ゴシップ記事は勘弁
「いや……なんだよ、このタイトル」
これって、つまり……そういうことだよな?
「どこのメディアが流したんだ、こんなの」
「あー、これ流したのメディアじゃないんスよ」
俺の呟きに対して、レオが否定の言葉を送ってくる。
「これ、支部の休憩室ッスよね? ここでの撮影禁止になってますから発覚すると以降出禁になったりするっスから、こんな微妙な写真くらいでリスクを負ってまで画像を流すとは思えないっス」
「そもそもあそこ、そういう三流のゴシップメディアは入れないしね」
レオの言葉を、俺の背後からミズホが補足する。
確かにそうだ。あそこはこういった何もないところから無理やり話しをでっちあげるような三流出版社はそもそも施設の中に入ることすらできないハズ。
「でもだとしたら、誰がこの写真を……?」
「それが、明確には分かってないんスよねぇ」
「? どういうことだ?」
「元々は、匿名の誰かがSNS上に流した写真なのよ。それが拡散されて、精霊使い関連のゴシップ記事を上げているまとめブログや配信者が取り上げて更に広まったって感じね」
「元の投稿者自体は思ったより画像が広まって焦ったのか、アカウントも消しちゃったんスけどね」
……ということは、考えたくないがその画像を撮ってネットの海の中に放流したのはリーグ戦関連のスタッフの可能性が高いのか。向こうの世界でも職場に来た有名人を写真に撮ってネットに流して炎上した馬鹿がいたけどこっちでもいるんだなー、そういう奴。それからブログとかもそうだ。何も他愛もない一枚の写真から妄想を膨らませてありもしない話をねつ造するのがいるのは出版社だけではないのも、やはり向こうの世界と一緒か。
ただまぁ、さすがに妄想を膨らませすぎだ。
「馬鹿じゃねーのか、この記事。こんなただの休憩室で机挟んで会話するしてるだけの写真でこんなこと書いても、誰も釣られやしないだろ」
「……まぁ、普通にならそうなんスけどね」
「えっ、まさか信じてる奴いるの!?」
こんなのでそういった噂が立つくらいだったら、精霊使い界隈そんな噂だらけになるのでは?
「勿論、殆どの人間は笑い飛ばしている感じっスよ。ただ……」
「ただ?」
「相手がフレイゾン・イスファってのが不味かったのよ。というか、彼だったからこそこんな記事が出来上がった感じね」
「記事にもありますけど、イスファって精霊使いのコアなファンの中では女性に対するガードが固いって有名なんスよ」
「何せあの外見でしょ? 一般の女性ファンだけじゃなく、精霊使いの中でもわりと女性人気が高いはずなのにインタビューとか雑誌の企画を除くと女性と一緒に話をしているところとか全く見かけられないのよ彼」
あー……それはまぁねぇ、うん。だろうね。
「そんなだからファンの間では女性嫌いだとか、嫉妬深い婚約者がいてちょっとでもそういう姿を見せると怒られるとか、男が好きなんでしょ本命は誰なの!? とか言われてたりするのよね」
一番最初のが近くはあるけどちょっと違うな、彼自身はむしろ本当は女性と親しくしたい健全な青年だろう。ただ女性に対する対人レベルが足りないだけで。あと一番最後の言ってる奴は興奮せずに腐界へ帰れ。
「まぁそんな噂が立ってる人物が女性と楽しそうな話をしている姿が流れたらそりゃ話題にはなるっスよね。しかも相手は今話題の美少女っス」
「ゴシップ記事好きやセンセーショナルな話題が好きな人たちって、ろくな根拠がない話にでも喰いついたりするからね。でもってそういう人たちはそれを更に尾ひれ付けて広めたりするから……」
そう俺の後ろで語るミズホの声に苦い響きがある。恐らく彼女自身過去に覚えがあることなんだろう。精霊使いとしてはCランクでもモデルとしての知名度があるから、そういうのの標的とされたであろうことは想像に難くない。
「しかし……うげぇ、マジかー」
あそこで会話してただけでそんなことやってんのかよ……これあの時イスファさんが否定しないで横にすわったりしてたらさらに酷い事になってたな。そこだけが唯一の救いか。
てかさー。俺も一応ランクが低いとはいえ人気エンターテイメントのプレイヤーだし、全く望まない事な上実力とは全く関係ないとろではあるが有名になってしまったから、そういうゴシップの話題に乗せられることは多少は覚悟はしてたんだよ。
でもさ、それが男のイケメン相手だとは思わねーよ。せいぜいミズホが俺にべたついている姿が捉えられて記事にされるくらいだと思ったんだよな。ミズホの場合は少なくとも半分は嘘じゃないし。
"異世界で人気競技のプレイヤーしてたら性別変わったあげく、それから僅か一ヶ月程度で元同性の相手と熱愛疑惑を立てられました"ってあまりにあんまりじゃね?
しかもこれ下手するとイスファさんのファンの女の子に恨みを買う可能性もあるのでは? ガチ恋勢あたりに。元男の癖に女になったとたんに人気者に近寄ろうとする恥知らず的なアレでさぁ……地獄かよ。
「……はぁー……」
話を聞いていただけでどっと疲れが出てしまった。これは確かに今日は電車でこなくて本当に良かったわ。話の内容的に知っている範囲が限られるだろうけど、その代わりに聞かれた時に応対がくっそ面倒なのと単純に精神に対するダメージがでかい。女の子になったのと違ってこっちは本当にただのねつ造な上信じているのは一部だけっぽいから、放っておけばそのうち収まりそうなのが救いか。
「お疲れねぇ」
「そりゃ疲れもするわ……で、お前は結局なんで俺に抱き着いてきてんの?」
考えてみたらこの件とミズホが抱き着いてきてる事、何も繋がらないんだけど。
「んー?」
彼女は俺を抱く腕の力を強めてから答える。
「いやぁ、大丈夫だとは思うけどイケメンに落ちると不味いしさぁ。女の良さを思い出してもらうために押し付けてるの♪」
「お前が記事に振り回されてるじゃねーか!」
「内面がちゃんと男の子なのは分かってるけどさ、万が一を考えてね? うりうり」
「ばっ、体を揺らすな! 痴女かよ!?」
「女の子同士だし違うわよー? じゃれあってるだーけ」
「ありがとうございますありがとうございます」
レオ拝むな。お前もカミングアウトしてから吹っ切れすぎだろ。
「大体いらん心配だっての、俺の言動だって完全に男の時のまんまだろーが」
「……」
「……」
「え、ちょっと待ってなんで二人して黙るの?」
「だって」
「ねぇ?」
え、嘘。マジで?
「まぁ喋り方自体は変わってないっスけど」
「細かい所は変わってるわよねぇ」
「例えば?」
「歩き方とか座り方とか?」
それは体格というか骨格が変わったことが影響してるのでは?
「あと座る時とかきっちり足を閉じて座るようになったッスよね」
股を開いて座ってると視線が来るからだよ、主に男の。見られて困るもんでもないけど、それはそれとして男にじっと股間を見られるのは気持ち悪い。
「まぁ他にも細かい仕草がね。それに恰好も可愛いのが増えたわよねぇ」
「それはっ……」
仕方ないのだ。こっちの世界ではともかく日本側では俺は完全に女としか認識されていないから男時代のような服を着ていると逆に目を引いてしまうのもあり、二宮さん達に選んでもらって女性的な服を普段は着ている。こっちに来るときは出来るだけ動きやすいのを選んでるからそこまでではないにしろ、以前に比べたら当然少女っぽい服が増えている。しょうがないだろ、今の外見じゃ昔のような服は似合わないんだから!
「ユージンが可愛くなること自体は嬉しいんだけどねぇ。でもそれとは別に男の意識でいてくれないとアタシと結婚が難しくなるから困るっていう複雑なオトメゴコロがあるわけよ」
「捨てちまえそんなオトメゴコロ」
余計な事しなくても俺の意識は男のままだし外見以外が可愛くなることはねぇよ!
ちなみに記事の件自体は、イスファさんが自身が女性が苦手で慣れるために俺に協力を頼んでいたというなんのごまかしのない事実を語ったことで沈静化した(元々画像以外のソースがない件であり、当人からインパクトのある事が語られたせいで話題がそちらへ移った)。
やだ。こっちに迷惑をかけないために自分のウィークポイントを公開するとかイケメン……
いやキュンとは別にしないけどな?




