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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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異世界通勤電車

これ以降、特に注釈はない限りは


異世界アキツ側での会話は対日本人の場合を除いてアキツの公用語で

日本側での会話は日本語で行っているものとお考え下さい。


転送施設の最寄の駅から乗った電車の中は、ガラガラというほどではないものの座れる程度には空いていた。

この世界の土日は日本と同じように休日で今はまだ朝も早く、しかもこの電車は都市の中心部から外れの方へ行く電車なのでこの乗車率はいつものことだ。まぁ土日にまで通勤で満員電車に乗りたくはないから助かるが。


しかし本当に、いつ見てもこの世界は異世界らしくないと思う。

今乗っている街中を走る電車もそうだし、窓の外に流れるビル群も、電車の乗客たちが手元でいじるスマホも、まるで元の世界で見る物と変わらない。


──いや、ビルに掲げられた看板や電車内に貼られた広告に書かれている文字は日本語ではないので、一応異国感はあるか。


だが、今俺がいるこの世界は紛れもなく異世界だ。それは電車の中にいる乗客の中に普通の人間にまじった耳が尖って髪の先端が木の根のようになった少女達や狼のような顔を持つ筋肉質な体躯の男、そしてマグロのような体に人の手と足が生えたような存在達がこの場所が異世界だということを実感させてくれる。


……いや待て、最後の奴初めてみたんだけど君肺呼吸なの? 直接聞く勇気はないけどさ……後でミズホあたりに聞いてみるか。


この現代日本に酷似した、だが明らかに日本にいない存在が普通に暮らしているこの世界の名は、アキツという。


ちなみにこの世界が俺達の住む世界と酷似している理由は酷く単純だ。


この世界は俺達の世界の技術を輸入している。勝手にだ。


世界を渡る転移装置など、俺達の世界に比べて明らかに進んだテクノロジーも存在するこの世界だが、大抵の技術に関しては俺達の世界より大体5年から10年前後遅れているらしい。なんでも俺達の世界から技術の情報だけを持ち込んで模倣しているとのことだった(基本的に直接モノを持ち込むことはないらしいが)。ようは技術を泥棒しているわけではあるが、世界が違うから元の技術を持つ日本の企業が損をすることはないし別段問題ないだろう。簡単に行き来できる世界があって、その世界に便利な技術があればそれを模倣したくなるのは当然だと思うしな。


俺がそんなこの世界に来たのは大体3年ほど前の事だ、それ以来俺はほぼ毎週末この異世界に足しげく通っている。とある目的のために。


その目的とは電車の中吊り広告にも書いてある競技の為だった。


『精霊機装リーグ戦』


その文字の横にでかでかと写真が掲載されている鋼鉄の騎士とも呼べる姿。全高10mを超えるいわゆる巨大ロボットを駆って戦うこの世界で最も人気の競技のプレイヤー、精霊使いと呼ばれる内の一人が俺だ。


──最も、競技が人気なだけで俺が人気なわけでもないけどな。


丁度さっきからこちらをちらちらとみて来ていた、エルフの少女二人のひそひそ話が耳に飛び込んでくる。


「ねぇ……あの人、確か精霊使いじゃない?」

「あー……結構前に確かに雑誌でみたような。ニホンの人だっけ?でもあんまりTVでみたことないような」

「あの人、C1リーグのプレイヤーだからね、TVにはあまり出ないと思う」

「えっ、ニホン人なのに!?」


はいはい、聞こえてますよっと。ひそひそ話するならこっちに聞こえないようにやって欲しいなぁ。とりあえず視線が合うと気まずい空気になりそうなので顔を背けてっと。


言われていること自体は別に大して気にならない。何せ概ね事実だし、勘違いする理由もわかるからだ。


精霊機装リーグ戦は2~4人で構成されたチーム同士で行う団体競技で、大きく分けて4つのリーグが存在する。最上位のSAから順にB、C、それからアキツを構成する6つの都市それぞれに存在する都市別リーグとなる。さらにそれぞれのカテゴリはその中で上位リーグと下位リーグに別れており、俺の所属している『エルネスト』はCランクカテゴリの上位リーグ──C1リーグに所属していた。このCランクカテゴリ、サッカーで言えばようするにJ3なのでテレビへの露出などは当然殆どないわけだ。


あとニホン人なのに、という言葉についてだが。

この世界に来て精霊使いとして活動している人間は俺以外にもそれなりにいる。確か今は20人前後いるはずなんだが、基本的に彼らは皆スカウト組だ、

精霊使いの基礎となる力で霊力というものがあるのだが(ファンタジー世界における魔力みたいなもんだろう)それを何らかの方法で測定して高い数値の人間をスカウトしているらしい。先程まで一緒にいた秋葉ちゃんや金守さんもスカウト組だ。(ちなみに彼女たちはゲームセンターで大型筐体で遊んでたらスカウトされたらしい)精霊機装では霊力の高さはあらゆる面で有利に働くので、その潜在能力を認められたスカウト組はいわば約束されたエリートだ。最初から上位のチームに加入する場合は殆どだし、多少下位のチームに参入してもすぐに上位のチームへと移籍していく。


それに対して俺は精霊使いになってから2年半たった今でもC1等にいるので才能があるのに燻ってると思われるのだが、そこにそもそもの勘違いがある。俺はスカウト組ではない。


この世界では、とあるこの世界特有の事象によって時たま別の世界から迷い込む彷徨い人(ワンダラー)と呼ばれる存在がいる。俺もその中の一人だ。先程見た人外の存在もその彷徨い人(ワンダラー)としてこの世界の迷い込んできた種族の末裔とされているので、大きな括りでは俺もさっきの謎の魚と同じ扱いになるわけだ。


ちなみに日本──というか地球から来る彷徨い人(ワンダラー)はそこそこいるらしい。が、そういった存在は基本記憶抹消処置(恐ろしいフレーズだ……)をした上で地球へと返される。こういう存在が地球上でたまに観測されるとされる神隠しにあった人達なんじゃないかと俺は思っている。


俺もご多分にもれずそうなる流れだったんだが、その前にたまたま見る事が出来た精霊機装の存在がその後の俺の運命を変えた。


子供の頃ゲームやアニメで見た巨大人型ロボット。それに乗って戦う事ができる(しかも生命の危険無く)事を知った俺はなんとかこの世界に残ってそのパイロット(この世界では精霊機装の乗者の事をそう呼ばないが)になれないかとそれこそ土下座する勢いで頼み込んだ。この機会を逃せばもう二度とこんなチャンスはないのは間違いなかったのでそりゃもう必死にだ。


残念ながら俺には精霊機装を操るために必要な霊力が(この世界の住人の)平均値の範囲内に収まる程度しかなかったようで難しいことはさんざ説明されたが、それでも縋りつくレベルで食い下がる俺に根負けしたのか最終的には半年までの猶予を得た。


そこからは死に物狂いだ。まず最初に最低限必要だったこの世界の公用語を猛勉強で覚え(ちなみにスカウト組は基本的に通訳が付く。尾瀬さんもあの二人の通訳役だ)、それから精霊使い育成の為のトレーニングセンターに毎週土日(+取れる範囲の有給休暇)をフルに使って通いつめ最終的に何とか期限ギリギリのところでとあるDリーグ(都市別リーグ)に所属していたチームに拾ってもらうことが出来た。


それが今の所属チームであるエルネストだ。チームオーナーのナナオさんには今でも毎日拝んでもいいくらいには感謝している。


「まもなくイーストサン、イーストサン。お出口は左側です」


おっと、いろいろ思い出しているうちに目的の駅に到着だ、乗り過ごしては不味いと俺は席を立つ。乗り過ごしても大体20分もあれば戻ってくることは可能だが、土日しかこの世界にいない俺にとってはわずかな時間でも重要なのである。


先程と違い窓の外にはビル等は少なく割と空き地も広がっている見慣れた光景を視界に収めながら、俺は電車が停車するのを待つ。


さぁて楽しくも忙しい2日間のはじまりだ。

わぁい、ブックマークありがとうございます。

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