後期リーグ戦第7戦:天王山③
叫びの声の主はレオだった。
そしてその直後に轟音が響く。
「何があった!?」
叫びながら少し離れた位置で戦闘していたレオの方に視線を振ると、レオが倒れこんだティアムの機体に攻撃を叩き込んでいた。
そして先程の問いに対する回答も帰ってくる。
「ちょっと抜かれそうになりました! でも大丈夫っス、止めたんで!」
マジか。レオが抜かれてティアムが俺の方に来ると確実に戦線が崩壊するから危ない所だったな。
「いきなり通信機から百合プロポーズが聞こえたんでそっちに一瞬意識が取られたっス!」
「ミズホーーーーっ!」
「えっ、アタシ!?」
レオの脳みそがそっち方面にやられてるの知ってるだろ!いや直接くっついてるんじゃなくて言葉だけでも反応するとか俺も思わなかったけども!
「お前後で説教な」
「えっ……ほんと?」
なんで嬉しそうなんだよ。ってうわぁ!
ガナフの銃口がこっちに向いているのに気づいて慌てて俺は機体を横に滑らせ、飛来する銃弾を躱す。
あーもう、なんで味方に集中力をくずされなけばならんのだ!
っていうか、よく見たらレオとティアムの霊力がゴリゴリ削れてるぞ!?
「レオ、大丈夫か!?」
「大丈夫っスけど決着までそんなに時間はかからなそうっス!」
機体を捻った際に再度確認したレオは、超近距離からのどつきあいと機銃の乱射による消耗戦に突入していた。確かにこのままいけばそう遠くない先でどちらかが落ちるだろう。それが相手側ならいいがレオが落ちると不味い。
こちら側の戦域は先程の攻防でこちら側が多少有利に進んではいるが、そこに相手側がもう一機加わったら一気に戦況がひっくり返るだろう。
であればこちらものんびりしている暇がない。
「ミズホ、釣りだす! フォロー頼む!」
「わかった!」
事前に話は詰めてあるから、何をとは問わずに彼女が同意の言葉を返してくる。
その言葉が耳に届いた瞬間、俺は機体を突進させた。
正面に位置する丘陵へ向けて。
その丘陵の向こう側にガナフの機体がいるがこちらは無視。奴の機体が丘陵の向こう側に完全に隠れるように機体を進めながら、俺はライフル、滑腔砲、おまけで連装ロケットランチャーをクロッカに向けて叩き込んでいく。同時にミズホもラッシュを開始、慌てて遮蔽物に隠れようとするクロッカの機体を追い立てるかのように逆方向から攻撃を加えていく。
2方向からの全開攻撃に当然耐えられるものではない。そう判断したであろうクロッカの機体は、より近い距離に位置するミズホへと被弾覚悟の突撃を開始した。ミズホが後退しながら攻撃を加えているが勢いが強い、これでミズホは捕まるだろう。そしてクロッカが強硬策に出たということは、だ。
「……っ!」
機体に衝撃が走る。体が揺さぶられるが、射撃しようとしてくるところは見えていたので混乱することはない。追撃で放たれた一撃は後退して躱した。
そのまま機体の向きを捻りこちらに向かってくる姿を正面に収める。
攻撃は上方から。俺との間を塞いでいた丘陵の頂に立ったガナフの機体が、銃撃を放ちながらこちらへ向かって坂を駆け下りてきていた。俺はそれを確認するとクロッカへの攻撃を取りやめガナフへの応戦を開始する。
ミズホの方へ視線を送れば、彼女の機体はクロッカとの近接戦闘へ突入していた。だが先程の二人掛かりのラッシュと強引な突撃でクロッカの霊力は大分削れている。近接戦闘技術ではミズホよりクロッカの方に分があるが、これならミズホ単騎でもなんとかなるハズ。
であれば俺はガナフに集中!
俺は気合いを入れなおすと、こちらへ向かってくるガナフへ向けて攻撃を放ちながらダッシュを開始した。
後方へ向けて。
……いやだって俺接近して格闘戦闘に持ち込まれたら終わりだからな?
こういうシチュエーションになった場合、リーグ戦の視聴者とかが望むのはお互い駆け寄っての近距離からの乱打戦らしいがしったこっちゃない。そんな回避もへったくれもない距離で戦ったら俺は速攻で落ちる。
なのでとにかく距離を取るのが大前提だ。そのためにわざわざこっちは精霊機装で後ろ向きへ走る練習までしてるんだから。バック逃走の達人というすごいんだか格好悪いんだかわからない通称でたまに呼ばれているくらいだぜ俺は。
とはいえ、いくら練習したところで正面向きに走ってくる相手より早く走れるわけがない。
なので攻撃を使って足止めをする。
ライフルを使っての直接射撃、だけではない。霊力を込めずに滑腔砲を足元にぶち込むことでも相手の足は止められる。
正直今の俺には先程のクロッカのように被害度外視で真っすぐ突っ込んでこられるのが一番厳しいんだが、今のガナフは被ダメージを減らすために機体を左右に振りながらのジグザグ走行をしているのでなかなか距離はつまらない。
俺の方がある程度のダメージを経費と考えて、いくらかは被弾しながら最低限の回避で移動しているので猶更だ。
無理して突っ込んでこないのは、現状逃走している俺を削れていっている事と、俺を撃破した後他の戦闘に参加することを考えての事だろう。
「後の事を考えて中途半端な選択をするのは悪手だぜぇ……」
そのガナフの行動に思わず俺は舌なめずりをしてしまう。
全開駆動を用いて一気に距離を詰めての肉弾戦がガナフにとっての最善手でありこちらにとっての最悪の手。
俺の事には目もくれず、ミズホに攻撃を集中して一気に落としにかかるのがこちらからみた向こうの次善の策だったが、奴はどちらも選択しなかった。
全開駆動を用いなかったのはその制限のせいだろう。移動するだけでも霊力を大きく消耗する全開駆動は、一度起動したあと精霊駆動へモードチェンジすると、しばらくの間再度起動することができなくなる。かといって継続して使い続ければどんどん消耗していく。
それでも俺が奴の攻撃を的確に避けて行けば、向こうは全開駆動を用いて短期戦等をしかけてきただろう。だが先程から向こうの攻撃は俺の霊力を削り続けている。恐らくはこのまま削り続け、一気に削り切れるところまできたら距離をつめ勝負を決める。それが向こうの思惑のハズだ。
だが、その行動はこちらの狙い通りだ。
俺はモニターの右下に視線を向ける。
そこには正方形の枠と、その中で点滅する赤いマーカーがあった。そして最初は下側に表示されていたマーカーはどんどん中央へと近づいていっている。
その表示を見て、思わず俺の口元に笑いが浮かぶ。が、
「ぐっ!」
機体がまた揺れる。わずかに機体をそらして躱したつもりだった相手の銃撃が躱しきれず被弾したのだ。
──ちょいと不味いか?
位置取りに関しては計画通りだ。後もうちょっとで目的のポジションまで到達する。
計画通りに行ってないのは被弾率だった。位置誘導を意識しすぎたせいか、本来なら回避できているものまでいくらかくらい、予定よりも多く霊力を削られている。
いよいよ切り札の重要性が増したな。ここでとちるとそのまま持っていかれる可能性が高い。
視線を再度右下に移す。
──マーカーの位置が中央を超えた。
ここだ。
「タマモ、全開駆動!」
全身から力が吸い取られていく感覚、それと同時に機体全体が完全に自分の支配下になる。
俺はそれと同時に、機体を大きく横へ飛ばした。そしてそのまま右方向へと疾走する。
ガナフがその俺を追撃するために進行方向を変える。俺を逃がすまいと全身の兵装をフルに稼働させながらこちら側へ突進し──
次の瞬間、ガナフの機体の足元で爆発が巻き起こった。




