのなら、我が国の系図を紐解いてみれば良い。
わしの先祖を遡っていけば、素手で獅子と戦いを挑んだと言われる有名な獅子王や、国を大きく羽ばたかせたいと白鳥を第五王妃に迎えた白鳥王にぶつかるはずだ。もっとも、系図を紐解くことができるのは—— 』
ちちうえちちうえ、それもう私がやりました。
私の言葉に、椅子の上からイグアナがぎろりとした瞳を向けてくる。
赤いベルベット生地のクッションに埋もれるようにしながら、堂々としたドラゴンのようなお姿で椅子に鎮座するお姿は、まさしく玉座に座る国王さながらである。どこから持ってきたのか、頭に小さな王冠まで乗せていた。完全に手下になった魔法使いとかげが、かいがいしく世話を焼いているから、彼が見つけてきたのかもしれない。
王様いぐあなは首をぐるりと回した。
『子が何人いるかは知らないが、わしにかえるの息子がいたという記憶はないのだが』
知らないのか、と私は複雑な思いになる。かえるの息子がいたという記憶があれば、もはや鼠王ではなく蛙王だ。さすがの父上でもかえるに手は出すまい。
ちちうえー、私です私、フランです。フランシス王子です。
『うーん、聞いたことがあるような、ないような』
ありますって。なんと私は父上の好きな王子ランキングで十位に入ったこともあるのですよー。
『そんなもの、去年は名前のアルファベット順で並べとるわ』
なっ、たまにあの変態アベル王子が一位になるのはそういう理由ですか!?
『一昨年は側近たちとくじ引きだ』
ううう、それ以上言わないでくださいー。ランキングに一喜一憂する王子たちの心を弄ばないでー。
それより父上、こんなところで何を?
『それはもちろん、世界一美しく妖艶だと噂の伝説の魔女を、我が妃にと迎えに来たのだ』
……おひとりで?
『供も連れていたが、道中で全員が迷子になった。まったくみんな美しい魔女に会えるからと言って浮き足立って困ったものだ』
全員が迷子になるはずがない。実際は美しいアリスさまに会えると浮き足立ちまくった父上の方が迷子なのであろう。とはいえ、いくら父上が脇目も振らずに暴走したとはいえ、仮にも国王を見失うとは全く役に立たない護衛に従者ではある。今ごろイグアナになっているとは知らずに血眼になって探しているであろう。
『しかし、まったく噂に違わぬ美しさだった。彼女を前にすれば、どんな絵師の描く美人画も霞んでしまうだろうな。あまりの眩しさに、美しい姫達を見慣れたわしであっても直視することが難しかったほどだ。あれが何百年も同じ姿をしていると言われる伝説の魔女とは、ああ、なんて美しい。彼女がわしの後宮に入るのか……』
ほう、と恍惚の表情をして言ったイグアナに、私はぶるると体を震わせる。
さすがに三十名もの妃を娶れば、そろそろ落ち着くのではないかと思っていたのだが、まだまだ新しい女性を追い求める衝動は健在らしい。もう墓場に片足くらいは突っ込んでもおかしくない年齢だと思うのだが、ほんの数年前にも王子が誕生しているのだ。
あんなことやそんなことを——などと妄想を吐くイグアナの口に、大量の枯れ草を突っ込んでやりたくなるが、いかんせん尊敬すべき父上であり国王ではある。そしてアリスさまをひと目見てしまったことで、彼女を求める欲望から逃れられなくなる気持ちも十分に分かるのだ。
彼女の美しさの前では、三十名の美姫たちなど霞んでしまうだろう。魔女というのが美しい生き物なのか、アリスさまが特別に美しいのか、それとも人の何倍も生きていることで魅力が深くなっているのか、理由はわからないが破壊的なまでの美しさが彼女にはある。
ちちうえ、アリスさまは私と! 私の姫になる予定なのですー!
『ふむ。今は誰のものでもないと。あの美しい人がひとりでいるなんて、ああ、なんて運命的なのだ。わしが迎えにくるのを、永遠の時を巡りながら待っていたのであろうか』
拒否された挙句にイグアナにされておいて、それでも運命を感じられるとは、どのような思考回路であろう。思い込みとは恐ろしい。




