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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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お姉ちゃんと呼ばれたいっ


俺は今風呂場にいた。

風呂場なので、当然全裸である。


そして、さして広いとはいえない風呂の中にはもう一つ人影があった。

秋葉ちゃんである。

雨合羽を身にまとった彼女は、今俺の後ろで鼻歌を歌いながら俺の髪を湯洗いしてくれていた。


さて、なんでこんな状況になっているかを説明しよう。


あの電話から大体30分後、秋葉ちゃんと金守さんは特に道に迷う事もなく俺の住むアパートへとたどり着いた。二人とも恰好は私服。学校終わってから真っすぐこっちに来たという訳ではないらしい。そもそも秋葉ちゃんが高1、金守さんが中3で通ってる学校自体違うしな。


とりあえず無駄なダメージを受けつつも慌てて片付けた部屋の中に二人を招き入れ、買ってきたもらった食料品を感謝の言葉と共に受け取ってから飲み物でも出そう、としたら


「手を怪我してるんですから、場所を教えてくれれば私がやりますよ」


と金守さんに半ば強引に座らせられてしまったりはしつつも、しばらくは雑談に興じることになった。当然話題は日曜日の件だ。

何せあの時は襲撃以降ジェットコースターのような事態の流れだったし、事態解決以降も殆ど会話していない。なので自然と最初は事件の事に関する会話。それから事件前の話、こちらに戻ってきてからの話と徐々に話題はスライドしていく。


その途中で、秋葉ちゃんがこんなことを言い出した。


「そういえばお風呂とかどうしたんです?」

「タオル巻いてその上からビニール袋被せて入ったよ。ゴムで止めて」

「へぇ、濡れません?」

「案外大丈夫だね」

「でも洗うのとか大変じゃないですか?」

「手だけだからそれほどでも……まぁ髪と背中は難しいけど」

「ふーむ。あ、だったら私が洗いますよ!」

「はい!?」


そこから先、なぜか秋葉ちゃんが俺の髪を洗う事にすごく乗り気になり、とんとん拍子に話が進んでしまった。


そのまま髪を洗う前のブラッシングをし出す秋葉ちゃん。

なんとなく勢いに負けてその動きに従ってしまいつつ、止めてくれるのを期待して金守さんの方を見たら


「それじゃぁ私はお夕飯を作らせてもらいますね」


という言葉とにっこりとした笑顔と共にスルーされた。


というわけで今のこの状況である。


ようするに今うちの家ではキッチンで家族でもないJCが料理をしつつ家主(男)が裸でJKに髪を洗わせているわけで、字面だけを見ると通報されるか或いは世の一部の男どもに酷く嫉妬されそうな臭いが酷い。


まぁ家主(男)は外見は今は完全に女だし脱いでいるのも俺だけなんだが……秋葉ちゃんはソックスを脱いだ以外は濡れ防止に雨合羽来てるせいでさっきより防御力高いくらいだし。洗ってるのもあくまで髪だけだしな。


ま、髪を洗うのが面倒だったのは事実。男の頃の髪の長さだったならともかく今のロングヘアを片手で洗うのは中々に厳しいし、怪我人の補助に対してあまり意識しすぎるのも逆におかしいので、ここは素直に甘えてしまおうと途中で考え今は彼女の指に身を委ねていた。


シャンプー前の湯洗いをしている秋葉ちゃんの手つきは優しく、正直ちょっときもちい。目を瞑ったまま彼女の指にされるがままになっていると、彼女が後ろから声をかけてきた。


「村雨さん、前も思いましたけどやっぱり髪の毛綺麗ですよね」

「なんか性別変わった時に髪質まで変わったっぽいんだよね」

「へぇ、それはちょっと羨ましいかも、私少しクセっ毛気味なんで。あ、シャンプーもらいますね」

「ほい」


頷きを返すと、彼女はシャンプーをボトルを2回ほどプッシュして手のひらで泡立てていく。相変わらず楽しそうに。

何がそこまで楽しいんだろと、その様子がちょっと気になった俺は振り返り今度は俺の方から声を掛ける。


「あー、秋葉ちゃん」

「なんでしょう?」

「何かさっきから楽しそうだけど、何でか聞いていい?」


俺のその問いに、秋葉ちゃんは一瞬ぽかんとした顔をしてから、困った顔の笑みを浮かべる。


「あ、ごめん聞いちゃまずいことだった?」

「いえ、そういう訳じゃなくて……あの、ちょっと失礼な事を考えていたので」

「失礼な事?」

「私、末っ子なんですよ。それに、付き合いのある近い親戚も大体みんな年上で姪っ子とかいなくって。それで、その」


そこまでいって、秋葉ちゃんはちょっと言葉につまる。頬が少し赤くなっているのは風呂の湯気のせいかそれ以外の理由なのかはわからないが──言葉の続きを待っていると、秋葉ちゃんは観念したように言葉を続けた。


「あの、ですね。妹がいたらこんな感じなのかなーって気分になっちゃって」

「へ?」


妹?

妹ってあれだよな、年下の姉妹。俺が秋葉ちゃんの妹? 男なのに?


「あのあのすみませんっ。変な事いっちゃって。村雨さん全然年上なのにっ」

「いや、まぁうん。外見上は俺の方が年下に見えるし、気にしなくていいよ? でも妹っていったら金守さんは? 実際に年下じゃない」

「年齢を知らずに私と千佳ちゃんが並んでるとして、村雨さんはどっちがお姉さんだと思います?」

「……あー、うん、はい」


金守さんは言動がかなり落ち着いているし、言い回しも年相応らしくないところがあるので大分大人びて見える。それに対して秋葉ちゃんは小動物系で多分同級生とかからも可愛がられてそうなイメージが……うん、秋葉ちゃんが特別に子供っぽいというわけではないけど、正直にいってしまえば大抵の人間は金守さんの方を年上だと判断しそうだ。


あれ、ちょっと待って。金守さんにはそういうの思わないのに、俺にはそういう風に思ったってことは俺の言動は……?


いやいやいや俺24歳ですよ! 外見、外見だよね! 外見は完全に年下だよね、仕方ないよね!


「村雨さん……?」

「あ、うん。なんでもないです。今だけならそう思ってくれてても構わないよ」


思わず思考がふっとんで静止したたため俺に、秋葉ちゃんが心配げに声を掛けてきたのでそう返す。


「いいんですか?」

「うん、実際今はお世話してもらっているしね」


そうですよ。別にこれくらいの年の女の子がある種ちょっとだけ夢見るような感じた事に、過剰に反応する必要はないんです。むしろそのささやかな夢をかなえてあげるために乗ってあげる、それこそ大人のヨユーってもんですよ。


「なんなら、今だけお姉ちゃんと呼ぼうか?」


体を前に向け直しながら、背後の秋葉ちゃんに対してそんな軽口も口にする。まぁこれは冗談だ。秋葉ちゃんの性格上こういった事は気を使って否定して──


「オネガイシマス」


え?

なんだ!? なんか背後から急に強いプレッシャーを感じ始めたんだけど!?


「ヨロシクオネガイシマス」


えっと、お願いしますってつまり、


「そう呼べと?」

「はい」


まさか彼女がそのまま受け入れるとは……なんか今更冗談だよなんて言い出せない雰囲気を感じるし、言い出したのは俺だ、仕方ない。


「あ、秋葉お姉ちゃん?」

「──んーっ!」


照れくささを心の奥底に押し込めてそう言葉にすると、背後に感じていたプレッシャーが消え、代わりに明らかに歓喜の感情を感じる声が漏れるのが聞こえる。


更に、


「あのあのあの! 今だけアルトちゃんって呼んでもいいですか!?」


アルトちゃん!?


あれ待って待って、これ秋葉ちゃん何か変なスイッチ入っちゃった? 普段こんなこと言う子じゃないよね?


「……ダメですか?」


狙ってやってるわけじゃないだろうけど、そこで気落ちした声で聴いてくるの反則ぅ!

ダメだこれもう引けない奴だ。


「ど、どうぞ?」

「やったぁ! あ、手を止めててごめんね、シャンプーするから泡目に入らないように気をつけてねアルトちゃん」


あかん、喋り方ももう完全のお姉ちゃんモードだ。


……ええい、こうなったら毒を喰らわば皿までだ!


「うん、優しくお願いねお姉ちゃん」

「任せて!」


ものすごくうれしそうな返事が返って来た。うん、秋葉ちゃんが楽しいならもういいや。


しかし、風呂場でずっと年下の女の子をお姉ちゃんと呼びながら髪を洗われるという状況、どこをどう間違ったらなるんだろうな?


とりあえず大丈夫だと思うけどまかり間違ってこの事がアキツで漏れると社会的に死にそうだから、後で口止めするのを忘れないようにしよう……。














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