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歪蝕の檻  作者: 卯ノ仔午
1/2

【001】

初投稿です。

す い へ い …


 ___ドラマでもなく、本当に、一直線に。


 バイタルサインモニターが…


 「ま、…待って、いゃ、…直ぐにお兄ちゃん、来るから、待ってっ」


 泣いているのは自分だ。

母の臨終に際して、毛布にすがり付いて噎せいている。

 父の時には『覚悟しておいてください』などと言われ、それすら間に合わないほど早くに逝ってしまったのに、今の私の後ろ半分では『これで明日は出勤できるってことか』なんて考えている。


 (……これは、覚悟が出来ていた、ってこと?それとも現実逃避?)


 現実には泣きながらも頭の隅で、ある意味、『冷静な』自分を感じながら、看護師さん達が、時間を取り、器具を片付け始めて、言われるままに当座の死に化粧を手伝いながら、頭の中で動揺と理性とが交互に振り返して。その都度涙も波を起こす。


 (私って、人でなしな感じ?)

 (さっきまで生きてたのに、こんな簡単に『片付け』られちゃうの?)

 (店のシフトに入るには、何時にここを出れば…)


 「……っ。」


 (どうしてっ、おいていくのっ!)



 この数日は、断続的に雪が降り、2つ隣の市で暮らす私が仕事の合間に母に付き添うには、自分の睡眠時間を削るしか方法がなく、同社他店舗に勤める夫に自店舗の代打を頼みながらの日々だった。

 年末年始の間は小康状態だったが、この1か月の容体の悪化にもう残り時間は僅かだと知る。上司にはもう半月以上も前から万が一を伝えてあったが、上長は友好的な人物ではなく、現状を知らせていない。そして、上司は上長にはそのことを話していないのだろう。何の配慮も無かった。


 (いつものことだ。キレイごとを言う口はあっても、それは配慮があってのことじゃない)



 たった半日前。


 「ちょっと、容体が安定しなくて、明日って吉野さんはどうかな?」

 「え~、私はだめです。」

 「そうなんだ、朝番さんは、えーと...」

 「.............」

 「赤城くんと...あぁ~...」

 「.............」

 「...も、いいわ」


 店でいつも大きな顔でシフトに口出しをしてくるリーダー格の吉野さんは、自分の定休が消えないように無言を通し、そのまま私が折れたのを聞いて電話を切った。


 (いつも、私の心配ばっかりしていた母は、もしかして私のために今、逝ってしまったんだろうか)


 明日は出勤しなきゃならなくなっていた。協力する気の欠片もないスタッフリーダーの協力が得られなくて。

 意識不明だった母が、そんな訳はないけど、『だから、私をおいて逝ってしまったんだろうか?』と思うほど、見事なタイミングだった。

 家族の都合で会社に迷惑をかけることを良しとしない母だったから。


 兄が病院に到着し、私に『付いててくれてありがとう』と言った。

 母を連れ、実家に戻ったのは深夜近く。葬儀の打ち合わせを済ませ、仕事のために自宅に着いたのは午前2時を回った。


 「...おかえり」

 「...ん...」


 旦那に葬儀や仕事の連絡・相談をして自分の寝部屋にたどり着く。


 (...寝れるかな...)

 (...寒い...)

 (昨日は、まだ、『明日』があったのに。...覚悟?実感?なんだよ、それ?!)


 「...ふ...ぅ...」



 「おはようございます。私事ですが、昨日、母が死去しました。葬儀は2日後に予定しています。その日の私の代わりは甲田店の店長に来ていただくようにお願いしてありますので、何かあった場合は指示に従ってください」


 なんとなく喉を詰まらせたような様子のスタッフを眺めて、手早く連絡事項だけを伝え、その日の業務に入った。

 もう母が危ないとずっと言っていたのに、なんでそんな反応なんだろう?まるで『え?本当だったの?』って言っているように見える。まるでTVの向こうにいた殺人犯が自分の目の前に現れたような、現実に追い付いていない表情にムカついて胃が縮む思いがする。



 六曜の関係で葬儀は月曜になった。


no music, no life

そう思ってたさ、若いころは。ってね

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