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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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姫騎士ユージン


二年前までは、自分がテレビに出る事など考えたことがなかった。


芸能人なんてものは見る物としか思っていなかったし、世間に注目されるような突出した技能もない。テレビなんてものはあくまで画面の向こう側の自分の住む場所とは別の世界、そんな認識だった。


それの認識が変わったのは二年前、エルネストで地域リーグからC2へ昇格した時だ。

新規昇格チームとして初めて番組に出演し、画面の向こうの世界は俺にとっての現実の世界へと変わった。


といっても当時は番組の1コーナーの小さな扱い、それ以降も出演することはあってもエニシング・エレメンタラーズのような精霊機装リーグ戦専門の番組は殆どだった(ミズホはもう少し出ていたが)。


だから事務所でトップリーグが出ているバラエティなどを見たときに、いずれは俺達もこういうのにでるのかねぇなどと冗談交じりでミズホ達と話していたものだ。


それはもしかしたらいずれ現実になるかもしれないが、なるとしてもそれは大分先の話。そんな認識だった。


そ・れ・が。


一日で4つも番組収録ですよ。

しかもその殆どが総合的な情報番組。老若男女問わず見るような番組で、精霊使いが出るにしてもトップの精霊使いか芸能活動をやってるような人しか出ないような番組ばかりだ。


一気にはじけ過ぎだろう。これまでの生活との差で心が風邪を引きそうだ。


今も番組は収録中。時計が16時を少し過ぎたあたり、3つ目の番組の生放送のスタジオに俺達はいた。


今出ているのは、今日の収録番組の中で一番視聴者の多い人気番組だ。スタジオやスタッフの数も多い。


だが、これまでの収録の中で一番安心できていたし、一番よく喋れていた。


もう朝から3つも収録に参加しているのだ、いい加減に慣れた──と言いたいところだが、メインの理由はそれではなく別になる。


その理由はこの収録に参加している精霊使いと番組の内容にあった。


安心できている理由は精霊使いのメンバー構成だ。


今この場にいる精霊使いは7人。うち3人は俺とその左右に座っているミズホとレオ──エルネストのメンバーだ。残りは銀髪で眼鏡をかけた痩身の青年、人型のドラゴン(そうとしか言えない)、そしてまだあどけなさの残る二人の美少女──秋葉ちゃんと金守さんだった。


アズリエルのメンバーである。ちなみに竜人がロイ・アルバで痩身の青年がカレリ・パストロという名前だ。


そう、まず単純に人数が多いからその分注目を受けづらいのが一つ。もう一つが秋葉ちゃん達の存在が大きい。


彼女達二人は昨シーズンにデビューしたばかりにも関わらず連戦連勝の話題のルーキーだ。


だがこれまで彼女達は試合後のインタビューを除いてメディア出演は殆どない。


これは彼女達が俺以上に時間の制約がきつい(俺みたいに泊りはおろか、あまり遅くなることもできない)上に、年齢もまだ幼いことからチームの方が制限しているという話だったが……その二人が今日は参加しているのである。


そりゃあインタビュアーの方もできるだけ彼女達を喋らせようとするでしょう、ええ。おかげで前2つの番組に比べてこっちに話を振られる事が少なくて助かってる(一つ目はうちのチームのみで、二つ目は浦部さんと一緒だった)


ちなみにこういった番組が初めての秋葉ちゃんは明らかに緊張が見て取れるが、金守さんの方は全くそんな様子も見れず普通に流暢に司会の男性に対して受け答えしてた。何なのこの子、まだ中学生でしょ? 倍近く長い時間を生きてる俺がわりとあたふたしてたというのに。


そして、もう一つのよく喋れている理由。これは番組の内容にあった。


「……というわけで、アルバさんが道を切り開いてくれて、ウチのレオが深淵の核を押さえつけてくれたので、俺としてはそこに一撃打ち込むだけだったんです」


丁度喋り終えた俺は、自分の腰が椅子から浮きかけているのに気づき、ゆっくりと座りなおす。喋るのに夢中になって、少し熱くなり過ぎていたらしい。冷静になって周囲を見れば番組スタッフさんちょっと呆気にとられてたりもする。まぁこれまでのメディア出演は率先して喋る事なかったしな。


だけど今日だけは話が別なのだ。


今日の話題は、先日の事件の対深淵戦に関して。映像が残っているとはいえかなり望遠でのもののため詳細がわからない戦闘の流れについて、当事者たちに話を聞くという奴だった。


誤解を訂正する絶好のチャンスである。


そういう経験した人間の中にはわかる人も結構いると思うんだが、本来自分の手柄ではないことでほめたたえられるっていうのは結構キツイ。俺個人的にはその逆──手柄を認められない事よりも全然しんどく感じるのだ。


ええ、だからこの話題に切り替わってからはとにかく喋りましたとも、ええ。真実をね!


というか現実問題、救出者を連れて撤退したパストロさんを除けば一番引いた位置にいた俺が一番戦況が見えていたので適役なんだよね。


結果この話題に突入して以降他の出演者も途中で多少は口を挟むものの、大体は俺の独演場になってしまった。思い返すとちょっと恥ずかしいし。後で番組とか見返すと身悶えする羽目になりそうので絶対に見ないことにするとして、これは必要な事だったのだ、仕方ない。


「ユージンさん、非常に詳細な説明をありがとうございました」


ヒートアップした俺が落ち着いて口を閉じたのを見て取り、進行役の男性アナウンサーがにこやかな笑みで俺に向けてそう告げる。


彼は俺の喋りに熱が入ってくると、無理して話題に介入するでもなくただ話が冗長になったり逸れないように誘導するのに務めていた。聞き手としてプロだと思う。


その彼が、続けて俺に向けて声を掛けてくる。


「しかし、正直ユージンさんはどちらかというと大人しい方というイメージがありましたので、少々驚きました。やはり精霊使い、熱い所は持っておられるのですね」

「あはは……ちょっと熱くなりすぎちゃって申し訳ないです」

「いえいえ。身振り手振りもいろいろと入れて頂いて、熱さと共にその動きの可愛らしさで視聴者の皆さまも喜んでいただけているのではないでしょうか」


うっ……

確かに話の途中から大分身振り手振りを入れて話すようになっていた。


ただこれに関しては、今の姿になってからではなく昔っからの癖なんだよなぁ。

当然それに対して可愛いなんて言われたことは全くないが(もう少し落ち着けと言われたことはある)、外見が今みたいになるとそういう風に取られるんだな……


というかこれ視聴者にわざとやってると思われてあざといと思われない? 大丈夫? 今俺ネットで叩かれてない?


……今気にしてもしょうがないな、それよりもだ。


「えっと、とにかく今回の一件は皆さん大活躍でしたよ。俺は最後の一撃を入れるだけでよかったんで」


とにかくこれが言いたかった。嘘偽りない事実だし。これで後は番組終了までおとなしく──


そう思っていたら意外な所から横やりが入った。


「でもユージンさん、深淵の体にたくさん攻撃入れてましたし、そのせいか集中的に狙われてて。すごく大変そうでした!」


ごめん秋葉ちゃん、気持ちはありがたいけど今は俺に対するフォローはいらないんだ。というか評価を下げるのが目的なので。俺は苦笑いがこぼれるのを何とか抑え込みながら、閉じるつもりだった口を再度開く。


「確かに結構狙われましたが、それからはレオとラムサスさんが護ってくれてましたからね。不安はありませんでしたよ」


その言葉に、今度は金守さんが反応した。

彼女はクスクスと笑いながら


「まるでお姫様みたいですね」


お姫様て。


「ほう、それはどうして」


あ、ちょっとまってアナウンサーさん、なんでそれに喰いついたの!?


「いえ、今の言葉がまるで自分を護ったナイトを褒め称えるお姫様のようでしたので。尤も敵を打ち砕いたのもユージンさんですから、さしずめ姫騎士と言ったところでしょうか?」

「成程、確かに」


納得しないで!?


「さしずめ物語のタイトルとしては姫騎士と七人のナイトと言ったところでしょうかね?」


何言ってんだ銀髪眼鏡、というかその人数だとちゃっかり自分を外してるな?

あとぼそっと「お姫様コス……いいわね」とか言ってるんじゃねぇミズホ、着ないからな!?


「以上、今週の一押しニュースのコーナーでした。姫騎士さんとナイトさんありがとうございました──CM後は……」


え、ちょっとまってそれで締めるの!? やめてよこれ暫く周囲から姫騎士さんちぃーっすとか揶揄われる奴じゃん!


だが俺の気持ちも届かず、アナウンサーが次のコーナーの案内を終えCMに突入した。あああ……


肩を落とし火元に視線を向ければ、彼女はフフッと外向けではない悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらを見ていた。


フフフ金守さん、話題性が最終的にこっちに流れてくるように最後の最後でぶっこみましたね?


覚えてろよこの野郎。









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― 新着の感想 ―
[気になる点] >誤解を招く絶好のチャンスである。  事実を伝えて、過剰な評価を止めさせようとしているのだから、  誤解を“訂正する”絶好のチャンスである。  なんじゃないかな? と。  誤解を…
[一言] ユージンちゃんは乙女ゲーヒロイン属性持ちだと思ってる。
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