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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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少女はあの子をいじりたい


結局あの後秋葉ちゃんはシャンプーから時間をかけてすすぎ、トリートメントとコンディショナーまで丁寧にやってくれた。更には


「アルトちゃん、背中も洗ってあげるね!」

「いや、さすがに体は……」

「背中は自分で洗うの大変だよね? 大丈夫お姉ちゃんに任せて!」

「……はい」


という流れから背中まで洗ってくれた。(ちなみに他の部分もやりたそうにしていたが流石にそこは自分で洗うと断った)


そして風呂から上がった今、秋葉ちゃんは相変わらず上機嫌のまま俺の髪をドライヤーで乾かしてくれていた。ただお姉ちゃんモードは解除されたようで、呼び方も元の村雨さんに戻っているので一安心だ。


さすがに人前であれは羞恥プレイがすぎる。


「ん、おっけーです村雨さん」

「ありがとう、秋葉ちゃん。助かったよ」

「いえいえ。それに」


秋葉ちゃんはそこで一度言葉を区切ってから、俺の耳元に唇を寄せ


「こちらこそ、とっても楽しい時間を過ごさせてもらいました。ありがとうございます」


そう、照れくさそうにささやいて、それからぱっと顔を離すと先に戻ってますねと言って脱衣所に扉を開けて出て行った。


まぁ、秋葉ちゃんが楽しめたなら何よりだ。俺もさっぱり出来たしな。


しかし湯舟に入って無いとはいえ暖かいお湯を浴びていたせいか、少し眠気が出てきたな。流石にまだ日も暮れてないし眠りにつくような時間じゃないけど、二人が帰ったら一時間くらいは仮眠してもいいかも。食事は二人が買ってきてくれたレトルト食品を起きてから温めればいいだけだし。でも、なんだか美味そうな匂いがするからちょっとお腹も減って来たような感じも....


ん、いい匂い?


あ、そうだ金守さんが料理を作ってくれてるんだった。風呂の中の出来事のインパクトが強くて忘れてた。


お風呂で体洗ってもらって、そこから上がったらご飯が出来てるとか、なんかちょっと夢を見ているというか非現実感がちょっとある。旅館とかホテルならまだしも、これまで俺以外がいることがなかった自宅の部屋というのがそう感じさせるのかな。


ともあれこれはちゃんと現実で、ご飯もきっちり用意されているようだ。今日ばっかりは二人の好意にありがたく甘えさせてもらい、優雅に過ごさせてもらおう。そう思いながら脱衣所を出てキッチンの方を見ると、丁度こちらを見ていたらしい金守さんと目が合った。


彼女は視線だけを動かして俺の姿を確認すると、ニコリと……いや、これニィっという擬音の方が似合いそうな笑みを浮かべる。


「あら、先程の服のままなんですね。可愛らしい寝間着姿を期待していたんですが、ちょっと残念です」

「いや可愛い寝間着とか、もってすらいないから……」


今の俺の格好はホットパンツに長そでのシャツで、さっき彼女達を迎えた時と同じ格好だ。

そもそも今答えた通り、今俺の家には寝間着自体がない。男時代に着ていた寝間着は当然サイズが合わないから早々に捨てて、今はダボダボのTシャツだけ纏って眠っている。さすがにそろそろ時期的に厳しいので寝間着的な物を買おうと思ってはいるが……


「でも今の格好も可愛らしいですよ?」

「それはどうも」


続いて送られた賛辞の言葉に関しては軽く流す。笑い方が露骨に揶揄ってるのが見え見えなんですよ。この子距離がある時はクールって感じだったのに、今はこういった表情を隠そうともしない。こっちが素なんだろうなぁ、秋葉ちゃんに対してはまたちょっと違う感じがするけど。


「つれない反応ですねぇ。そこはもっと照れるところでは?」

「君は俺に一体何を求めてるの?」

「おもし──可愛い反応ですよ」


言いかけた方にしても取り繕った方にしても、どっちも求め方としては大した差はない気がするんだよなぁ。

ダメだこれ、距離は縮まったけど信頼されたとか友人としての縮まり方じゃなくて、いじりがいがあるとかそういうのが前面に来てる縮まり方だこれ! ていうか言いかけて止めたのも絶対わざとだよね?


あかん、この話題は区切ろう。このまま反応してても楽しませる気しかしない。別の話題別の話題……そうだ、飯!


そう思って、俺はキッチンに入り匂いの元へと視線を向けて、そこで動きを止めた。


「どうしました?」


キッチンにあるテーブルの上には、いくつもの料理が並んでいた。どれも非常に美味そうではあるが……


「いや、多くない?」


全部で5種類? これ俺達がお風呂に入っている間に作ったの? それなりの時間入っていたとはいえ手際良すぎないか。


「冷蔵庫の中身、好きに使っていいと言われましたので。今日買って来たものを考えるとしばらくは料理はされないと思いましたので、ダメになりそうなものは全部調理してしまいました。まずかったでしょうか?」

「いやまずくはないけど」

「千佳ちゃん、家でも毎日料理してるらしいので美味しいですよ!」


いやうん、美味そうなのは見ただけでわかるけど分量がね。


「これ、秋葉ちゃん達も食べていく感じ?」


その問いかけに、首を振ったのは秋葉ちゃんだった。


「いえ、そろそろお暇しないといけない時間なので」

「あー、そうか」


窓の外を見れば、すでに辺りは暗くなり始めている。二人の家がどこにあるかは知らないが尾瀬さんの所よりは先なハズなので10分やそこらで帰れる距離ではないはずだし、確かにそろそろそうするべきだろう。今日食べきれない分はラップして明日の夕食にさせてもらえばいいや。


「送って行くといえないのが申し訳ないね」

「そんなことしてもらった方が申し訳ないですよ、お見舞いなんですから。それじゃ丁度いいし、千佳ちゃんそろそろいこっか?」

「そうだね秋葉ちゃん。あ、でもちょっと一個だけ確認したいことがあるんですけどいいですか、村雨さん?」

「何?」

「Youtubeか何かで配信とかされてます? でしたらチャンネル名教えて頂けたらなと」

「え、そうなの!? 私も見たいです!」

「何の話!?」

「マイク付きヘッドホンありましたし、PCにWEBカメラもついているので、されてるのかなと」

「してないよ!? あれは仕事用で会議とかで使うの!」


そしてWEBカメラはノートPCだからデフォで着いているだけで、使ったことなど一度もない。

金守さんは俺の言葉に対して残念そうに、


「そうなんですか……今の村雨さんが配信したらかなり登録者稼げそうですけどね、その外見でかつ男性のツボとか理解されていると思いますし」

「私も村雨さん配信してたら登録しちゃいます!」

「いやしないからね? そもそも俺は目立ちたくないし……」


いくら今の外見があってもそれほど甘い業界ではないだろうし、そもそも向こうでの知名度が必要以上に上がってしまった状況下ではこっちが安息の地なのだ。例えそれで稼げるとしてもやるという選択肢はない。


「目立ちたくないのでしたらバーチャルYoutuberとかは?」


バーチャルだと逆に今の外見が生かせなくなるから、猶更トークスキルとか必要になって難しくなるだけじゃない? というかどうしてそこまで推してくるのか。これ多分あれでしょ、実際やったら確実にコメントでいじりにくるよねこの子。


「とにかく、ないです」

「そうですか、残念ですが仕方ありませんね……まぁ聞きたい事は聞けましたので、お暇しましょうか秋葉ちゃん」

「うん、そうしよ。村雨さん、今日はお邪魔しました」

「こちらこそ、いろいろ助かったよ。ありがとね」

「えへへ、そう思ってもらえたなら良かったです」


そう言って秋葉ちゃんは身を翻すと玄関の方へパタパタと向って行く。金守さんもそれに続いて足を進めようとして、なぜかもう一度こちらを振り返ると顔を寄せてきた。そして、俺の耳元で囁く。


「今度は私もアルトちゃんってお呼びしましょうか」

「……っ、ちょっとそれ!」

「ふふ、それじゃ失礼しますね。まって秋葉ちゃん~」


改めてぱたぱたと秋葉ちゃんを追っていく彼女の背中を見ながら、俺は見送りに玄関へ向かう事もせず思わずその場で座り込みたい気持ちになっていた。


あああ、全部気づかれてたんじゃん!

弱みを握らせてはいけない相手に弱みを握られてしまった気がするぅ……


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