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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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その勘違いだけはマジでやめてください


『先輩、今週も土曜日は外出されるんですか?』


金曜日の業務の終了間際、会社で使用しているグループウェアの一機能であるチャットツールでそんなメッセージが送られてきた。送り主は二宮さんだ。


『怪我してるし、今週は大人しくしてるつもりだよ。日曜日は病院いくから出かけるけど』

『でしたらお見舞いに行ってもよろしいでしょうか』


はい?


というやり取りがあってから、あけて土曜日。


俺の部屋の中には私服の二宮さんの姿があった。


今週になって、年下の女の子がこれで三人目。男の姿の時だったら、急にモテ期が来たと勘違いしてしまいそうな状況だ。まぁ残念ながらこれは同性だからこそ起きていることであり、男の姿だったら全くありえないことというのが悲しい所ではあるが。


「顔を合わせるのは一週間ぶりですね、先輩。あ、これお見舞いです」

「ありがと。どうぞ、上がって」


差し出されたスイーツらしき箱の入った袋を受け取りながら、彼女を部屋の中へと招き入れる。


「お邪魔します。……綺麗に片付いてますね先輩」


昨日までは汚れてたとは当然口にしない。秋葉ちゃん達とは違って前日の連絡だったので、ゆっくり昨日片づけられましたので……そもそも物をそこら辺に放り投げるなという話だが、人間性別変わろうが何しようが染みついた生活習慣はそうそう変わらないんすよ。


いやちゃんと普段から週一で掃除はしてるから、そこまで酷くないけどな! 汚部屋じゃないよ!


……誰に言い訳してるんだ、俺?


「手を怪我されてるのでお掃除大変かなーっと思ってお手伝いする気で来たんですが、その必要なさそうですね」


二宮さんの言葉に、俺は左手を上げてギプスを見せながら答える。


「怪我って言ってもこれだけだからね。それほど生活は不自由してないよ」

「痛みとかは大丈夫ですか?」

「週の前半は結構痛かったけど、今はそんなでも。あ、そこ座って」


机の上に頂いた袋を置いて、俺は彼女に椅子を勧めながらティーパックを入れたカップに電気ケトルからお茶を注ぐ。


「ティーパックですまんね」

「いえ、そんなお気になさらず。あ、買って来たのシュークリームなので今食べます?」

「いいね。何個入り?」

「4個入りですね」

「じゃ、一緒に食べようか」

「えーと。それじゃ私も一個だけいただきますね」


そう言いながら、彼女は袋から箱を取り出す。

名前しか知らないけど、割と有名な高級チェーン店の奴だな。うちの駅の近辺にはないから、彼女の家の方で買って来たのだろう。


「小皿とかいる?」

「あると助かります。一気に食べるにはちょっと大きめなので」

「了解」


紅茶とスティックシュガーを彼女の前に置いてから、俺は冷蔵庫横の戸棚から小皿を取り出す。

そして振り返ると、二宮さんはきょろきょろと周囲を見回していた。


「? 二宮さんどうしたの?」


俺の言葉に、彼女は慌てて居住まいを正す。


「すみません、きょろきょろ見ちゃって」

「いや別にいいけど。何か気になる物でもあった?」

「そういうわけではないんですけど……ちょっとイメージしてたのと違ったので」


あー、成程。


はっきりとは言わなかったが、彼女は恐らく今の俺の外見からもう少し可愛らしい部屋を予想していたのだろう。だが俺の部屋は、当然性別が変わったからと言って模様替えしたわけでもないので男時代のままだ。衣類や一部の女性向けの日用品は増えているものの家具とかそういったものはそのままなので、彼女の目から見ると殺風景というか武骨に感じるところは多いだろう。


「私、あまり可愛いモノとか興味なくてさ。実用性だけで選んじゃうっていうか」


彼女の方に小皿を差し出しつつ自分も椅子に腰をおろし、そういう風に説明しておく。

実際にはあまり深く考えずに買っていたりするんだが、そう説明した方が納得しやすいだろう。

実際彼女も頷いて、


「そうなんですね。お洋服が中性的なのが多かったので、そういったのが好きなのかと思っちゃいました」


それで納得してもらえるんだったら、その理由でもよかったな。そう思いながら俺はノンシュガーの自分の紅茶に口を付ける。


「でも最近は先輩の服もだんだん可愛らしくなってきましたよね。何か心境の変化とかあったんですか?」


ぷぴっ


「きゃっ、大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫、大丈夫」

「私拭きますよ、先輩は座っててください」


慌てて空いている方の手を伸ばしかけてギプスを付けていることを思い出し動きを止めると、椅子から立ち上がった二宮さんがそう言って代わりにテーブルを汚した紅茶を拭いてくれる。


「ごめん、ありがとう」

「いえ。むせたんですか?」

「ちょっとね……ねぇ、そんなに着てる服の感じ変わった?」

「はい、可愛さ1.4倍増しくらいです」


その数字がどれほどのものなのかはよくわからないが、マジか。服に関しては基本的に中性的かもしくは大人しめな服を選んでいたつもりだったんで、人にそう言われるとダメージが……でも思い出してみれば秋物を買いに行ったとき、これの方が今の私に似合いそうだなとか思いつつ買ってた気も──いやいやいや、それもサイズの問題で選べる服が限られてくるからであって!


いや、きっと男時代の記憶との比較なのでは? 彼女たちの記憶の中では俺は以前から今の姿であって、男時代の格好のイメージとその改ざんされた記憶がごっちゃになって以前はすごい男のイメージになってるから、きっと今が可愛く見えてるんだな!


うんそうだ間違いない!


──でも逆にそうだとしたら、1.4倍って倍率は逆に低くない?


……うん、これ以上このことを考えるのやめやめ! 当時との比較で確定。


「それじゃ二宮さん、シュークリームたべよっか!」

「あ、はい。いくつ食べますか?」

「1個でいいです」


わりとでかいじゃんそのシュークリーム。2個以上一気に食べたら胸やけしそう。


それからしばらくは、シュークリームを口にしながら雑談に興じる事になった。


二宮さんは以前からゆっくりと俺と過ごしたかったらしく、お見舞いとはいえ嬉しいですと言ってくれた。

以前から懐っこいこだったけど、この姿になってからはさらに懐かれている気がするなぁ。まるで妹みたいな感じ……妹。


うっ、頭が。


いや覚えてるけどさ。


まぁそんなこんなでいろいろと話は弾み、気が付けば窓の外の空も赤みを帯び始め彼女の帰る時間となった。

途中まで送って行こうと伝えたが、手だけとはいえ怪我人だからとそれはやんわりと否定されたので、玄関のとこまで見送るにとどめることにする。


「今日はありがとうね、二宮さん」

「いえ、こちらこそ先輩といっぱいお話できて楽しかったです」


玄関で座って靴を履き、それからこちらを向きなおしてその言葉と共に頭を下げる二宮さん。


その頭を上げる途中、ふと彼女の頭の動きが止まった。

その視線は俺の背後のある一点に向けられている。


彼女の視線を追う。


そこには、透明な袋に詰め込まれた服があった。次の古着回収の時に捨てようとまとめておいた服だ。


男物の。


「あれ? 先輩一人ぐらしなんですよね?」


あ。

その言葉を聞いた瞬間、俺の頭をいくつかのキーワードがよぎる。


殺風景な男部屋みたいな自宅。最近服の可愛さが増している。怪我をした左手。部屋に捨てようとしている大量の男物──


「違うよ!?」

「違う? 一人暮らしじゃないんですか?」

「いやいやずっと一人暮らし! 別に今まで男と住んでて喧嘩したとかじゃないからね!」

「いや私そこまで思ってないですよ? てっきり弟さんでもいるのかなって」


しまった先走って余計な事を言った。


ええと、ええと、なんかごまかす方法。弟とかはバレた時に余計にややこしくなりそうだから、


「ほ、ほら私、ズボン系の服とか結構好きじゃない? だけどなかなかいいのが見つからなくてさ、メル〇リで小柄な人向けの男物とか買ってみたんだけど、結局合わなくてさ」


……厳しいか?


「あ、そうなんですか。確かに先輩のサイズだとちょっとそういった服はなかなか見つからないかもですね。今度よさげなの見かけたら連絡しますよ」


通った! 

というかそうしてもらえるのは普通に助かるな。二宮ちゃんいい子過ぎやでぇ……


しかしそれはそれとして、最近疑心暗鬼というか自意識過剰というか……とにかく考えすぎるようになってる気がする。気を付けないとな……。






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