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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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浜辺の奇妙な人々②

目の前で行われた謎の行動に俺が呆然としていると、隣に誰かがやってくる。


「何があったの、今の」


ミズホだった。彼女は俺同様、イスファさんが走り去った先を見ている。そこに彼の姿はもうないが。


「わからん……話しかけたら逃げられた」

「ふむ……」


俺の言葉に彼女は口元に手を当てて少し考えてから、


「シチュエーションに負けたのかしら」

「シチュエーション」

「浜辺というロケーションで、ちゃんと肌を隠しつつも胸元や下半身で白い肌をさらした美少女が自分の名前を呼びながら駆け寄ってくるというシチュエーションにドキドキしすぎちゃったとか」

「……それでだめだとイスファさんくっそ妄想激しい人になっちゃうんだが」

「あたしは彼の人となりをよく知らないから、あくまで想像だけどね。なんにしろ何か彼の感情を揺らしてしまう要素があったんでしょう」

「マジかよ。ていうかこの程度でダメなのになんでこんな施設にきちゃったんだ」

「修行じゃない?」

「修行かぁ……」


それにしたってイスファさん地雷多すぎねぇ? この分だとまともな男女交際とかできるようになるのだいぶ先の話になるぞ。修行するにしてもこの程度でダメなんじゃぁ、もう何かしらの荒療治しないとどうにもならない気がするが──まぁそこまで俺が気にする話じゃないか。


「……とりあえずいっちゃったものは仕方ない、買うもの買って戻るか」


パーカーのポケットから財布を取り出し、その中から硬貨を一つつまんで自動販売機へと投入する。


ええと、俺はミネラルウォーターでいいか。

ボタンを押し、音を立てて落ちてきたペットボトルを取り出す。そして


「ミズホ、お前は何を飲むんだ?」


振り返ってそう問いかけると、ミズホは何故かこちらではなく海の方を見ていた。


「どうした?」

「いや、なんか変な人がいて?」

「変な人?」


釣られて俺もそちらを見る。


変な人がいた。


砂浜に膝をつき、こちらの方に向けて顔の前で両手を合わせて拝むようにしている鍛えられた体をした大柄の男。


その顔が見知った顔だと気づいた時、俺は反射的に手に持ったペットボトルをそちらに向けて思いっきり投げつけていた。


筋力がそのままなので小柄な少女が投げたとは思えない勢いで飛んでいったペットボトルは、だが男の手前で地面に落ちる。──いや、勢いで投げちゃったけど手前に落ちてよかった。頭にあたったりしたら事だし。


「またお知り合い? あれヴォルグ・ラムサスよね?」

「まぁ一応……」


問いかけてくるミズホにそう答えていると、ラムサスさんが立ち上がりペットボトルを拾い上げた。そしてそのままこちらの方に歩み寄ってくると俺の前で跪き、まるで王に剣を差し出す騎士のような体勢でペットボトルを差し出してきた。


──えーと。

俺は差し出されたペットボトルをとりあえず受け取りながら、俺は彼に声を掛ける。


「ラムサスさん」

「はい」

「奇妙な行動をとるのはやめていただけませんか」

「申し訳ない。そのお姿のあまりの神々しさに、気が付いたら祈りを捧げていました」


意味わかんねぇよ。

なんとなく頭痛みたいなものを感じながら、ミズホも呆れているだろうと横を見てみると彼女はなにやら真剣な顔で、


「神々しい……それは確かに」


何言ってんのこの人。

だめだ、こんなの二人同時に相手にしたら脳が死ぬ。とりあえず問題が大きい方だけ処理しよう。


「とにかく。とりあえず立ってくださいラムサスさん」

「は」

「前も言いましたけど、妙な行動取らないで普通に話しかけてくださいよ」

「いえ、ここで会えると思っておりませんし、先程の行動は魂から出てしまった行動なので」

「他の人に何事かと思われるんでやめてください」

「難しいですがユージンちゃんのお願いなので善処します」


難しいのか。


「しかし、次のそのお姿を見れるのは来週かと思っていたんですが、今日の私は幸運ですね」

「来週?」

「エレメンタラーズアワードですよ」

「ああ」


エレメンタラーズアワードは、シーズン終了後の表彰式兼パーティーみたいなものだ。各リーグ戦の優勝者と個人成績トップの者、それから優秀チームという形で優勝チーム以外でもう1チームが表彰されることがありる。これは基本は昇格チームになるんだが、昇格チームがなければ該当チームなし、或いは防衛線で活躍したり印象的な試合を行ったチームが選ばれる。俺達はこの枠で今回呼ばれていた。"異界映し"撃破の功績と、その結果の不戦敗がなければ昇格戦へと進んでいたであろう戦績からの受賞だ。


ちなみにラムサスさんはチームとしての表彰ではなく、SAリーグの今季最多撃破者としての個人表彰である。


──実績考えるとすごい精霊使いのはずなんだけどなぁ、この人。


それにしても、エレメンタラーズアワードか。


「俺達、初めてなんだよなぁ」


前回は昇格戦までいったが、今回のラウドテック同様そこで敗れたので呼ばれる事はなかった。


「表彰役としてセレス局長も来るんだっけ」


先程言った通り優秀賞の選択基準は論理崩壊(ロジカルブレイク)に対する防衛戦の結果も加味される為か、その表彰者として論理解析局のトップであるセレス局長が前回は参加していたはずだ。


だが、その言葉にはラムサスさんが首を振った。


「いや、今回はセレス局長は来ないハズです。あの方はたまに長期出張でしばらく中央統括区域(セントラル)を離れるんですが、今回その日程と被ってしまったらしくて」

「あ、そうなんですか」

「日本側に行っているらしいですね」


そういえば俺の件の対応をしてくれた時も、しばらくはそのまま日本側に滞在していたな。多分彼女の能力を持ってやらなければいけないことがいろいろあるんだろう。


しかし、彼女は不在か。おかげさまで俺は日本側でも問題なく暮らせているので、改めてそのお礼を言おうと思っていたんだが、仕方ないな。


って……ん?


なんか周囲に人が増えてきている? わざわざ足を止めてこっちを見ている連中もいる。


「あー。ここ更衣室の方からの通り道だし、人目ひいちゃうわね。面子が面子だし」

「確かにな」


精霊使いの中でもトップクラスの美貌を持つ銀髪の美女、今季SAリーグの最多撃破者、そして性転換少女。そんなのが人通りの多い場所で立ち話してたらそりゃ人目を引くか。リーグ戦関係者しかいないから、さすがに囲まれて騒ぎになるまではいかないが、


「えっと」

「これは解散した方が良さそうですね。ユージンちゃんもあまり目立ちたくないでしょうし」

「そうね、それに飲み物待ってる子達もいるし」


俺の気持ちを汲み取ってくれたラムサスさんの言葉に、ミズホも同意する。そして彼は以前と同じようにその精悍な顔にだが愛嬌のある笑みを浮かべると


「それでは私はこれにて失礼します。また来週お会いしましょう」


そういって手を振り立ち去っていた。

その彼の後ろ姿を眺めながら、ミズホが小さな声で呟く。


「ユージンの知り合いって変な人多いわよね」


お前も含めてな。


















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