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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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土曜の昼下がり

日常シーンを書くと予定より長くなる病気にかかっています。


「ええっと、後は……」


左腕に買い物かごを引っかけ、メモを眺めながらよく冷えた店舗の中を歩き回り商品をかごに放り込んでいく。


あの後冷蔵庫にあった残りもので適当に昼食をとった俺は、最近購入しなおした自転車にまたがり(サイズ的に元々持っていた自転車を使い続けるのは無理だったので買い直した。自動車? めったに使わないのに維持費だけかかって馬鹿らしいので、アキツに行くようになってからは欲しいと思ったことすらない。必要がある時はレンタカーだ)最寄りの大型スーパーへと向かった。そこはショッピングモールという程ではないが、敷地内にいくつかの店舗が存在するため日常的な買い物は大体そこで済ませる事ができる。


今俺がいるのは、その中の一つであるドラッグストアだった。


今日購入するのは生活必需品と食料品だけだ。敷地内には衣料品店や雑貨店もあるが雑貨は特に欲しいものはないし、衣料品はさすがにこういう所のだと品揃えが少ないので……うん、着れるサイズが殆どない。正確にいうとあることにはあるが完全に子供服なので──さすがにそれは御免こうむる。


そもそも自転車で来てるからそこまで荷物増やせないしな。こっちのドラッグストアで日用品を買った後にそれを一度預けて、隣のスーパーで食料品を買って終了だ。


「んーと……」


コンディショナー、台所用洗剤とキッチンペーパー、ボディーソープにナプキン。歯磨き粉にウェットテッシュと、俺は買い物かごの中にあるものとメモを見比べていく。ええと、これでこっちで買うべきものは全部かな? ……うん、抜けはない、残りのメモにあるものは全て食料品だ。それじゃ後は精算するだけだな、と俺はレジの方へと向かう。


「……」


その途中、通路の横に陳列されているものが目に入り、俺は足を止めた。


そこには赤色を中心とした化粧品が展示されている。ルージュという奴だ。その向こうにもさまざまな種類の化粧品が並んでいた。


それらを目にして、ふと思う。


俺もそのうち化粧を覚えなくちゃいけないのかなぁと。


現状俺は化粧をしたことはほとんどない。中身が男だと認識されているアキツ側に化粧していく気はないし、会社の方も今は社内勤務で外部の人間と殆ど合うことは無いからすっぴんで通している。俺が化粧したのはこないだの広告撮影の時と、エニシング・エレメンタラーズ出演の時だけだ(あの時はミズホがパパっとやってくれた)。だから自宅には化粧用品はほぼないんだが……


でも、社会人にとって化粧はマナーとも聞くしなぁ。自分みたいな幼い外見でも外部の取引先相手と会うときは化粧すべきなのだろうか? この辺よくわからない。今度鳴瀬さんあたりに聞いてみるかな。


必要な場合は……ミズホにレクチャーしてもらうか。頼りっきりなのは悪いが、俺の中身が男性だと認識した上で、女性のいろいろに関して気軽に相談できる相手がアイツくらいだから仕方ない。

正直化粧はさっぱりわからんが、せめてルージュとファンデーションくらいは持っておくべきなのかねぇ?


「ご興味がおありなんですか?」


ん?


突然背後から声をかけられた。ああ、ルージュの前で突っ立てたからどれを買おうか悩んでると思われて、店員が声をかけてきたのか。でもなんか聞き覚えがある声だな?


俺は声の主の方へと振り返る。


「こんにちわ」


店員じゃなかった。


「金守さん!?」

「こんなところで奇遇ですね、村雨さん」


そこに立っていたのは制服姿の店員ではなく、私服姿の美しい少女──金守さんだった。それに気づいた時俺は思わず手に持った買い物をかごを背後に隠してしまう。


……いや。隠す必要ないだろ。逆に胡散臭くなるわ。


そんな俺の行動を、だが特に彼女は気にするわけではなくただ肩越しに俺の背後の方へ視線を送る。

そしてにっこりと笑って


「そんなに真剣に化粧品を見つめられて、お化粧に興味を持たれ始めたんですね? ええ、悪くないと思いますよ、容姿的にはちょっと背伸びしようとしているようにも見えてしまいますが。村雨さんも()()女の子ですものね、可愛くなりたい気持ちはわかります」

「え、あ。違うぞ!? 別に化粧品が欲しくて見てたわけじゃないからね!?」

「いえいえ、そんな隠す事じゃないですよ。着飾りたくなるのは当然の事です」

「だーかーら!」

「ふふっ……」


必死に弁明しようとする俺に、金守さんは小さく笑う。


あ、これ半ば揶揄っているな?

こんな子だったかなぁ、この子。男時代はもっと距離感ある感じだったけど、やはり年上の男ということで警戒されていたのだろうか。喋る相手としては正直今の方が話やすいけどな。そもそも以前はこうやって愛想笑い以外の笑顔を向けられることもなかったしなあぁ。


ただとにかく、きっちり理由は説明しておく。


「ああ。そういえば村雨さんは社会人でしたね? すっかり忘れてました、そんな可愛らしい姿なので」


くそ、まだ揶揄ってきやがる。このまま続けてても勝てる気がしないし話題を変えよう。


「そんなことより、こんなところでどうしたのさ金守さん」

「どう、とは?」

「いや、ここに何しにきたのって」

「ドラッグストアに買い物以外で来る用件がありますか? 話題転換に無理がありますよ村雨さん」

「うっぐ」

「ふふ……まぁいいでしょう」


え、ちょっとまってこの子まだ中学生だよね? 何この手玉に取られている感じ。

金守さんはくすくす笑いながら言葉を続ける。


「私自身はここには何の用もないです、お付き合いですよ」


そういって彼女が横に視線を向ける。その視線を追っていくと、こちらに向かって手を振りながら歩み寄ってくる一人の少女が見えた。


「秋葉ちゃん?」

「ええ、彼女が買いたいモノがあるからと」


そんなやりとりをしている間に、秋葉ちゃんが少し足早にこちらに向かってやってきた。


「こんにちわ、村雨さん」

「こんにちわ、秋葉ちゃん」


挨拶をかわしつつ彼女の手元を見ると、そこには風邪薬が握られていた。


「あれ、風邪? 大丈夫」

「あ、違います違います。常備薬が切れたから買ってきてってお姉ちゃんに頼まれて」

「成程」


そりゃそうか、俺みたいに一人暮らしをしているわけじゃないんだから調子悪いのに自分で風邪薬を買いに来るはずないもんな。


「村雨さんは日用品の買い物ですか?」

「そんな感じだな」


そう答えつつ、すすすとさりげなく位置を移動する。秋葉ちゃんは揶揄ってはこないだろうけど、逆に真面目に俺が化粧に興味を持ってるとか思われるのも嫌だし……あ、金守さんがこっち見てまた小さく笑ってる、畜生。たださっきの話題を続けるつもりはないようなので黙っておく。秋葉ちゃんは特に気にしていないようだった、よし。


「久々の完全オフなんだけどね、寂しいことに特に用事もなくってね」

「完全オフ……そうですね、村雨さん社会人ですしね」


ああそっか、学生さんはつい最近まで夏休みだったか。さすがに彼女たちはずっとアキツに行っていたという事はないだろうし、それなりに完全オフの日はあっただろう。


と、秋葉ちゃん達の後ろを一人の中年女性が通った。明らかに迷惑そうな顔で。


しまった、通路で話し込むのは確かに邪魔すぎるな。話切り上げて別れるか……あーでもせっかくあったし、ちょっと言いたいこともあるしな。


ふむ。


「なぁ二人とも、この後の予定空いてるか?」

「特に決まった予定はないです」

「あらあら、10歳も年下の女の子をナンパでしょうか?」

「……金守さーん」

「冗談です。私も大丈夫ですよ」


……距離感近くなったけど、これいじると楽しいおもちゃ扱いされてないかな? まぁいいか。


「ちょっとそこの喫茶店で話していかない? 奢るからさ」



















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