ユージンのはじめてのおしごと
本筋と全く関係ない話なので一話でぱぱっと終わらせる予定だったんですが長くなったので分割しました。
連投します。
「あっつ……」
額から流れる汗を手の甲で拭う。上半身は最近夏向きの服を仕入れるためにまた二宮さん達に頼んで服屋に行ったとき涼しそうだなと思って買ったキャミソールだが、むしろ腕とかバチバチ陽射しに照らされて余計暑さを感じるような気がする。買うときに一緒に買ったサマーカーディガンを羽織ってくればよかったかなとも思ったが、まぁ今更遅いだろう。今日は予定の時間に遅れるわけにはいかない。
俺は今、真夏の日差しの元、歩きなれた道を歩いていた。アキツではなく、日本側だ。
今日は月曜日、だが仕事に向かう途中ではない。というか仕事にいくんだったらこんな格好していない。多少暑くてもちゃんと胸元の隠れる服を着ていく。
視線来るからなぁ……
それなりに胸があるせいで、露出の多い服で人の多い所にいると確実に視線を感じる。特に電車が問題で、身長が低いせいで大抵の視線は上からとなるから、こんな格好で混雑した電車に乗ってたら間違いなくある一点に視線を受けてしまう。
視線が集まること自体もそれほど得意じゃない上に、見ず知らずの男からそういった視線を受けるのは本当に勘弁だからな。
同性になって初めてわかる苦労だ。自分もそういった視線を向けないように気を付けないとな、と思ってしまう。最も今の外見の俺にちらりと見られるくらいでは相手は気にしないかもしれないが、かといってガン見していいというわけでもないだろう。
じゃあそれでそんな恰好をした俺が今どこに向かっているかというと、いつもの週末と同様に尾瀬さんの家だった。この道はそれほど人通りが多いわけじゃないからあまり人目も気にする必要はない。ついでにいうと向こうに行った後は車移動となるので同様だ。
今日は祝日。三連休の最後の一日だった。海の日という奴である。
通常なら、こういった連休の時は向こうに行きっぱなしだ。俺は一人暮らしなのでわざわざ毎日帰宅する必要はない。向こう側での移動時間の件もあり、何か途中でこなさないといけない予定がない限りはずっと向こうにいて連休の最終日に戻ってくる、それが常なのだが、今回に限っては日曜日の試合後一度こちらへ戻ってきていた。
別に用事があったわけではない。どちらかというと──精神的な問題だ。
向こうにいると、今日これからある事が気になって寝ることすらできないのではないか──そんな気がして昨日の試合終了後こっちに帰ってきて、自宅で10年くらいまえのロボアニメ見つつ眠りに落ちた。おかげで妙な夢を見る事なく朝を迎えられたが……そう、迎えてしまった。
気乗りしないが行かないと不味いので服を着替え、照り付ける太陽の下足を進める。すでに尾瀬さんのマンションは目の前だ。ともすれば重くなる足をなんとか動かして目的地へ向かう。
──俺も男だ、一度引き受けた役目は果たさねばならない──
心に喝を入れ、俺はマンションへと向かう足へ気合を入れた。
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しんどいっ、まじしんどいっ……
「ユージンさん、笑顔がまた固くなってきてますよー」
「は、はーい……」
スタッフの声に俺はなんとか笑顔を浮かべ直しながら、ずっとこちらに向いたままのカメラのレンズを見る。正直自分では上手く笑えているのかさっぱりわからないんだが、とりあえず声をかけていたスタッフは満足したらしく、撮影継続の指示を受けたカメラマンがもう何十回切ったかわからないシャッターを切る。
──甘く、俺は撮影を甘く見過ぎていた。
異世界アキツの中核ともいえる六大都市の中でエルネストが属する都市カーマイン、その都心部に近い区域にある撮影スタジオ。俺はいまそこの一室の中に立っていた。横には威風堂々(撮影中のモデルにこの表現はおかしいか?)としたミズホの姿もある。
今日はエルネスト──チームではなく、チームのメインスポンサー(兼ナナオさんの旦那の会社)であるアパレル企業の方だ──の衣装撮影の日だった。以前ナナオさんから伝えられていたものだ。
本来こちらの世界での時間的な余裕があまりない俺は、これまでに比べて数十倍に膨れ上がった取材やらイベントやらの要請(大部分は断ってもらっているが)は全てオフシーズンに回してもらっているんだが、エルネスト本社よりやはり話題になっている内にということで早期の撮影の依頼が来た。
いくらナナオさんの旦那の会社とはいえチームの運営資金を大きく支えるメインスポンサーからの要請、しかも衣装撮影の件はきっちり契約にも含まれている為断る事もできず、今回丁度試合直後で手も空いておりかつ俺も祝日で休みだった今日が撮影の日取りとなったわけだ。
当然俺はこれまでそういった撮影はされたことは無く(エルネスト社の衣装撮影もこれまでは声がかからず、それ以外は言わずもがなだ)、精霊使いとしての撮影も大体はチーム毎や集合写真だけな俺としてはこの撮影日程が決まって以降思い出すたびにいろいろと億劫な気持ちになっていたが、最終的にはカメラマンの前で十数枚とられるだけだと覚悟を決めて今日に臨んだわけだが
……考えが甘すぎた。
撮影が始まってからすでに結構な時間が立ったが、まだ撮影は終わらない。これまでに何着も服を着替え(というか俺の着方が悪いのか、何回も"着せ替え"られた)、その度にミズホと並んで、時には俺一人で撮影。すでに何十枚という写真が取られているハズだが、撮影はまだ終わらない。
また別のポーズの指定が入る。言葉で言われてもよくわからない俺は途中からはミズホが直接俺に手取り足取り(言葉のまま)整えてくれるのに為されるがままになっていた。
つらい。
何度も何度も着替えて、カメラマンやスタッフの指示を受けて表情やポーズを変えていく。それだけでもつらいのに(特に表情がつらい)、それを大勢の人間にみられながらやっているのがとてつもなくつらい。
ねぇなんで、20人前後も人がいるのこの撮影!? この人数に見られながらポーズ撮って撮影……しかも女の子として撮影されてるのものすごくきっついんだけど! 何これ羞恥プレイ!?
いや、大体は何のためにいるかはわかるよ? カメラマンとそのアシスタントとかの撮影自体のスタッフ、それからさっきから細々俺やミズホの服や髪をいじってくるスタイリストの人、この辺は当然必要な人材だ。それからところどころ注文を付けるエルネスト社の人たち。まぁこれもクライアントだからわかる、そんなに人数来る必要あんのかって気もするが。
だがナナオさんにレオまで何で来てんの? 特にレオお前本当に関係ないだろ! こういった姿知人に見られながらやるのすげーきついんだけど!
あと撮影以外も大変だった。普段俺は基本的に「ほら外見とか幼いしさ」と言い張ってノーメイクなんだが、ここに到着したらがっつりメイクされた。正直人に顔をいじられていくの割ときつかった。それと髪。服変える度に毎回いじられるんだけど、そこまでする必要あんの?
そんなこんなで最早俺の精神はボロボロになりつつあった。早く終わってくれ……




