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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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精霊と精霊使い


「おはようございまーす」

「あ、ユージンさん。おはよーッス!」


イーストサン駅から徒歩10分の場所にあるエルネストのチームハウスとなるビル。そこに軽くジョギングして5分程でたどり着いた俺がビルの2階にある精霊使いが待機するように割り当てた部屋に入ると、元気の良い声が部屋の中に響いた。


挨拶を返してきたのは金髪を短く切りそろえたトレーナー姿の青年。まだ顔に幼さの残る彼は、レオンガルド・クローガーという。通称レオと皆に呼ばれているエルネストのチームメイトだ。


因みにユージンというのはこの世界での俺の通称だ。俺の本名は村雨有人というのだが本名のアルトだとこの世界では基本的に女性の名前になるらしいのでユウジン⇒ユージンという理由でプレイヤー名を登録させてもらっている。


とりあえず俺は自分の席に腰を降ろし、PCの電源を付けながらソファの上にいるレオの姿を見る。


マッチョという程ではないものの、割と鍛えられたがっしりと体をしている彼は今ソファの上で丸っこくデフォルメされた虎のぬいぐるみのようなものと戯れていた。


多分日本人であればこの光景をみたら不釣り合いさを感じるだろう。だが、この世界──というか精霊使いの間では珍しい光景ではない。


レオが今戯れているぬいぐるみのようなもの、それはあくまで”ようなもの”なだけであってぬいぐるみそのものではない。実際それは普通の動物のように手足を動かしてレオの体を登ったりしている。


この存在の名は電子精霊(エレメント)という。──彼らこそが俺達が精霊使いと呼ばれる所以となる存在だ。


彼らは元々はAIを組み込まれたこの世界のとあるサーバー群で構成されたバーチャル空間上に存在するNPCのようなものらしい。それが精霊使いと契約することでその契約者の持つ霊力という力を媒体にしてこの世界に実体化しているという話だ。正直何を言ってるのか理解できないと思うが、謎技術過ぎて俺もよくわかっていない。分かっていないが扱えているからそれでいいのである。


「しかしディールは本当になつっこいな」

「タマモはこんな感じじゃなかったんスか?」

「そこまでじゃれついてくるような感じではなかったなぁ」


ディールは今レオが戯れている虎のような精霊の名前、タマモは俺が契約している精霊の名前だ。


精霊は先程言った通りAIが組み込まれており、個体に応じてある程度性格も違う。タマモはどちらかというとクールなタイプで契約当初から2年以上たった今でもディールのようなじゃれつき方はしてこない。


ちなみに今は俺はタマモを呼び出していない。先程言った通り電子精霊(エレメント)は俺達の霊力でこの世界に実体化しているため、実体化中はそれほどではないとはいえ少しずつ消耗するのだ。なので申し訳ないが俺はタマモには基本的には仮想空間の方で遊んでもらっている。


じゃあなんでレオは呼び出しているのかというと、別に単純に遊びたいから──というわけでは勿論ない。

精霊は契約したら即100%の力を使えるというわけではない。契約当初は精霊に対して霊力が馴染んでおらず霊力の伝導率が悪いため同じ力を使っても余分に力を消耗する。そのため契約当初から半年~1年くらいの間はこまめに呼び出して霊力を馴染ませていくのだ。


ようするにこれ驚くなかれ、遊んでるように見えて実はトレーニング中なのである。

ちなみに精霊はこの形態だと特に何の能力も持たないので特に危険はありません。


さて、もふもふと戯れる19歳青年を眺めててもしょうがないな、俺もやるべき事をやろう──そう思ってようやく立ち上がったPCに視線を向けると、今度は部屋に別の声が響いた。


「あれー、もうユージン来てる。ありゃー、アタシが最後かー」

「……まだ10時前だし充分早いけどな。おはよう、ミズホ」

「ミズホさん、おはよーッス!」

「ハァイ、オハヨハヨー」


間が悪いなと思いつつ操作しようとしていたマウスから手を離し入り口の方に視線を向けると、銀髪の、間違いなく美女と表現して差支えのない女性が腰まである長い髪をなびかせて部屋に入って来た。その女性は俺の挨拶にヒラヒラと手を振ってこたえながら自分の席に乱雑に手に持っていたハンドバッグを置くと、その顔にニヤリとした笑みを浮かべて相変わらずソファの上で精霊と戯れているレオに向けて言った。


「さっき外でナナオさんに会ったんだけど、聞いたわよーレオ。まーた引き抜きの連絡が来たらしいじゃない」


お、それは初耳だ。


「すげーなレオ、これで3チーム目か。今度はどこだ?」

「B1のクライア・クレインらしいわね」

「マジかー。頼むぜレオ、移籍するにしても今シーズン終わってからにしてくれよ」


俺達の言葉にレオは抱えていたディールを横に置くと、慌てて体を起こして否定する。


「いやいやいや! 俺は今の所移籍する気は無いっスよ!」

「別に遠慮はしなくていいんだぜ? 上位リーグのチームに移籍するのは当然の権利だろ」


精霊機装リーグでは別に精霊使いの移籍自体は別に珍しくない。下位のリーグで実力を示した精霊使いが上位のリーグのチームに移籍するなんてのはよくあることだし、同リーグ内で別チームに移籍するなんてこともある。ただしチーム所属状態からの移籍は選手だけでもなく所属チームと移籍金の合意も必要となるが。その合意が出来たら移籍金を払って晴れて移籍完了というわけだ。


精霊機装リーグ戦は放映権料などの収入は基本的に協会は一元管理しており各チームに分配が行われているが、その分配の量は下のリーグに行くほどに少なくなるので下部リーグに所属するチームに関してはこの移籍金は重要な収入源の一つだ。実際ウチのチームも前シーズンまで所属していたメンバーは多額の移籍金を残して上位リーグのチームに移籍し、その金の一部を使って地域リーグからレオを獲得している。


レオは移籍してきた時確か3シーズンの契約をしたはずなので当面フリー移籍はできないが、B1のチームなら充分な移籍金を払えるだろうから彼が望めば移籍は可能だろう。


だが改めてレオは首を振る。


「今の俺が一気にB1いってもボッコボコにされるだけッスよ。霊力があってもそれ以外は何もかもが足りないッス、俺まだデビューして2シーズン目ッスよ!?」

「レオはそういう所堅実よねー。見た目によらず」

「どういう意味ッスか……というか聞いてるッスよ、ミズホさんも引き抜きの連絡来てるって」

「あたしはマスコットになるために移籍する気ないしなぁ」


そう言って彼女は肩をすくめる。

彼女、ミズホ・オーゼンセは選手としての実力は──正直言うとそこまで突出したものはない。勿論弱いというわけではないが、霊力のキャパシティは俺より多少多い程度……すなわち平均レベルから抜け出していないものだ。反射神経は高めだが、それ以外の能力はC1リーグ相当といって差し支えないだろう。そして彼女自身自分の実力は理解しており、そんな自分に来る分不相応なリーグからの誘いは彼女が行っている副業──その美貌とスタイルを生かしたモデルだ──を目当てとした広告塔としての引き合いだと彼女は認識している。

だが彼女のモデルはあくまで副業だ、モデルという仕事だってチームの為に始めたところがある。そんな彼女が移籍をするハズなどなかった。


ちなみに俺に関しては移籍の誘いが来た事など一度もない不人気物件だ。それは霊力が高くないのもあるが──何より俺の戦闘スタイルが影響している。

俺の戦闘スタイルは中~遠距離からの狙撃が主体だ。だがエンターテイメントとしての人気のスタイルは近距離での格闘戦や、中距離での激しい火力戦で、要するに俺の戦闘スタイルは映像的に映えずに不人気なのだ。精霊機装はガチの戦闘を行う戦いだが、それはそれとして華やかさも重要になるなかで俺は実力以外の部分でも選択肢に入りづらいのである。


まぁでもその辺自分的にはあまり気にしていないので、俺は茶化した感じでレオ相手に言ってやる。


「レオくぅ~ん、ところでそれは一切誘いのない俺に対する当てつけかなぁ?」

「欠片もそんなつもりないっスよ!? 大体ユージンさん普通に強いじゃないっすか、誘いにこないチームに見る目がないんですよ!きっと近いうちにいろいろ誘い来ますって」

「あらじゃあ、いつまでたってもマスコットとしてしか誘いがこない私は弱いからってことかしら」

「んなこたぁ言ってねぇっスよ!?」


あー、レオは反応が良くていじるの楽しいなぁ。

慌てた調子で弁明するレオの姿を見て、性格の悪い二人はケタケタ笑う……最近ではわりとよく見かける、緩んだ空気。


だがその雰囲気を一気にかき消すように、突如部屋の中にサイレンと共に警報が流れた。


『緊急警報です』






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