戦い明けて日常へ
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時刻はもうすぐ16時近くになろうという時間。
「う~あ~」
間抜けな呻き声と共に背伸びをした俺は、椅子から立ち上がるとベッドの上に身を投げ出した。
一日遅れで向こうから日本へ帰ってきて二日。今日は平日の水曜日で、うちの会社もフツーに業務時間な時間帯。そんな時間だというのに、俺は今自分の部屋にいた。
とはいっても、別に会社を休んだわけではない。たった今だって仕事をしていたところなのだ。
「あー、いいわぁ、テレワーク」
何がいいって、作業の合間に休憩するときにちょっとこうやってベッドに横になれるのがすごくいい。会社で仕事してる時なら絶対無理だもんな、こんなの。
あと恰好! うちの会社制服はないけどさすがにある程度のルールもあるし、そもそも外を歩くんだからそれなりの格好をしなきゃいけないけど、自宅ならそういうのを一切気にしないだらけた格好でも問題ない! 今の俺の格好は、男時代に着ていた今やだぶだぶとなってしまった厚手のシャツ一枚だけだ。
……いや、下着はちゃんと付けてるぞ? ズボンははいてないけど。
自宅裸族ってわけでもないから裸で動く気はないんだけど、こういうだらけたゆったりした格好ってすごい楽なんだよな。
テレワーク勧めてくれた会社に感謝ですわ。
無断欠勤となったあの日、14時くらいになってようやくこちらの世界に戻って来た俺は会社に連絡して事情を説明した。
とはいっても当然本当の事が言えるわけがないので、階段で足を滑らせて転倒、その際に強くついてしまい痛みがひかなかったため病院に行っていたということにした。その際気が動転していて、会社に連絡忘れていたと。
その説明は特に疑われる事なく受け入れられた。まぁ俺優良社員ですしぃー。骨折しているのは本当だしな、診断書持って来いって言われると困るけど。
で、骨折はしたけど片手だけで仕事はできるので明日から出勤しますと伝えたところ、うちの上司が
「今の仕事だとわざわざ出勤してこなくてもできるだろ。通勤大変だろうし、会社のPCにリモートアクセスツールいれてやるから治るまでは在宅でいいぞ」
という非常に温情にあふれたことを言ってくれたので、素直にその言葉に甘える事にした。
まぁ実際俺の仕事はデスクワークで、今やっている作業はあまり周囲とやりとりする必要がないから在宅で問題なく仕事ができるしな。というか、手が治っても今の仕事終わるまでは在宅したいけどダメかしら。ダメか。
ブルルルルルルルル──
ん?
何かが震える音がした。っていうか一つしかないな、スマホだ。机の上に置きっぱなしのスマホがブルブルと震えている。メールじゃなくて掛かってきてるな、これ。多分会社からか。
休憩で横になったばっかりなのにめんどくせーと思うが、今は業務時間内なのでスルーするわけにもいかない。俺はベッドから身を起こすと、机の上のスマホを手に取りディスプレイを確認する。
「あれ?」
想定とは違う名前が表示されていた、
「秋葉ちゃん?」
確かに以前今の姿になった時に彼女と連絡先の交換はしてあったが、結局こちらからは掛けたことはないし、むこうから掛かって来たこともない。
まぁ、とにかく出るか。
俺はディスプレイをタップしてから、スマホを顔に当てる。
「もしもし?」
『あ、村雨さんのお電話でよろしいでしょうか!』
スマホのスピーカーから元気のいい声が流れ出てきた。うん、秋葉ちゃんの声だ。
「うん、村雨だよ」
『こんにちわ、瓜生です。突然お電話してしまってすみません、今大丈夫ですか?』
「大丈夫だけど。 どうしたの?」
『あの、お怪我をされたという話を伺いまして……』
「ん? どこから聞いたの?」
ミズホの話だと彼女達は先に日本に戻っていたハズなので、俺の負傷の情報を知るタイミングはなかったはずだが……殴られた瞬間はみられてるからそういう心配はするかもしれないけど、今の言い方だとそういう話でもないし。
『尾瀬さんに教えてもらいました』
ああ、あの人秋葉ちゃん達のマネージャーみたいなこともやってるんだっけ。こっちの世界でも連絡を取り合ってるんだな。
ともあれ、そこまで伝わってるなら隠しても仕方がない。
「うん、まぁ左手をね。といってもヒビ程度だし、大したことないよ」
『あの時殴られたからですよね……』
「あー、あれは俺が不注意だったので」
どうも気にさせちゃっているみたいで、逆に申し訳なさを感じるところがある。銃を持ってないからとガウルのアホに対しての警戒を疎かにしたの、完全に自分の失策だったし。
「ま、とにかくその件は気にしないで。そもそも悪いのは全部あいつらだしな」
『……そですね!』
多分口調から俺が若干困っているのを感じ取ってくれたのだろう、彼女は一瞬の間の後そう元気よく返してくれた。
「それで、どうしたの?」
さすがに怪我をしたことの確認の為だけにかけてきたってこともないだろうし、そう聞いてみる。
『あ、はい。昨日その事を聞いて、千佳ちゃんと話したんですけど』
「うん」
『今回お世話になりましたし、御礼もかねてお役に立てないかなって』
「うん?」
お役に?
『手を怪我されたとすると、いろいろ不便ですよね? なのでお手伝いさせてもらえないかなと』
「いやいや、そこまでしてもらうほどのことじゃないよ!」
『えっと、じゃあ言い方変えます。仲のいい人が怪我したから助けてあげたいなーって。私達仲いいですよね?』
うっぐ。断りづらい言い方を……
「でもそこまで困ってる事ないよ?」
これは別に嘘じゃない。利き腕じゃないし固定されているのは手だけなので、そこまで大変というわけではなかった。勿論いくつか不便なことはあるけども。
『でも安静にしてた方がいいんですよね?』
「まぁそりゃあね」
『だったら買い物とかしてきますよ、あとお見舞いとかに行きたいですし』
うーん。ここまで言ってくれてるのに断るのも逆にアレか。助かるのは事実だし……
「わかった、じゃあお願いしてもいいかい?」
『お任せあれ! 千佳ちゃんも一緒だから多くても大丈夫ですよ!』
「あはは、そこまでじゃないよ。ええっと」
俺はちょっとだけ考えて、いくつか買ってきて欲しいものを伝える。といっても生活必需品は毎回アキツに行く前に仕入れているので、必要なのは食料品だけだ。さすがに片手だとちょいと料理がやりづらいのは昨日の夜に感じていたので、レトルト食品をいくつか依頼する。正直栄養バランスが偏るとは思うが、1~2週間程度の話だし別にいいだろう。あわせてうちの住所も伝える。
『オッケーです、メモリました。それじゃえっと……多分30分しない内に伺うと思います。それでは後程』
そういって通話は切れ、俺はスマホを机の上に置く。
あー、仕事どうしよう。二人が来たとき仕事してるとまた別の気を遣わせそうだし、今日はもうクローズしちゃえばいいか。仕事に集中できるせいか片手にも関わらず仕事の進みよかったから、今日の分の仕事はもう終わってるし。会社の方に連絡入れておこう。
後は……着替えないとな。さすがに人が来るのにこんなだらしない格好のままというわけにもいかない。とはいってもあんまりがちがちに着替えるのもまた気を遣わせるからどうすっかなー、とタンスの方を見る。
その途中、部屋の様子が目に入った。
汚部屋、とはいうわけではないがそこら中に脱いだ服やらものやらが散乱している様子が。
……ダメじゃん!
人を招き入れていい状態の部屋じゃないじゃん! 急いで片付けないと!
そう思い、焦って机の前で身を翻した結果。
俺の左手は、見事に机の角にぶちあたった。
「──いだぁっ!?」




