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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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病院では静かにしてください


「ユージンさんおはよーっス」

「……ハヨー」


挨拶をしてくるレオに片手をあげて返事を返しつつ、俺は事務所のソファに身をうつぶせに身を投げ出す。


「……お疲れっすね?」

「うー……」


心配そうな声にも、呻き声しか返す気力がない。


「これやっぱりアレっすか?」

「ええ、病院の中で大変だったらしくてね」


続いての問いかけは俺ではなく続けて入ってきたミズホに対してのものだったらしく、ミズホが苦笑交じりに答えるのが聞こえる。


そう、あの後病院の中へと入った俺は酷い目にあった。


はじまりは、受付を終えた後に掛けられた一言の声だった。


「あれ……もしかしてユージンさんですか?」


声を掛けてきたのは、中学生くらいの小柄な少女だった。身長は今の俺よりちょっと高いくらい。そのため帽子を深く被った俺の顔も、正面から確認できたらしい。


大人しそうな女の子だったし人目がない所だったら頷いても良かったが、ここは割と人気の多い病院のロビーだ。一時期に比べて大分落ち着いたとはいえ、いまだそれなりに自分が話題の種になってしうことを理解しているので、俺はにっこりと笑みだけを返しつつ人違いと


「あ、本当だユージンだ!」


おいクソガキ!


少女の声を聴きつけたであろう小学生くらいの男の子が、そう俺の名を呼んだ。デカイ声で。

それが引き金になってスタンピードが起こった。勿論論理崩壊(ロジカルブレイク)が引き起こすものではなく、人間のだ。


子供の声でロビーにいた人間達の視線が俺に一気に集中、そして俺の存在に気づいた連中が一斉に俺に向って押し寄せ、瞬く間に俺は囲まれてしまった。


「ユージンさんだ!」「ありがとうございます!」「テレビ見ました!」「サインもらえませんか」「生で見ると半端なく可愛い」「いい匂いしそう……スンスンしたい」


周囲から、言葉の雨が嵐のように打ち付けられる。幾重もの声が重なり合いその全ては聞き取れないがいくつかは聞き取れた。


というかありがとうって何? 俺なんかしたっけ?

あとテレビってなんだ。アワードの放送か?

それと一番最後の奴だけは誰が言ってるかちゃんと聞き取ったからな。なんで毎回こういう奴が混ざりこんでるんだよ。


囲んでいる人間達に悪意は感じられない、むしろ好奇の目が含まれるもののその雰囲気は全体的に好意を向けられているとわかるものだ。


だが、それでも俺は恐怖を感じ始めていた。


何かをされそうだとかそういうわけではない、漠然とした恐怖。それは視界によるものだ。


俺の身長は成人としては女性の中でもかなり小柄な部類に入るレベルで、140cm代半ばというところだ。それに対して周囲を囲っている人間は老若男女そろい踏みで、一部の子供を除けば俺より頭一つ分くらいは背が高いのが殆ど。


なので、視界がまるで通らない。多少の理性は残っているのか触れようと手を伸ばしてくるのがいないのは助かるが、それでも間近でいくつもの瞳から見下ろされて、しかもその向こう側がまるで見えないというのは非常に恐怖と不安を感じる状況だった。


そして更にいくつか、機械の音が耳に入る。パシャ、というカメラの音──気が付けばいくつものスマホがこちらに向けられている。そしてついには


「握手してもらっていいですか!」


一人の青年がそう言って手を差し出したのを皮切りに、俺の方へといくつもの手が延ばされる。

その光景にさすがに俺は身を竦め、


「やめ……」

「何をしているんですか! ここは病院ですよ!」


耐えかねて拒絶の声を上げようと瞬間だった。病院の中に凛としたよく響く声が響き渡る。

人の壁のせいで、その声の主の姿は見えない。だが一斉に周囲の人間達の視線が一方を向いたので、そちらにいるであろうことは分かった。


「病院は騒ぐ場所ではないですよ。静かに自分の順番を待ってください」


今度は先程より穏やかな、だがやはりよく通る声が聞こえる。


「あ、そのすみません」


その声で恐らくは陥っていた興奮状態が沈静化してくれたのか、最前列で俺に対して手を伸ばしていた青年が申し訳なさそうな顔で手を引っ込める。同様に冷静になってくれた何人かがスマホを取り出していた連中に視線を送り、そいつらは慌ててこちらに向けていたスマホを引っ込めた。


そして、徐々に薄くなり始めた人並みをすり抜けて、一人の女性が姿を現す。


「ユージンさんですね?」

「あ、はい」

「診察のお時間です。ご案内しますのでついてきてください」


30代半ばくらいに見えるナース服を身にまとったその女性は、そう言ってにっこりと俺に笑みを向ける。

それから笑みをそのままに、今度は周囲に顔を向けて


「ここでは皆一人の患者に過ぎません。こういった事はご遠慮くださいませ」


小さく頭を下げた。


……なんだろう、俺に向けられたとても優しさを感じる笑顔のままだし物腰も低いのになぜかすごくプレッシャーを感じさせる。


皆もそれを感じ取ったのだろう。周囲の人間は一人、また一人と、こちらをちらちら見ながらも元の位置に戻っていく。その様子を見て俺はようやく安堵のため息を吐くことが出来た。


「大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございます」

「それでは行きましょう。ご案内します」

「……いえ、ちょっとだけ待ってもらえますか?」


先導して歩き出そうとする看護婦さんを留め、周囲から離れてくれたとはいえいまだこちらをちらちらとみている人たちに向き直る。


「あの、すみません。こちらの方の言う通りここは病院ですし他の皆さんの迷惑になりますので、ここでは私はあくまで一人の患者として扱ってもらえると助かります。それと」


そこまで言って、俺は一人の人物の方に視線を向ける。さっきスマホを俺に向けていた内の一人だ。正直向けていた人間の顔は殆ど覚えていなかったが、彼は最前列にいたのでさすがに覚えているので標的とさせてもらう。


「写真をさっき撮られた方、消してくださいとはいいませんがネットに流すのはやめてください」


俺の視線を受けた青年は明らかにおどおどしているが知らん。俺はそう言い切ると最後に全体へと向き直りぺこりと頭を下げる。


とりあえずこんなものかな。


俺自身は別にこの世界で人気者になりたいわけではないが、精霊機装自体はやはりファンあっての競技だと思うし、俺個人としてはともかくチームとしてあまり評判落ちるのはよくないだろう。──以前囲まれたときは思わず逃げてしまったし、アレ以降も人の視線が集まる事は慣れないが、看護婦さんのお陰で少し落ち着くことが出来た頭でもそれくらいは思いつくことが出来た。


多分、無言で立ち去るよりはこの程度のフォローはしておいた方がいいだろう。いいよな?


正直知名度一気に上がってからほんの数ヶ月だし、その期間の間も出来るだけ人の多い所によらないようにしていたからよくわかんないよ……皆もう少し優しくして? と泣きごとをいいたい。


あと写真の件。これは単純に釘を刺しておきたかっただけ。言ったところで上げられる時は上げられるだろうけど、それでも言わないよりはましだろう。


「すみません、お待たせしました」

「ええ、それでは行きましょう」


視線はまだ感じるが、もう気にしない。ようやく落ち着きを取り戻した病院の通路を、俺は先導する看護婦さんについて歩きながらその場を離れた。


ちなみに。


実はこの時点ではまだ予約の時間ではなく担当の先生も空いていなかったので、俺はあまり外部の人間の近寄らない空いている一室へと連れていかれ、そこで待つ事となった。


どうやら彼女は婦長で、とっさの判断でさっきのように動いてくれたらしい。彼女の機転には感謝すうるしかない。


ただ空き室に着いた後、「大丈夫?」「怖かったわよね」「もう平気だからね」と腰を落とし視線を合わせてそう言ってくる彼女の態度が完全に子供に対するものだったんだよね……


ごめんなさいこんな外見だけど俺24歳なんです……







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