エレメンタラーズアワード会場にて②
呼び声にそちらに視線を向けると、精霊使いのチームコスチュームを身にまとった二人の少女がこちらに向かってきていた。うち一人は元気にこちらに向けて手を振っている。
秋葉ちゃんと金守さんだった。手を振ってる方が秋葉ちゃんで、金守さんはいつものすまし顔だ。
ちなみに二人も精霊らしきものを連れている。
秋葉ちゃんは胸元に柴犬のような姿の精霊を。
金守さんは肩の上に鳥型の精霊を。
例によってデフォルメされている姿のためぬいぐるみのようなので、抱えている秋葉ちゃんなどは本人とセットですごく可愛らしい。
二人は俺達三人の側までやってくると、秋葉ちゃんは元気よく、金守さんは静かな動きで小さく頭を下げた。
「こんにちは! それとはじめまして! オーゼンセさんとクローガーさんですよね」
「あ、はい。はじめまして」
お、秋葉ちゃんの元気の良さにか、レオが珍しくたじろいでいる。
「アズリエルの瓜生さんと金守さんね。はじめまして」
一方ミズホはさすがというか、まるで動じず微笑みを浮かべて応対していた。
「ユージンと向こう側で同じ区域に住んでるんでしたっけ?」
「はい! 私達まだこちら側に来てまもないので、いろいろ教えてもらっています」
そんなにいろいろ教えていたっけ? 大体こっち世界関連の話は尾瀬さんからレクチャーされている気がするが──社交辞令混じりだろうし、わざわざ突っ込むようなことはしない。あとその後ろで金守さんが笑みを浮かべたまま特に喋らないの、これ完全に外部向けモードだな?
後レオは何で微妙に距離を取った? ……まぁ放っておくか。金守さんがその動きに気づいてレオの方を一瞥したけど、すぐに視線を戻して特に気にはしていないみたいだし。そしてそんな二人の様子には気づかず、ミズホと秋葉ちゃんは話を続ける。
「オーゼンセさん、ユージンさんから話を伺ってましたし映像では見させていただいてましたけど、直にあうとやっぱりすごいですね……!」
「すごい?」
「あのあの、語彙力無くて申し訳ないですけど、本当に綺麗な方だなって」
「あらありがとう。ユージンからなんて聞いてたのかな?」
「モデルさんで、あたし達の世界でもあまりみないレベルのすごい美人さんと伺ってました!」
「あらあら、それはさすがに誇張が過ぎるわね」
そう言ってクスクス笑いながら、ミズホは視線だけを意味ありげにこっちに向ける。
……いや別に俺はお前が美人だってことを否定したことはないだろ。
しかし、最近知ったコイツの内面を教えたら秋葉ちゃんはどういった反応をするんだろうか。ちょっと興味があるが、範囲攻撃で俺にもダメージが来そうなきがするのでやめておく。
それよりこのまま話が進行するとよくない流れになりそうなのでそろそろカットインするか。
正直ミズホやレオに関して何を話したか覚えていないが、今みたいな話を目の前でされるのもアレなので俺の方から声を掛けることにした。
「秋葉ちゃん、金守さん」
「あ、はい」
「なんでしょうか?」
呼びかけに更に何かを言おうとしていた秋葉ちゃんと、ここまで黙っていた金守さんがこちらに視線を向けてきたので俺は言葉を続ける。
「二人ともこっちに来てて大丈夫なの? メディアの方々がすごいこっちを見てるけど」
俺達の方をちらちらとみている連中の数が、明らかに倍以上に増えた。
そりゃそうだろう、彼女達は今季のBリーグの優勝チームの精霊使いでしかも実質今季デビューのルーキー。おまけに俺とは違い天然の美少女コンビだ。話題性は充分だろう。ついでにいえばSAリーグの優勝チームはなんというかいつも通りなので話題性に掛けるから、今日一番注目されているのは彼女達ではないだろうか。
俺のそんな言葉に、秋葉ちゃんはちょっと困ったような笑みを浮かべて答える。
「あはは……ちょっと逃げてきちゃいました」
「逃げて?」
「囲まれそうだったので。あとユージンさん達が見えたので挨拶にきたかったですし」
「ユージンさんと一緒ですよ」
秋葉ちゃんの言葉を補足するように、金守さんがフフっと小さく笑いながら言う。
「ユージンさんも記者さんたちから逃げてここに来てるんでしょう?」
……俺はその辺意図してこっちに来たわけじゃないんだけどな。ただここが安全地帯だと分かってからしばらくここにへばりつくことに決めたから違うとは言い切れないけど。
「でも俺達と金守さん達じゃポジションが違うでしょ」
俺の話題性はさすがに今の姿から3か月以上たって大分落ち着いてきてるからメディアとしても聞くことは大してないだろうが、彼女たちは来期SAリーグで上がるチームだ。メディアとしてもいろいろ聞きたいだろう。
「ふふ、秋葉ちゃんが逃げてきたなんていったから心配してくれてるんですね」
「まぁ、うん、そう」
「ご心配なく。あたしたちはまだメディア慣れしていないから、基本的に今日の応対もオーナーやマネージャー、チームメイトが当たってくれています。勿論後である程度は受ける必要はありますけど、今はちゃんとマネージャーに許可を頂いてきてますので大丈夫ですよ」
メディア慣れしてなくてもこの子ならそつなく応対できそうな気はするが──チームの方からOKが出ているなら俺がこれ以上言う事ではないか。
「そういうことなんで、しばらくご一緒させてくださいね」
「まぁここにはネタに飢えた獣はよってこないらしいから、そういう事ならゆっくりしていくといいよ」
「あはは、酷いこといってますねー」
俺の言葉に秋葉ちゃんはそう言って笑ってから、ふとその笑みを止めるとじっと俺の方を見てくる。
「……どしたの?」
「いえ」
じっ。
上から下まで全身を眺めまわされる。
え、何? と思ってると動いていた視線が、俺の視線と合わせる位置に戻ってきて、彼女はニコっと笑みを浮かべる。
「チームコスチューム姿初めて生で見ましたけど、やっぱりすっごくお似合いですね! 可愛い!」
「あ……うえ?」
「近くで見たかったんだけど機会がなくて……やっと見れました!」
確かにこっちの世界で俺と秋葉ちゃん達が直接会うのは世界を移動するときだけだから、チームコスチューム姿で会った事はないけど……うちのチームコスチューム下はズボンだし上もどう見たって可愛い系のデザインではないんだが(俺の感性としては恰好いいと思っている)。
大体可愛いって事なら俺より秋葉ちゃんや金守さんの方がずっと可愛いだろう、そう返そうと思ったがなんだかスカした感じがしてしまって言い留まった。
「一緒に2ショット撮りたいけど、撮っても日本側には持っていけないんですよね……」
そう呟きながらうーんと悩む秋葉ちゃんに、金守さんが(少なくとも俺が見ている限りは)秋葉ちゃんにだけに向ける柔らかい優し気な笑みを向けて言う。
「フフ、今度尾瀬さんにその辺りなんとかならないか聞いてみましょうか。それより秋葉ちゃん、もう一つの用件は伝えなくていいの?」
「あ、そうだった」
「用件?」
「はい、実はユージンさんとお話したいって人がいて」
そういいながら彼女は振り向くと
「……あ、丁度こっちにきました!」
こちらに向かって歩いてくる人影に対してブンブンと手を振った。そしてそれに気づいた相手側も小さく手を振り返す。
それは。見知った人物だった。直接あったことはない。だが精霊使いの中では最も有名であろう人物。
髪の色は白。ミズホのような銀髪ではなく、加齢による白髪だ。そしてその顔にはこれまで過ごしてきた時を表す年輪のように皺が刻まれている。だが背筋はまっすぐに伸び、その立ち姿には力がみなぎっている。
「浦部ユキ江……」
現在の精霊使いの中で最強とされる老婆だった。




