『それでも』の少女
それでも死にたいと思った。
家族がいて、
友達がいて、
恋人がいて、
わりと人生もうまくいっている
それでも、死にたいと思った
少女がいた。
空はとても 晴れていて
曇り一つない 青い空に
ビルの一番上に ぽーっと立って
ふんわり 白いスカートを なびかせている
その少女は、
ゲロを見つめるような目で
下の行き交う人々を見ている。
何もかも うまくいっている。
傍目からみたら
どんなに 普通の 人間だろう。
それなりに おしゃれをして
きれいに 髪の毛を整えて
美容院にも 月一で行って
まぁまぁ裕福な 家に住んで
親しまれた あだ名で呼ばれ
何もかも 幸せのように見えた。
でも実は
心の中はゲロまみれだ。
たくさんのものを 飲み込んできた。
吐きそうなものを 飲み込んできた。
出したい言葉を 飲み込んできた。
なんども なんども 心を潰して
もう 吐き出すものも なくなって
逆に 清々しい気分だ。
こんな 晴れた日になら
なんだか爽やかに死ねそうだ。
ひとつ、ひとつ 足を前に出して
落ちるまで あと一歩。
風が強く吹いて
ぐらりと 世界がひっくり返った。
そこは 大きな 海みたいな空
どこまでも青く澄んで
まるで天国 みたいに見えた。
白い鳥が イルカのように跳ねた。
そこから 真っ暗になって
体も潰れたけれど
それでも少女は幸せだった。
すべて終わって やっと
本当の普通の人間に なれた気がした。