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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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奪還

複数の足音が聞こえる。それはだんだん近寄ってくるのと合わせて、心臓が高鳴ってくるのを感じる。

思わず音を立てて唾を飲み込んでしまい、気づかれなかったかと心配するがその気配はなく安堵する。


ツチノコを更にデフォルメしたようなラムサスさんの精霊が持ってきたメモには、まもなくこのすぐ近くの通路に連中が現れると記されていた。そしてその時に自分が何をすべきかも。


俺はその指示に従い、部屋の中に潜みながら時を待っていた、


自分は熟練の人間ではないから、具体的なタイミングがわからないのが難点だ。後少しだろうか、と考えていると声が聞こえてくる。


「さっきもいったけど、すぐそこのトイレ寄らせてもらえないかい?」


先程聞いたばかりの浦部さんの声と、「ダメだ」というそれを否定する男の声。


──これは、合図だ。


そう判断すると俺は、まず最初にタマモを、ついでそれを追うように自らの体を潜んでいた部屋の中から飛び出させた。


「こらっ、タマモ出ちゃダメ!」


立ち止まり振り返るタマモを抱え上げ、そして横を見る。


目が合った。


「ユージン、貴様そんなところに隠れていたのか!」


最初に声を上げたのはガウルだった。彼はその顔に歓喜を浮かべ、俺の名を呼ぶ。対し銃器を構えてこちらを向いた集団を見た俺は、()()()()()()()()()()()()()()()情けない悲鳴を口から吐き出した。


「ひっ、あっ、何?」

「動くな!」


ガウルが指示をだし、銃を持った一人の男と共に秋葉ちゃん達の前に進み出てくる。


「ユージン貴様こっちに来い!」


銃を向け、こちらに対してそう恫喝を飛ばしてくる。だが俺は腰を引き、その顔に精いっぱいのおびえた表情を浮かべ一歩後ずさる。

その様子にガウルは舌打ちすると、もう一人と共にこちらに近づいてきた。


「逃げるな。逃げれば撃つ」


言葉と共に、だんだん近づいてくる二人。その足があるラインを超えた瞬間、俺は叫び声を上げた。


「いやぁっ、こないでっ!」


合図となる悲鳴を。


その直後、廊下に甲高い金属音がなり響いた。その場にいる二人──俺と浦部さんを除いて全員の意識がその音のした方向へ向き、それぞれに向けられていた銃口が外れる。


そして一気に状況が動いた。


1。銃口が外れると同時、浦部さんがその身を翻した。見事としかいえない動きで瞬く間に二人の男から銃を奪い取る。


2。金守さんが秋葉ちゃんの腕を取ると引き寄せた。そして音のした方向とは反対方向へ身を滑らせる。


3。浦部さんの肩にいた黒い犬──彼女の精霊が残ったもう一人の男に飛び掛かり銃口を塞ぐ。


4。男子トイレから飛び出したラムサスさんがその男から銃を奪い取り、男の顎を容赦なくその拳で撃ち抜く。


5。女子トイレから飛び出したレオが、俺の方へ向かってきていた男に背後から飛び掛かる。


そして6。俺は前にいたガウルの横をすり抜けると、レオと同様に銃を持った男に飛び掛かりその腕を抑え込んだ。


ここまでがほんの数秒の間に動いた。更に暴れようとする男をレオが羽交い絞めにし、そこから俺は武器を奪い取るとラムサスさんの方へ滑らせる。


これで、銃器は全員奪い取った。ミッションは完璧に成功だ──そう、ガチガチに緊張していた俺の心に安堵の色は広がる。


それが不味かった。


日常生活で相対することなどまずありえない銃器、俺の意識はそれにとらわれ過ぎていた。だから頭から抜け落ちてしまったのだ、まだフリーの人間が一人いることに。


「ユージィィィン!」


次の瞬間その声に反応して振り向いた俺の視界に映ったのは、ガウルがこちらに向かって勢いよく警棒を打ち付けようとしている姿だった。回避できるタイミングではない。正直、とっさに頭部をガードするために左の拳を上げられたのが奇跡だった。


そして、警棒が俺の左拳に叩きつけられる。強烈な衝撃と痛みが体に響き、だが俺の体はなんとか弾き飛ばされず踏みとどまる事が出来た。だから俺は痛みを無視して警棒をはねのけるとガウルの懐に潜り込み、次の瞬間俺を殴るためにやや前傾姿勢となっていた奴の顎を目がけて大きく頭を跳ね上げた。


「ごっ!」


頭頂部に衝撃、と同時に頭上から奇妙な呻き声が聞こえ次の瞬間にはガウルの体はその場へゆっくりと崩れ落ちる。そしてそのまま奴がぴくぴくと震えながら動かないことを確認すると、俺はその場にうずくまった。


……。

────────っ。


「……腕に響いたんさね?」


いつの間にか側にきていたらしい浦部さんの声に、俺はうずくまったまま頷く。彼女の言葉通り、ガウルに頭突きをかました瞬間頭ではなく拳の方に脳髄に響く痛みが走った。


あ、ヤバイ涙出てきた。これ大丈夫だよね? 変な風に曲がったりしてないし折れてないよね? 


「村雨さん、大丈夫ですか!」


誰かの手が背中に触れるのを感じると同時に、秋葉ちゃんの声が耳元で聞こえる。


「大丈夫大丈夫、痛いけど平気」


そうだ今はこんなうずくまっている場合じゃないと、俺は顔を上げて秋葉ちゃんになんとか笑みを向けて(間違いなく引きつっているし、目は潤んでいるけど)立ち上がる。立ち上がる時にまたちょっとズキンといたんだが、さっきよりは収まった気がする。うん大丈夫これはきっと折れてなーい。


心配げに俺を支えようとしてくる秋葉ちゃんを無事な右手の方で制して周囲を見回すと、事態はすでに収束していた。襲撃者たちは全員床に倒れ伏しており、今はラムサスさんが(こちらに申し訳なさそうな心配そうな顔を向けながら)どこから持ってきたのかビニールテープとビニールロープでそいつらを拘束していた。


え、というか最初に武器を奪った以降殆ど争う声とか音とか聞こえなかったんだけど、もう完全に制圧終わってるの? 秋葉ちゃん達が参戦したとは思えないし実質浦部さんとラムサスさんで制圧したってこと?(レオは最初の男を押さえつけたままだし……気を失ってはいるっぽいけど)


ええ、何なのこの二人……特に浦部さんとか75歳でしょ? どんだけよ。


「ユージンさん、ありがとうございました」


俺が呆気にとられて周囲の様子を見ていると、いつの間にか側に来ていた金守さんがそう言って頭を下げていた。


「本当に……助かりました。なんとお礼をしたら良いか……」


彼女は先程の場面でもいつもの冷静な姿を見せていたが、当然恐怖はしていたのだろう。その表情には安堵が強く広がっていた。そしてその横に立った秋葉ちゃんも感極まった震える声と共に頭を下げる。


「本当にありがとうございます、ユージンさん。私、ほんと、どうなるかって……」


言葉と共に気を張っていただろう涙腺が決壊し、彼女の瞳から涙がぽろぽろこぼれだすと同時に彼女は腰を抜かして崩れ落ちた。いろいろなものの糸が切れたのだろう。その彼女に寄り添うように金守さんが腰を落とすと肩に手を回して抱き寄せた。


やっぱり金守さんの方がお姉さんみたいだな、なんてことを思いつつ友人ともいえるこの少女達を無事に救出できたことに俺も安堵する。


「ほんと、全員無事でよかったよ」

「いや全員無事じゃないっすよ! ユージンさん手大丈夫っスか?」


ラムサスさんが他の連中の拘束を終えたため、自分が念のため押さえつけていた男から離れたレオが近くに来てそう聞いてきた。


「大丈夫大丈夫、くっそ痛いけど動くから問題ないだろ」

「表が精霊機装で閉鎖されているのが事実なら、すぐに病院に向かうってことはできないしねぇ。とりあえずホールに戻ったら気休めかもしれんが鎮痛剤を飲んでおきな。あんだけいれば誰かもってると思うさね」

「ホール……そうだ、まだホールの方があるのか」


問題が解決したと思ってしまっていたが、まだホールには武装集団が残っているしそこにいる皆を人質にとられている状況だ。急ぎなんとかしないといけない事はなんとかなったが、まだ問題は残っている。


だがその俺の言葉に、浦部さんは軽い調子で答える。


「ああ、そっちはなんとかなるさね」


そう言って彼女はニカッと笑うと、拘束されたガウルの懐から真紅の宝石のついた指輪を取り出した。


「こいつがあればね」






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