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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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襲撃

●三人称視点


(え、停電?)


突然視界が真っ暗になった。

先程までホールを照らしていたライトは全て光を失い、周囲に見えていた沢山の人の姿もよく見えなくなる。


(そっか、このホール窓がないから)


ところどころうっすら明るくなってるのはスマホの明かりか何かだろうか。とりあえず秋葉は自分もスマホを取り出そうと考えたところ、即座に目の前にスマホが差し出された。


同時に左手が暖かいものでぎゅっと握られる。


「千佳ちゃん」


スマホを差し出したのは、千佳子だった。スマホの明かりに浮かぶ彼女の顔は、まるで動揺のないいつもの優しい笑顔だ。


相変わらず千佳ちゃんはすごいなぁ、と秋葉は思う。

急な停電にも動じず明かりとしてスマホを取り出し、こちらが不安にならないように手を握ってくる。


(私の方がお姉さんなのになぁ)


相棒の少女は、まだ中学生なのにいつだって冷静だ。頼りになるけど、もうちょっと自分も頼られるようにしっかりしないと──


(って、あれ?)


ふと、耳に届く音に秋葉は違和感を覚えた。


暗くなったとはいえ当然周囲の人がいなくなったわけではなく、むしろトラブルの発生で騒々しくなっている。だがさすがに暗闇の中で動き回る人があまりいないらしく足音的なものは聞こえてなかったのだが、それが急に聞こえるようになってきた。


だけど遠い。音はホールの外だ。ただだんだん近くになってきている気がする。


(トラブル対応でスタッフさんがやって来たのかな?)


その足音はどんどん大きくなっていき、そしてホールの出入り口近くで止まった。


と、同時。ホールに光が戻り──同時に悲鳴が上がった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


〇有人視点


「お、明かり戻った」


暗闇の中、ズボンを降ろした下半身丸出しのまま中腰の状態で固まっていた俺は、安堵のため息を吐く。

座ろうとしていた状態でそのまま腰を降ろせば問題なかったんだろうが、真っ暗闇の中で万が一事故るのもいやだったのでそのままで待っていたんだが──冷静になって考えれば一度ズボンは上げなおしてよかったな、そこまで切羽詰まってたわけじゃないし。人間想定外の事態が起きると判断力低下しますわよねオホホ。


ま、何にしろこれで一安心だ。とっとと用を済ませて戻るとしよう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


●三人称視点


悲鳴は入り口付近にいたスタッフのものだった。

そして悲鳴を上げた理由は明白だ。停電が解消した瞬間、目の前に銃を構えた集団が並んでいたらそれは悲鳴を上げるだろう。


──そう、今ホールにある二つの出入り口には武装した集団が並んでいた。その数、二十前後。


(何事だい?)


ユキ江はチームメイトとの会話を打ち切って、その集団を見る。


(動きは素人だが)


何かしらの訓練を受けたような動きではないし、構え方も様になっていない。


一瞬おふざけかとも思ったが、それは即座に否定した。

バラエティ番組でもないアワードでこんな企画を立てると思えないし、そもそも運営側の連中も呆気にとられている。それに、


(目が……気に入らないねぇ)


ユキ江はその目に見覚えがあった。

襲撃者たちのその目は、感情が高ぶり攻撃的になっている連中の持つそれによく似ている。あーいった連中は、ちょっとしたことで暴発する。ひとまずはおとなしくしていた方がいいかね、とそう考えながらもユキ江は抜け目なく武装集団を観察する。


と、その中から一人の男が出てきた。


「動くな! 妙な動きをしなければ危害は加えない!」


そう怒鳴るその男は、一人だけ銃を持っていなかった。代わりに警棒のようなものを持っているが……指揮役だろうか? だとしたら力不足な感じがするが。あの男にはそういった者の持つ威圧感は感じない。正直小者にしか感じないが……小者だからこそ考えなしな行動にでる可能性がある。


(下手に動けんか)


ただ、それを理解しなかったものがいた。ユキ江は顔を知らなかったが怒鳴り声を上げた男はどうやら精霊使いだったらしく、リーグ戦運営の一人が声を荒げその男を喰ってかかったのだ。恐らく持っている銃器も偽物だとでも思ったのだろう。だが──


次の瞬間ホールに響き渡る銃声と共に、天井に備え付けられたライトの一つが砕けた。その位置の下にいた者達が、降りしきる破片から慌てて逃げ出す。そして喰ってかかった男は沈黙し、発砲を指示した男は満足げな笑みを浮かべた。


(これは……いよいよ駄目そうさね)


やはり連中は素人だ、こんな室内で銃を撃つのに恐らく跳弾の可能性すら考慮していない。今のは誰かに被害がでる事はなかったようだが、この調子で威嚇射撃を行われたらいずれ間違いなく怪我人が出る。


「外部からの助けを待つのは無駄だ! この施設の周囲は精霊機装によって封鎖されている!」


明らかに調子に乗った男は、その言葉と共に通信機を取り出し何かを伝える。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


〇有人視点


「ひあああああああっ!?」


衝撃は突然来た。トイレに座った俺の体が跳ねるくらいの強い衝撃が。思わず口から間抜けな悲鳴が漏れてしまうくらいに。咄嗟に両手を突っ張って体が横倒しになるのを防いだのは自分でもよく反応できたと思う。ていうかさ、俺がいざ用を足そうと思ったら停電が来て直後に地震が来るとかどんな嫌がらせ?


揺れはすぐに収まった。でかいのがガツンと一発という感じだ。──トイレ中の地震とかマジ勘弁してほしい。逃げようがないしさぁ……


とりあえず、恐る恐る下の方を確認する。


……よし、惨事は起きていないな。


安堵。

そして安堵したら、先程の揺れに関する疑問が起きてくる。

さっきのは揺れは轟音を伴っていた。普通に考えれば地震にあんな音はついてこない。となればあれは地震ではなく、爆発?


この近くに爆発が起きるような施設何かあったっけ?

外で何が起きたのか確認をしたいところだが、とりあえず先に済ますべきものを済ませよう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


●三人称視点


激しい揺れに一部の者たちは転倒。テーブルの上にあったグラスなどが床に落ち割れる音がそこかしこで響く。一部恐慌状態に陥いった者たちを周囲の人間がなんとかなだめようとする中、ミズホはこの状況を生み出す指示を出した男を見る。


その男の顔は知っている。


ガウル・ラルステン、Cランク所属の精霊使い、そして以前ユージンに絡んだらしい愚か者。その愚か者は今の状況を見て愉悦するような表情を浮かべている。


(こんな大それたこと出来るような人間とは思えないけど)


それほど面識があるわけではないが、聞いた話やわずかに見た姿から感じた印象は”小者”だ。こんなテロ行為を行えるような人物とは思えないが──


そのガウルが自分の横に銃器を構えた男を並べた上で声を張り上げる。


「こちらが本気だというのは分かったか! だが安心しろ、こちらの要求は一つ、それにさえ答えれば後程無事に解放する!」


騒々しくなっていたホールの中が沈黙する。


その様子にガウルは満足げに頷くと──要求を宣言した。


「浦部ユキ江、瓜生秋葉、金守千佳子、ユージン。以上の4名を差し出せ」


その一言でミズホはこの連中の正体を理解する。


(日本人を嫌っている連中か)


呼ばれた人物は今日この場に来ている日本出身者全員だ。そしてガウルは日本人嫌いで、それでユージンに絡んできていたはず。だが──それはここまで強硬な手段に出るようなものだったろうか?


「やれやれ、この年寄をご指名かい」


集団の中から、一人の老婆が歩み出る。先程あったばっかりの浦部だった。彼女は困り顔で、だが臆するところはまるで見せずガウルの方へと歩み寄っていく。


「どうすればいいんさね」

「ひとまずそこに立っていろ」


ガウルは男の一人に銃を浦部の方へ向けて立たせると、再び声を張り上げる。


「残りの三人はどうした!」


その言葉に、何名かの視線が一点に集まった。その先には二人の少女。一人はその顔に怯えを浮かべながらもきっと前を向き、もう一人は能面のように無表情にガウルを見る。


「来い!」


ガウルの再度の怒鳴り声に、二人の体が不自然に前にのけぞった。……彼女達の背後にいた人物が早く行けとばかりに二人を押し出したらしい。それで決心がついたか、二人もガウルの方へと向って行く。


「ユージンはどうした!」


彼はここにはいない。先程レオと一緒に外に出て行ったのは確認している。恐らくトイレにいったのだとは思うが──周囲の人間がきょろきょろと見回しているあたり気づいている人間はいないだろう。


「早くしろ!」

「ユージンは今このホールの中にいない!」


ガウルの急かす怒鳴り声に誰かがそう応答を返す。


「嘘はいうな!」

「嘘じゃない! 確認してくれ!」


その言葉にガウルは数名をホールの各所へ向かわせる。


そして数十秒後。


「確かにユージンは不在のようです!」


部下からの言葉に、ガウルは舌打ちをする。


「ちっ、逃げやがったか」

(どこに逃げれるタイミングがあったというのかしら)


突っ込みたいところだが、今は我慢するしかない。名指しされた三人をなんとかしてあげたいし、ユージンに危険を伝えたいところではあるが今は妙な動きをすれば周りにも危険が及ぶ。チャンスを伺うしかない。スマホで連絡も考えたが、妨害電波か何かを出しているのか圏外になっているのだ。


ミズホがもどかしさを感じながらも周囲を伺っていると、男の一人がガウルに歩み寄り声を掛けた。


「ガウルさん、時間が──」

「……仕方ない。4名ついてこい、この3人を連行する。残りはここの連中の監視を。ユージンが戻ってきたら捕まえて連れてこい」

「了解」


そうやりとりを終えると、ガウルと数名の男は浦部達に銃を突きつけながらホールの外へ出ていった。


だが、まだ十人以上の武装集団は残っている。


(──ユージン)


なんとかしたい、でも術が思い浮かばない。今のミズホには。ただ祈る事しかできない。






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