後期リーグ戦第7戦:天王山②
ラウドテックの編成は、近距離2に中距離1というCランクでは一番よく見られる編成だ。だがうち2機は格闘戦も射撃戦も同じに近いレベルでこなすため、戦術の幅が広い。
近接型のティアム、近接だが中距離もこなすクロッカ、中距離だが近接もこなすガナフ。
3機の内完全な近接型のティアムは、今正面からレオとぶつかり合っていた。
戦闘技術的には間違いなくレオを上回るが、その分レオは豊富な霊力を持つ。更に単純な戦闘技術でいえばレオも低いわけではなく、またこれまでの試合で充分に成長している。タイマンでレオが勝ちきれるかは少し厳しいかもしれないが、しばらくは任せておいてもそうそう落とされることは無いだろう。
そして俺は今ミズホと共に残りの2機を相手取っていた。
前線を張るのはクロッカとミズホ。格闘戦に持ち込もうとするクロッカに対して一定の距離を保って攻撃を叩き込んでいるミズホ、そのミズホの動きを阻害するために攻撃を行うガナフ、更にその動きを阻害するために攻撃を行う俺といった構図だ。
尤も、俺はガナフのみに攻撃を行っているわけではない。
ライフルを両手に構え、同時に放つ。更には機体に直接装着された滑腔砲も放ち、必要に応じて連装ロケットランチャーも叩き込んでいく。気分的にはヒャッハーとか叫び声を上げたい感じだ。
今の俺はガナフ、クロッカを両方収めた位置取りをしている。結果としてレオがティアムに抜かれると少々ヤバイことになりそうな位置取りになっているが、ここは今のレオの実力を信用する。距離は中距離、いつもより戦場に対して距離を詰めている感じだ。
こちらが実力で上回る相手であれば、俺は遠距離もしくは遠距離よりの中距離をとる。その距離からでも充分に相手を削れるし、その攻撃と前衛二人で充分に抑えこめるからだ。そして俺は近接されるとクソ雑魚になるため万が一のそのリスクを避ける為でもある。
だが実力が同等もしくはそれ以上の相手に対してそれではダメだ、脅威度が足りない。距離ある位置から狙いにくいポジションを的確に取られ、どんどん前衛が削られる。特に射線の通らない地形が多いこのフィールドでは猶更だ。
だから俺はリスクを覚悟で前に出る。
前衛が抜かれた時にピンチに陥る可能性があるし当然敵の射撃も飛んでくるが、距離を詰めれば当然射線も通しやすくなるし、相手がこちらの攻撃を回避する可能性も下がる。
「ぐっ……!」
機体が大きく揺れた。被弾したのだ。
見落としたか……!
まぁ多少の被弾は覚悟の上ではあるが、見落としで喰らったのはよろしくないな。
この距離での戦闘は本当に忙しい。
複数機を標的とした射撃。サイズが大きいとはいえ動き回る機体をそれぞれ別の武装で狙うのは難しいが、中距離戦闘ではこれくらいできなければ役に立たない。
それだけではない。
遠距離と違いこの距離であれば機体は出来る限り動かし続かなければいけない。止まってしまえばただの的だし、複数機に対する射線を抑えた上で相手が回避しづらい角度を狙っていく。俺の場合はそのうえで更に一気に距離を詰められないようなポジション取りも狙わなくてはいけない。
更には相手の位置だけではない、細かい動きも重要だ。弾道予測があるといえ、距離が近づけばほぼ回避は無理だ。だから相手の銃口を注視し引き金を引かれる前に射線から外れる必要がある。
戦場の全体の把握も必要だ。ミズホは問題ないがレオにはある程度全体位置の指示を出す必要がある。
それらのことを同時に処理しながら時に標的を狙い、時には敵の動きを操作する。
霊力があればある程度回避を無視して正面からの打撃戦も可能なんだが(というか大抵の中距離機はその戦い方が多い)、俺の霊力量だと撃ち負けは確実なのでその戦い方はできない。だからこその並行処理の多さだ。
正直、脳みそへの負荷がかなりしんどい。中距離戦闘をした場合、試合終了後はヘロヘロになっていることが大半だ。
だが──楽しい。
集中力が研ぎ澄まされる。圧倒的な情報量に頭が悲鳴を上げつつもテンションは上がっていく。
なんというか……、仕事で追い詰められて一人で残業している時やたらハイテンションになって頭は冴え作業効率も上昇する時があるんだが、その感覚に近いものがある。その状態が終わった時どっと疲れが来るのも一緒だ。
これあれだ、スポーツ漫画とかでよくあるゾーンに入ったって奴?
いやだな、残業でゾーンに入るのって。
まぁともかく、この感じになると脳内で何かがドバドバでる感じがして興奮というか快楽というかとにかくハイになる。休みなく回り続ける思考が焼ききれそうになりながらも様々な思考が処理されていく。
モニターの中、ガナフの機体が消える。勿論掻き消えたわけではない。Bランク以上の精霊使いが使用する魔法の中には瞬間的に姿を消すとかいうふざけたものもあるが、ここはCランクで魔法は使えない。単純に遮蔽物の向こう側へ消えただけだ。
俺は咄嗟にミズホの位置を確認し、それから先程までガナフが立っていた丘陵の端に沿うようにして霊力を弾丸とするライフルから弾丸を2発放つ。
放たれた白い閃光は真っすぐに戦場を走り──丁度丘陵を超えようとしたところで鋭角に曲がりその向こう側へと消えた。
同時。
ガナフの機体のゲージが減少する。
「お見事」
通信機から賞賛の声が流れると同時、俺が狙った位置に対して更に銃撃が叩きこまれる。ミズホだ。
攻撃の結果は俺の位置からは見えないが、ガナフの霊力ゲージが更に減ったので命中したのだろう。恐らく想定してなかった俺の攻撃を受けたことで、回避が間に合わなかったというか回避行動にそもそ入れなかったはずだ。
全く、甘いんだよ。
この戦場フィールドは遮蔽物が多いため、確かに遠距離の俺には相性が悪い。だが中距離の俺には決して相性は悪くない。射線が通る場所が限られるせいでこちらから見えない位置でもそれまでの動きと他の機体──今回でいえばミズホだ─の位置で相手の場所の予測が立てられる。
そしてガナフは恐らく攻撃が来るとしてもホーミングを予測していただろうが、残念ながら俺はこの距離での戦闘中でも霊力弾の軌道はきっちり引ける。なのでホーミングの軌道では届かない位置に向けて2発ぶち込んでやった。
結果は見ての通りって奴だ。
「完璧なタイミングだったわ、ユージン。もうちょっと遅かったら全開射撃がこっち来てた」
「あのタイミングでこっちの射線切ってきたってことはそういったことだろうからな。そっちこそナイス追撃」
恐らくガナフは俺の位置からの射線を切れる位置を抑えてからの全開攻撃でミズホを一気に削ることで、膠着しつつあった戦況を動かそうとしたのだろう。だが俺の動きを読んで追撃を放ってくれたミズホの攻撃でむしろ戦況はこっちに傾いた形だ。代わりにミズホはクロッカから一撃をもらったようだが、それを差し引いても今の一連の攻防の収支はこちらが完全に上回っている。
「付き合い長いからユージンのやろうとすることは大体予測つくからね。これってもう夫婦に近い感じなのでは? だから結婚しようひゃあ!?」
ミズホが悲鳴と共に慌てて機体を後退させ、その直後クロッカと恐らくは立ち直ったガナフからの攻撃が彼女の元居た位置を襲ったのが見えた。
「アホなこといってないで戦闘に集中しろぉ!」
「ごめんなさーい!」
追撃までは見事だったが、その後の位置取りでガナフからの射線が切れていなかったのはアホすぎる。回避できたからよかったようなものの、今の直撃もらってたら完全に戦犯だぞ。
とりあえず視界内にあるクロッカの方にミズホと一緒に攻撃を叩き込むことで、クロッカの攻撃を途絶えさせる。
「うわぁ!!」
今度はなんだよ!?
比較的早めの執筆スピードが取り柄だと思ってるんですが、仕事のピークと体調不良が同時に来たことで更新遅れました、申し訳ない。
あと書いてて思ったんですが戦闘シーン入れないとユージンはただのぺっぽこTS美少女になりますね……




