せかいのおはなし①
ちょっと世界に関する説明が続きます。申し訳ない。
トランスポーターの所まで戻ると、論理解析局のスタッフはすでに撤収準備を始めていた。
え、マジでこれで終わりなの? と思いつつ機体をトランスポーターに乗せて精霊機装から降りると、そこには撤収準備を終えて走り去っていく論理解析局の車両を見送るセラス局長(とエルネストのスタッフ数名)の姿があった。
「あれ、セラス局長だけ残るんですか?」
背後から声をかけると彼女は振り向き、いつもの笑みを見せながら答える。
「はい。詳細な解析を行うためスタッフは帰らさせて頂きましたが」
「それは構わないですけど……えっと、説明は局長からして頂けるのですか?」
「勿論です。ただ少し説明が長くなります。他のスタッフもいらっしゃいますし、エルネストの事務所の方で説明させて頂こうと思うのですがどうでしょう?」
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「それでは、順を追って説明させていただきます」
30分後、俺達はエルネストの応接室にいた。
部屋の中にいるメンバーはセラス局長、俺、ナナオさんの他にトレーニングと調整を終えたミズホとレオも同席していた。セラス局長より、聞いておいたもらった方はいいでしょうとの言葉があったためだ。
俺達4人の視線が集中する中、セラス局長はそれに全く動じることもなく、いつも通りの調子で語り始める。
「まず最初に今回あの場所に来ていただいてのは、あそこが論理崩壊の発生予測地域だったためです」
「え、でも今回警報とか出ていませんよね?」
疑問を発したミズホの言葉に、反応したのはレオだった。
「昨日の夜の崩壊予報だとあの区域は確か10%の確率が出てましたよ?」
「えっ、マジで?」
降水確率かな? 後崩壊予報って字面が悪すぎると思うんだけど、誰も突っ込まないんだろうかとたまに思う。
レオが今話した通り、この世界では天気予報と共に論理解析局から提供される崩壊予報というものが存在する。普通に一般に公開されている情報でニュース番組などでも天気予報とかと合わせて提供されるものだが、まぁ要するに論理崩壊の発生確率を予測したものだ。
これが50%を超えてくると各チームは警報の発令を警戒し、防衛出動に向けた待機態勢を取ったりするわけだが10%は事実上ほぼ発生しないのと同意味なので特に準備をすることはまずない。(天気予報で降水確率10%だから予定を変更するか、というレベルだ)
俺こっちだと普通のニュース番組(というよりも精霊機装以外の番組全般)みないからその辺の情報抑えてないんだよなぁ(そんな時間があったら分析やらチーム内でのコミュニケーションに時間を使うので)。高い数値が出ている場合はスタッフなりレオなりが教えてくれるし。
「でも10%だと何も起きないでしょ?」
「だな、何も起きなかったよ」
ミズホが聞いてきたので頷きながらそう返し、セラス局長に視線を向ける。
「ですよね?」
「ええ、あの区域では何も起きていません。そしてあの場所に限れば今は予測は0%になっていると思いますよ」
「あの場所?」
「ユージンさんに射撃していただいたあの場所です」
言ってる意味がよくわらかない。俺が射撃をしたことで論理崩壊の発生確率が下がったということか? なんで?
「……どういうことですか」
当たり前だがナナオさんも意味がわからないのだろう、そうセラス局長に問いかけると、彼女はナナオさんを見つめ返しながら答えた。
「結論から申しますと、ユージンさんのあのライフルは界滅武装化しています」
その言葉を聞いた途端、ナナオさんの表情が固まった。俺は聞いたことがない単語だったか、ナナオさんは聞いたことがあるってことか? そういう反応だよな。メカニックとかやってると聞くような言葉なのかなと思いつつ他のメンバーはどうかなと思ってミズホ達を見たら二人とも驚愕の表情になっていた。あれ、知らないの俺だけ!?
「マジっすか……あの伝説の」
「伝説の!?」
そんなワードが付くようなもんなの!? というか冷静に考えると世界を滅ぼす武装ってなんだよ、俺そんなもの説明もなしにさっき撃たされたの?
「……ユージンさんはご存知ないでしょうか?」
「あ、はい。すみません……」
「あれ? ユージン訓練所で渡されたテキスト読まなかった? あの中に書いてあったんだけど」
「……機体操作に関わるところや各種ルール以外の所は読み飛ばした……」
「あら不真面目」
「いやだってあの時俺まだ殆どこっちの世界の文字読めなかったんだぞ!? 辞書片手にテキスト読んでたんだぞ!? 全部なんて読み切れるか!」
「あはは、ごめんて」
「スカウト組と違って個別で講師などが付いていたわけではないので難しかったかもしれませんね。分かりました、では界滅武装に関して説明させていただきます。ええと、世界観に関してはご存知でしょうか?」
「世界観……物語の舞台設定とかそういう奴ですか?」
ファンタジーとか近未来とかスチームパンクとかそんな感じの。そんな意味合いをこめて言った答えに、ミズホとレオ、それにナナオさんまで「え、そこから?」みたいな顔で俺の事を見ていた。そんな一般常識的な話なの?
そんな中、セラス局長は相変わらずにこやかなままだ。
「こちらの世界では学校教育の中で学ぶ内容ですが、ユージンさんはその教育は受けていませんので仕方ありませんよ。それではそこから説明させていただきますね」
「ヨロシクオネガイシマス……」
なんか自分がすごく不勉強な気がして肩を落とす俺に、セラス局長はゆっくりと語り始めた。
「世界観とは、単純に言ってしまうとこの世界のルールです。人が生み出したものではない、世界そのもののルール。そうですね……例えば、あなたの世界では真空中の光の速度を超える事はできないとされていますね?」
「ええまぁ」
なんか細かいところではいろいろあるらしいが、相対性理論によって物質は光の速度である秒速約30万kmを超えることができないとされている。
「それが貴方の世界の世界観です。世界が定めたルール。ですがそれはあくまで貴方の世界だけのルールです」
「いや物理法則ってものが」
「その物理法則自体が貴方の住む世界が定めたルールなのですよ、ユージンさん。それ以外の世界では必ずしも同じルールが適用されるとは限らない」
「そんな無茶苦茶な……」
「ですが、貴方自身がその無茶苦茶な法則の体験者ではないですか」
……あ。
「あなたの世界では、ほんの一瞬の間に青年から少女の姿に変化するなどいう事象はあり得ることですか?」
「ありえ……ませんね」
勿論俺は自分の全てを知っているわけではないが、それでも言い切れる。こんな事象はありえないと。
「ですがこのアキツではありえる事象なのですよ。この世界特有のルールである論理崩壊という事象によって。まぁ論理崩壊自体が”この世界の常識を破壊する”という事象なのがちょっとややこしいですが」
「その、世界特有のルールというのが世界観ということになるんですか」
「簡単にいうとそうなりますね。ここまではよろしいですか?」
正直ちょっと曖昧としていて理解しきれているとはいいがたいが、大雑把なニュアンスは多分分かったと思う。ここで詳細まで聞いていると話がいつまでたっても終わらなそうなので細かい所は後で自分で調べるなりミズホ辺りに聞くことにして俺は頷いた。
「OKです、この世界観が大前提のお話ですので。それでは次に進ませていただきます」
「はい」
「大浸攻をご存知ですか?」




