貴女がキーマンです
毎回タイトルが全く浮かばないです。本文からタイトル自動生成してくれる機能とかできないかな……
彼女達の呼びかけに応じて、二つの姿が虚空から現れる。
秋葉ちゃんの背後には、蛇にも似た透き通る水で構築された竜が。
金守さんの背後には複数の白く光る球体が出現し、じゃれつくように彼女の機体の周囲を飛び回る。
その状態から、先に動き出したのは秋葉ちゃんの方だった。
『押しつぶします! いって、<<大いなる波>>!』
彼女のその言葉と共に機体の右腕で前方を指さすと、竜はそれに従うように一度身を震わせてから前方へと身をくねらせながら飛来し──その途中で弾けた。
弾けた、といっても消失したわけではない。
竜はその姿を失ったが、代わりにそれを構成していた膨大な量の水は大きく左右へと広がり一つの大きな波となる。
荒野に突如現れた津波は、そのまま赤茶けた大地の上を走っていく。
ミズホの術によって速度を制限されている黒ナメクジたちはその勢いになすすべもなく飲み込まれ、押しつぶされていった。
数秒後、あれだけの質量を持った水が幻だったかのように消失した後には、大量にいた黒ナメクジの大部分は見る影もなくその形を失い、先程俺が打ち抜いた奴と同様に黒い粒子となって霧散していく光景が広がった。
だが、さすがにそれで一掃とはいかなかった。水の圧力を耐えきった個体や、そもそも範囲外だった連中たちは生き残り、いまだミズホの術に捕らわれながらも餌を喰らうためにと身を進めようとする。
その姿を、今度は白い光が次々と貫いていく。
それは先程まで金守さんの近くを飛び回っていた、光る球体だった。さっきまでゆらゆらと漂っているだけだったそいつらは、秋葉ちゃんの一撃をなんとか乗り切った個体たちをあるものはそのまま体当たりしてうち砕き、あるものは球体から射出する光線で撃ち貫ぬいていく。
気が付けば、あれだけいた黒ナメクジたちはほぼ完全に壊滅していた。
「……すげぇ」
その光景を目の当たりにした俺の口から思わず感嘆の声が漏れる。
魔術。映像でなら見たことはあったが、今日初めて直接目の当たりにしてその威力や効果に度肝を抜かれていた。
今目の前で使われた4つの魔術、そしてホールで使われた浦部さんの【千手千眼観音】。そのすべてが現実ではありえない非現実な光景だった。
いや、今俺が乗っている精霊機装自体考えただけで動くとか、俺が本来住む日本側の常識からみれば非現実なものだというのは分かっている。だが、これはもう本当に──世界が違う。
これは正しく魔術だった。
日本に似た近代の光景の広がるこのアキツには似合わない、ファンタジーとしか言いようがない力。それを周りの皆が使っている。
『こっちの方はアタシ達でなんとかするわ! 他の皆はそっちのデカブツを!』
この状況下にも関わらず、目の前で起きた非現実に捕らわれかけていたアホな俺の意識はその言葉で現実に引き戻される。
次々と現れる黒ナメクジの出現は、一番最初の頃程ではないにしろ今も続いている。その次々と湧いてくる不気味な存在を、ミズホ達3人は出る端から銃撃や光球によって叩き潰していた。
『スキカッテシテェ……!』
彼女の同胞? を次々に滅ぼす三人に対して忌々し気な声と共に巨大なアメフラシ……深淵が、その身から伸びた触手を叩きつける。が、その触手は銃声と共にはじけ飛んだ。
『お前の相手はこっちじゃて』
『そういうこった』
銃撃を放ったのはラムサスさんと、ロイと呼ばれている低い声の機体だった。ラムサスさんは拳銃のような小型の銃で、ロイさんの方は距離を詰めてショットガンでの一撃でそれぞれ触手を潰していく。ただ触手は潰しても次々新しく出現し、周囲を激しく打ち付けていく。
って、俺も見ている場合じゃない! 俺も援護しないと──
そう思い、触手にライフルを向けようとした俺を、だがセラス局長が肩に手を置き留めた。
「ユージンさん、貴方は力の温存を。少なくとも触手は他の方々に任せて、本体の核を狙ってください」
「核?」
問い返す俺に彼女は、通信機の向こうにも言葉を届ける為だろう、声を張り上げて答える。
「はい。深淵のあの肉体は私達で言う霊力のようなものです。だからいくら潰したところで再生します。無尽蔵ではないですが、有効打撃を与えるには全開駆動状態での攻撃を叩き込む必要があり、正直消耗戦になる。次から次へと新たな深淵が出現してくる以上、こちらが先に力尽きる可能性が高い」
「先にあの歪みを塞ぐ方法はないんですか?」
「あの深淵は上位種です。強い世界観をもつあのような個体が側にいる以上、貴女の界滅武装を用いても塞ぐのは困難です」
『その核はどこにあるんだ!?』
自分に襲い掛かってくる触手とミズホ達を狙う触手を、その両手に握る二丁拳銃で片っ端から処理しながらラムサスさんが声を飛ばしてくる。それに対するセラス局長の回答は
「わかりません」
『はぁ!?』
「あのような形をしていますが、先程申しました通りあの肉体は霊力のようなものであり、不定形です。この規模の個体だと直径1m近くはあるでしょうが、それがどこにあるかまでは……」
『それをこの馬鹿でかい体の中から撃ち抜く必要があるってことか……?』
ラムサスさんの言葉に苦々しいものが混ざる。
目の前にいる深淵のサイズは非常に巨大だった。高さは我々の精霊機装より頭一つ大きいくらい、横幅は3倍くらいある。更に奥行きは数倍レベルだ。
しかもラムサスさんやロイさん、それにイスファさんやレオが先程から触手を処理しつつ叩き込んでいる攻撃は、その肉体を貫通することなく途中で消失している。こんな状況下でこの馬鹿でかい図体の中にあるものを破壊するのか……?
『そいつは当たりさえすれば簡単に壊れるようなものなのか?』
今度はロイさんが質問を飛ばす。
それに対する回答は、残念なものだった。
「本来であれば、簡単には壊れません。全開駆動状態の攻撃を何発も叩き込む必要があるでしょう。ですが」
そこで彼女は言葉を止めると俺の方へ視線を向けた。
本来であれば──そうか!
その視線が意味することに気づいた俺は、通信機へ向けて叫んだ。
「俺の機体に異世界の存在に対して貫通特効のある武装がある。そいつでぶち抜けば……そういう事だな、セラス局長!?」
最後の言葉をセラス局長に向けて放てば、彼女は頷き
「はい。ユージンさんの全開駆動状態の全力射撃であれば、命中さえすれば一撃で破壊できるはずです」
『つまり……やはりユージンちゃんはこの世界に舞い降りた女神だったということですね?』
ここまでシリアスで恰好いい姿見せてたのに、突然不規則発言するのはやめてくれませんかね! 力が抜ける!
『まぁ女神かどうかは置いておいて、そちらの嬢ちゃんの攻撃をサポートすればいいってことじゃな?』
「俺は中央部を中心に正面から狙っていく! 皆は外周を削って、それらしきものを見つけたら教えてくれ!」
『了解じゃ』『了解っス』『了解した』『お任せを、ユージンちゃん』
次々と通信機から流れる了承の言葉を聞きながら、俺は機体を操作して深淵の正面に回り込む。奴の形状と界滅武装の貫通性能を考えればこの位置からの攻撃が最も有効なハズだ。
「タマモ! 全開駆ッ……」
すでに全開駆動状態に移行している皆に遅れてモードチェンジをしようとした俺の言葉は、だが最後まで言うことはできなかった。
モードの移行は意思が伝わればいいので言葉を言い切る必要がないのだが、思考自体が途中で切れてしまいモード変更も行われない。
突然俺の機体の側面で爆発が発生し、機体が大きく揺れたためだ。
深淵が普通に言葉喋ってるのは寄生していた相手から知識を吸収しているためです。




