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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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エレメンタラーズアワード開始前


エレメンタラーズアワードは、中央統括区域(セントラル)で行われる。まぁ六都市のあちこちから人が集まる事になるので当然といえば当然だ。


会場はその中央統括区域(セントラル)の外れ、論理解析局のある建物の最寄のあるホールを持つ施設だった。リーグ戦事務局が保有する施設だ。


俺達は今、その施設が間近に見える荒野の上に立っていた。


近くにはレオやミズホ、それにエルネストのスタッフたちがいる。そして人間以外にも、俺達の機体を積載したトランスポーターや移動指揮車などチームの車両が停車していた。更にはその向こう、少し離れた場所には同じような編成の他所のチームの車両も停車している。それも複数チーム分だ。


──別にこれから試合があるとかそういうわけではない。俺達がこれから参加するのはエレメンタラーズアワードの表彰式だ。


エレメンタルアワードは三部構成で行われる。


一部が各賞の表彰式。

二部が立食パーティ形式で、一部のお偉方の挨拶があったり今季のハイライトシーンの放映があったりする。

そして三部が機体と精霊使いをセットとした撮影だ。そのため、各チーム精霊使いだけではなく精霊機装も持ち込んでいうわけだ。ちなみにトランスポーター以外の車両も来ているのはスタッフ以外の撮影もあるためである。


「これだけ精霊使い関連の車両が集まってるのも壮観な光景っスねぇ」

「確かになぁ」


周囲を大きく見回しながらのレオの言葉に、俺は同意を返す。


通常は一カ所に集まるのは2チーム分、論理崩壊(ロジカルブレイク)に対する防衛出動でせいぜい3チームくらいまでになるが、ここにはそれを大きく超える数の車両が集まっている。レオはこんな数が集まってるのを見るのは初めてだろうし、それは俺も同様だ。オールスターならこれくらい集まるのかもしれないが、さすがにCリーグの俺達にはその辺は縁がないしな。


「これ、みんな後で精霊機装起動して並べるっスよね。撮影したいなぁ」

「お前は撮られる方だけどな」

「ユージンさんもっスよね」

「ソウダネ」


表彰されるのは勿論嬉しいが、それに付随するそういったものは正直サボりたい。一応プロだからそういうわけにはいかないけど。


まぁ今回はSAリーグの面子が撮影の主役になるのは間違いないので、こちらはほどほどになるはずだ。というか本来ならCリーグのしかも優勝でも個人賞でもない精霊使いなんて大して撮影されないハズだが……まぁ、うん。さすがにこれまでの傾向から予想よりは多くは来るんだろうなってのは覚悟してる。チームメイトに被写体として強いのもいるしな。


「何?」


俺の視線に気づいたミズホがそう聞いてきたが、特に答えずに視線をそらす。と、ミズホは俺の後ろに回りもたれ掛かって来た。


「なーにーよー」

「ええい引っ付くな!」


今の時期の陽気だと普通に暑苦しいので振り払う。それを見てレオが残念そうな顔で取り出しかけたスマホを仕舞いなおした。


「ったく。単純にお前は被写体として映えそうだなと思っただけだよ」

「あら、それならユージンもじゃない? 武骨な鋼の機体と小柄な美少女なんて、アンバランスで逆にいい被写体でしょう」


……その組み合わせ、確かにアリだなと思っちゃうんだよな。自分が対象じゃなければ。


「ま、さすがにアタシ達がメインになる事はないから大丈夫よ」

「そうだな」


俺はミズホの言葉に頷いて他のチームの方を眺め見る。

これだけチームがいるんだ(しかも実績は基本的に俺等より上)、俺達の所に集まるところはさすがにありえない。──というか、さっきからちょっと思ってたんだけど、数多すぎねぇ?


参加人数を正確に把握しているわけではないが、確かチームとしての参加は俺達を含めて5チーム。それ以外に個人賞での参加者もいるが、個人賞は大抵優勝チームに所属しているのでそれ以外の参加者はそれほどいない。それを考慮してみた場合、明らかにトランスポーターの数が多すぎる気がするんだが。


「なあミズホ、レオ。今季から表彰対象の賞増えたとか聞いてる?」

「聞いてないっス」

「アタシも」

「でも明らかに数多いよな?」

「多いわね。何かサプライズ的な発表でもあるのかしらね?」


俺の問いにレオは首を振り、ミズホは首を傾げる。近くにいたチームスタッフに聞いてみたが、やはり何もしらなかった。


んー、やっぱりミズホが言う通りサプライズなんだろうか? 近場にいるチームはクレギオンやアズリエルなど優勝チームなので、普通に表彰予定のチームだ。それ以外にぽつぽついる単体の車両は個人表彰者だろう。そしてそれとは更に別で少し離れたところに割とチームがバラバラの車両が集まっている箇所がある。あのグループはなんなんだろう、特別なチームとかそんな感じで発表されたるするのかな?


「ん?」


そんな事を考えながらそちらの方を見ていると、そちらのグループの方から一台の車両がこちらに向かって走ってくるのが見えた。トランスポーターなどの特殊車両ではない、普通の車だ。


その車は真っすぐこちらに向かってきて──うちのチームの近く、でもちょっと離れたところに停車した。


そしてその停車した車両から見知った姿が降りてくる。


「あれ、イスファさん?」


車から出てきたのは、先日あっという間の逃走を見せたイスファさんだった。

彼は車を降りると小走りに、まっすぐこっちに向ってやってくる。視線もこっちを見てるので多分俺に用件なんだろうと、手を上げて挨拶をしておく。と同時にミズホがスッと俺から離れた。──俺に対する言動がアレなことを除けば細かい気づかいの出来るいい女なんだけどな、コイツ。


そしてそのミズホと入れ分かるように俺の前までやってきた彼は


「こんにちわ、イス……」

「先週はすまなかった!」


挨拶をしようとした俺の声を上書きする大きな声と共に、彼は勢いよく頭を下げた。それがあまりの勢いだったので、俺は思わず半歩後ずさってしまう。


「は、はい?」

「せっかく声を掛けてもらったのに、ろくに返事もせずに逃げ出してしまって」


呆気にとられる俺に対して、彼は頭を上げながら申し訳なさそうな顔で言葉を続ける。


「ああ、あの時の」


普通に考えればそれ以外ないんだが、謝罪の勢いのせいですぐに頭に浮かんでこなかった。


「その……駆け寄ってくるユージンさんの姿を見た瞬間頭が真っ白になってしまって」

「はぁ」


あの時の俺、パーカー着てたしそんなに普段と露出は大差なかったと思うんだがなぁ。


「水着、見るだけでダメです? でもそれだったらあの場所に来たのは無謀では」

「あの場所に行ったのは友人に半ば無理やり連れていかれたんだが……さすがに見るだけだったら大丈夫なんだ。それに近くに来られても最初っから構えていれば会話は難しいにしても耐えれる。ただあの時は急だったし、友人に対する感じで振り返っちゃったから」


成程、まったく意識してなくて心構えができていない状態だったからあの控えめの格好でも耐えきれなかったと。

──難儀な人だなぁ。とりあえず今度からは正面から近づくことにするか。


「まぁなんとなくの理由は予想ついてましたし、気にしてないから大丈夫ですよ」

「そう言ってもらえるとありがたいよ」


彼はそう言って安堵の息を吐く。どうやら結構気にしていたようだ。

と、そこで俺は気づく。今日ここに集まってる精霊使い達はアワードの表彰者達だけのはずだが、彼は確か対象者ではないはずだ。だとすると、


「あの、もしかしてそのことを謝るためだけにわざわざここまで?」


その問いにイスファさんはちょっとだけ照れ笑いを浮かべながら答える。


「ええと、半分だけ正解かな」

「半分?」

「ああ。実はここの近郊の地域に論理崩壊(ロジカルブレイク)の発生予想が出ていてね? それに対応するためにやって来ている」


論理崩壊(ロジカルブレイク)


知ってたか? と横で話を聞いていたレオに聞いたが、知らないと首を振る。それに対しイスファさんはああ、と言葉を続けた。


「割と急な話だったらしい。ウチに話が来たのも昨日だったからね」

「チームに直接来たんですか?」

「ああ、ウチのチーム以外にもいくつか。しかも精霊使い自体を名指しでね」

「はい?」


立地の問題や他の最寄のチームの出撃が見込めない時などに、チーム自体に明確に要請がでることは確かにある。だが、その中で誰が出撃するなんて話は聞いたことが……いや、この前の俺がそうだった気がするけどあれはイレギュラーだろう。


そんな疑念が顔に出ていたのだろう、イスファさんがこれはあくまで予想なんだがと前置きした上で話し始める。


「その指名された精霊使いなんだが、その殆どがウチの都市、アルスツゥーラの出身者なんだ。今回のアワード、見ればわかると思うんだけどウチの都市出身者が殆どいない。だから論理解析局やリーグ戦に出資しているウチの貴族の誰かが、アワードの側で活躍させようと考えたんじゃないかなと思っている。そもそも本来であればアワード参加者だけでなんとかできる話だろうし」

「それにイスファさんも指名された感じなんですか?」

「いや、うちはザックだけだった。ただその話を聞いてね……その、丁度いいチャンスと思って僕も一緒に出撃させてもらったんだ」


成程それで半分正解か。丁度こっちに来る予定が発生したからそれに便乗してやってきたというわけだ。

しかし連絡先は教えてあるんだから電話でもよかったのに律儀な人だなぁ。


「さて、それじゃ謝る事もできたし僕はそろそろ失礼するよ。そろそろ君たちは会場にいかないといけないだろうしね」

「あ、本当だ」


時計を確認したら、会場へ向かう予定時刻の5分前を切っていた。


「来期は同じ会場で参加したいものだね。それじゃ失礼するよ」


そう言って彼は手を振りながら車の元へ戻ると、走り去っていった。それを見送っていると、いつの間にか戻ってきていたミズホが俺の両肩にポンと手を置いた。


「それじゃアタシ達も会場に行くとしましょうか」















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