かえる王子と王様いぐあな(1/3)
『——私は、魔法使いである。
そう言うと皆、ふんと鼻で笑い飛ばすか、世にも気の毒なものを見るような視線を向けてくる。だが、それは紛れもなく事実なのである。
何百年も同じ姿で生き、人智を超える力である魔法を使う。空を飛ぶことも、攻撃の衝撃波を放つことも、壁を修復することも、人をかえるに変身させることだってできる。
歴代の国王も密かに魔法使いを抱えていたのだと言われている。他でもない私も、魔法使いとして王に仕えたことがある。なんと三代もの国王陛下のお抱え魔法使いとして暗躍していたのだ。白鳥王に仕えていた時などには、美しい白鳥を探すのに奔走した。一年以上かけて国中から美しい白鳥を選んで選んで選び抜いて、国王の眼鏡に敵う白鳥を捕まえてきたのだ。陛下は白鳥を妻にすることにより国を発展させ——』
ぐるぐると壁を這い回りながらぺらぺらと話し続けるとかげに、私は正直に言って辟易していた。
アリスさまが仲良くねと言ったからしばらく我慢していたのだが、そもそもここはアリスさまと私の二人だけの愛の巣である。そこに全く美しくない中年男の魔法使いが、とかげになって乱入してきたのだ。そんなことが許せるはずも、仲良くできるはずもない。
というか、そもそもなぜ魔法使いに白鳥を探させるのだろう。白鳥くらいその辺の湖に行けばいくらでも飛んでいる。魔法など使わなくとも、子供にだって見つけられるのだ。
『それはもちろん、陛下が私の審美眼を買ってのことだろう』
つまりは魔法使いとしては無能だからか。
なんなら先日の彼の襲撃で屋敷の壁に開いた大穴は、実はアリスさまが開けたものらしい。彼が魔法で開けたのはほんの抜け道のような穴で、そこからこそこそ魔術を差し込もうとしていた男を見つけて、アリス様がソファに座ったまま攻撃したらしい。その壁を泣きながら修復させられていたのだから可哀相と言えば可哀相ではあるが、この調子では空を飛べると言っても数センチしか浮かないのではないだろうか。
そもそも一年もかけて白鳥探しに奔走させられる魔法使いが、国王に重用されていたはずはない。
『なにを! 人間……いやカエルの分際で!」
そういうあなたはとかげであろう。
『ふん、負け惜しみか。トカゲの方が随分と格上だと思うがな。私の方が大きいし尻尾も長いし足も速い。壁を這うこともできる』
なにを!
かえるの魅力がわからないとは審美眼が聞いて呆れる。このつるんとした美しい緑の肌に、流線形の美しいフォルム。赤く魅力的な口と、まん丸で愛らしい黒く濡れた瞳。アリスさまだってこの姿が私に一番似合うと言ってくださっているのだ。
『ふふ、さすが馬鹿王子。見た目だけで中身のない台詞だな。私の肌は硬い鱗で覆われ、この長い尻尾はものにぶら下がることも囮にして逃げることもできる。そしてこの足は壁どころか天井を這うことすらできるのだ!』
ちょろちょろと壁や天井を這い回りながら言ったとかげに、私はぴょんぴょんと跳ねてみせる。私にはこの跳躍力がある。みよ、この美しいジャンプと美しい姿を。
だが、とかげは優越感に満ちた瞳で私を見下ろしてくる。
『いくら飛んでも私に近づくことはできまい。負け犬の遠吠えだな』
とかげはそう言うと、ちょろちょろと天井を這ってドアの隙間に尻尾を入れる。ドアが閉められていても、とかげは外に出られるのか、と私はショックを受けた。
待て、どこに行くんだ?
『ふふふ、この体ならアリスに気付かれずにどこでもいける。屋敷から逃げだすことも、魔法のステッキを取り返しに行くことも、浴室に忍び込むことも——っておっと違った違った』
慌てたように首を振ったとかげに、私ははっと息を飲む。
これからアリスさまは湯浴みをして就寝する時間なのだ。一度、彼女の着替えを覗こうとしたためか——その時は罰として部屋に猫を入れられたため一日中死にものぐるいで逃げ回った——彼女は湯浴みの時間になるとドアを閉めるようになった。
まさかそれが狙いか!?
『せいぜいそこで指でも咥えて、貧弱な妄想力で彼女の裸を妄想しているがいい』
な、自分は直接目に焼き付けられると言いたいのか? 待て! そんなことは許さない!
ぴょんぴょんと飛び回るが、止めることはできない。とかげは挑発するかのように尻尾を振ってから、狭い隙間にすっと消える。
アリスさまのあられもないお姿が、中年男のとかげ魔法使いに舐め回すような視線に晒されるなどと考えたら——ぐぬぬぬぬ、それだけで憤死しそうである。
気づけば怒りからか妄想からか、鼻血を噴き出しながら倒れていた。私の妄想力は貧弱どころかベストセラー作家が束になっても敵うまい。




