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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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この世界への侵入者


「あの光は……」

「間に合いませんでしたか……!」


俺の横で、いつも優し気か冷静な感じでしか喋らないセラス局長が忌々し気に呟き舌打ちする。


ということは、つまりあれは霊力の光だということだ。


「くっ」


俺はライフルを構えながら、その光に向けてモニターの表示を拡大する。


光の向こう側、4体の精霊機装が見えた。そしてそれからやや離れたところで対峙する2体。


『連中を止めろ、イスファぁ!』


通信機から怒声が漏れる。ラムサスさんの声だった。そしてそれに応じ、これまで通信機からは流れてこなかった新しい声が響く。


『無理なんだ! 連中の足元を見てくれ!』


悲鳴に近いイスファさんの怒声。その声に従い俺は機体の視線を向けた。


そして彼が強引に連中の動きを妨害に出れない理由を知る。


そこにあったのは車だった。チームのトランスポーターや指揮通信車とも違い普通の乗用車。

そしてその横に、生身の一人の女性が立っていた。


さらに。


光のせいでよく見えないが、その麓の辺りにもいくつか人影が見える。そうか、指輪を使って力を行使するために──


「くそっ」


俺は舌打ちをして構えかけていた武器を下げる。生身の人間がいるのに攻撃など出来るわけがない。俺達は戦争を生業にしている傭兵じゃねぇんだぞ!


『カレリ、お主の術でなんとかならんか!』

『ダメだロイさん、まだ距離が足りない!』


アズリエルのメンバーらしき声で、やり取りするのが聞こえる。


そうだ術式ならなんとか──


俺とレオは術は使えない。ミズホは使えるがこの状況下では意味がない。秋葉ちゃんと金守さんの術は完全に攻撃系で、アズリエルの残りの二人の能力は()()()()使えないらしい。あとは、


「ラムサスさん! 貴方の術は結界系ですよね、それでなんとかいけませんか!」

『ダメなんです! 私の術は外側からだけではなく内側からの攻撃も遮断するから、生身の人間は確保できても向こうへの攻撃はできなくなる!』


ダメか……!

それに考えてみれば、もし生身の人間と精霊機装を切り離しても力を行使しているのは生身の人間だ、今行われていることは止められない。


くっそ、ここに浦部さんが来ていないのが痛い。彼女の術式で生まれる手なら、女性を救出し力の行使の妨害もできただろうに。


俺達は打つ手もないまま、ただ連中に少しでも接近するために機体を走らせる。


そして──力の奔流が止まった。

強く周囲を照らしていた光り輝く霊力は消え去り、それによって遮られていた向こう側の景色が見えるようになる。


『あれ、何も起きてないっスか……?』

「……いや」


周囲の景色が荒野なのでわかりづらいが、よく見れば先程まで光があった場所の向こうの景色が歪んでいる。更に次の瞬間、その歪みの淵を掴むようにして黒い何かが出現した。


「来ます」


セラス局長が小さく告げ、まるでそれに呼応するかのように黒い何かはどんどん歪みを覆いはじめる。


これは……なんだ?


黒一色のその全身には、ぬめりを感じさせるような光沢。徐々に明らかになるその全体像はナマコ──いや、アメフラシのような形状をしていた。ただし、その体のあちこちから触手じみたものが伸びている。目や口に該当するようなものは見当たらない。


「気持ち悪……」


場違いかもしれないが、率直な感想が口から漏れ出る。

俺は正直アメフラシとかナマコとか後ナメクジとかそういった生物が死ぬほど苦手なんだが、そうでなくてもきっと同じ感想を抱いたろう。それは、醜悪──その一言で済ませられるような姿をしていた。


その異様な存在が染み出るように歪みから地面におり立つと同時、車の横に立っていた女性が糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。更にその体のどこからか黒い何かが飛び出すと跳躍し、現れた巨大な異形の存在に飛びつくと吸い込まれるようにして消滅していく。


『アハハ、アハハ、ザンネンマニアワナカッタネェ……?』


不快な声が響いた。甲高い、まるで金属を引っ掻いた音がそのまま声となったような声が、減衰もせず脳裏に響くように届く。


『ヒライチャッタ、ヒライチャッタ、サアサアミンナオイデ。ゴチソウノジカンダヨォ』

『! ……まだ来ますっ』


秋葉ちゃんの言葉の通り、異形の怪物が抜け落ちた歪みに再び黒い何かが現れ始める。


それは、今目の前に出現している怪物のように一個の個体ではなかった。そいつらは出現するたびにぼとぼとと地面に落ちるとナメクジのような形状となり──そしてその形状からは想像もつかないほどの速度で動き出す。


俺達の反対側へ向けて。


「止めてください!」


セラス局長が叫び、俺は咄嗟に武器を構えライフルの引き金を引く。


放たれた光条は確実に黒ナメクジを的確に貫き、そいつは霧となって霧散した。


が、ダメだ。数が多すぎる! 単発の攻撃で削れる数じゃないし、生身の人間に被害を与えないことを考慮すると広域を攻撃する武装は使えない。


「対応できる数じゃないぞ!」

『魔術を使えばいけますが……女の人達を巻き込んでしまいます! カレリさん、まだいけませんか!』

『もうすぐだ! ロイさん、100m先で止まってくれ、そこで術を使う!』

『わかった! 皆聞こえたな、こちらの術で人間を救出する。合図をしたら攻撃を開始してくれ!』

『……ダメっスよ、動きが速い! このままだと逃げられるっス』


そう、通信機からレオの悲鳴が響いた直後。彼とは対照的に落ち着いた感じで、もう一人の同僚の声が通信機から流れた。


『リーデル。全開駆動(フルドライブ)

「ミズホ!? まだ攻撃は……」

『大丈夫、足を止めるだけだから。【沈む世界】』


それは、先程から怒声が飛び交う通信機の会話の中には埋もれてしまいそうな穏やかな口調での魔術の宣言。


だが周囲に目に見える何かが出現することはない。


変化したのはただ一つ。自分達とは反対側へと疾走していた黒ナメクジの動きが大幅に落ちたのだ。それこそ牛歩と呼べるくらいに。


その光景を見たミズホが、安堵の言葉を漏らす。


「実戦での使用は初めてだったけど、上手くいってくれたようね」


【沈む世界】。前のシーズンで2位に入ったことにより取得資格を得たミズホが習得した魔術。


術の属性は重力。指定の範囲に存在する相手にかかる重力を倍加させ動きを遅延させるデバフ系ともいえる魔術。


本来は精霊機装に対して使うはずのそのスキルは、異形の怪物に対しても充分な効果を発揮していた。完全に動きが止まったわけではないが、少なくともすぐに逃げられる速度でもない。


後はこれで攻撃できるようにさえなれば──


『オーゼンセさん。ナイス! 次はこっちだロイさん、そこから動かないで!』

『わかっとる! カレリ、急げ!』


その声と共に、戦闘を走っていたアズリエルの一機がピタリと立ち止まる。そしてそのすぐ後ろを走っていたもう一機も同様に立ち止まると、地面に膝をつきその腕を前の機体の影にかぶせるようにその手をつく。


『いくよ! 【影渡り(シャドウクロス)】!』


その言葉と共に、カレリと呼ばれている人物の乗る機体の腕が地面に沈みこんだ。


いや、違う。沈み込んだのは影にだ。

と同時、沈み込んだ腕が別の場所に出現するのが見えた。深淵の化物の生み出す影の中、倒れ伏した女性のすぐそばに。その腕はそのまま女性を掴むと再び影の中に沈み、こちら側で引き出された手の中には女性がそのまま抱えられていた。


カレリさんはその女性を反対の手に移すと、再び影の中へ手を突っ込む。


そして引き出された腕には、今度は4人の人影が握られていた。ただ、その姿のうちいくつかのシルエットはおかしなものになっていたが──今はそれを気にしている場合ではない。


確実なのは、これで攻撃の妨げになる存在はいなくなったということ。


保護した人影を抱え後退していくカレリさんの機体と入れ違いで、同様にアズリエルの機体が2機前に飛び出す。秋葉ちゃんと金守さんの機体だ。


「千佳ちゃん、サポートお願い!」

「任せて、秋葉ちゃん」

「いくよっ、【水竜招来】!」

「【スピリッツ】!」




唐突に始まる大魔法大会

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