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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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勝者会見


カミサマボクナニカワルイコトシマシタカ。


通常、C1の試合の勝利者インタビューに多くのメディアが集まる事は殆どない。SからC2までの全30試合を放映している一部の放送局と出版社、それに勝利者チームの本拠がある地域のローカルメディアくらいなのが通常、リーグ優勝をかけた試合ならそれプラスで他にもメディアは来るが、それにしたって集まりすぎだろう。これいつもの何倍いるんだ。


多分これ、さっきいったSリーグの試合が次にあるのも影響している。しかもその中にはメディア受けのいいイスファ氏もいるわけで。そっちの会見に来たけどついでに撮っとくかくらいの気持ちで来てる奴もいるだろこれ絶対!


「最初の一撃、まさに試合を決定づける見事なものでした。あれは試合前から考えていたのですか?」

「えっと、はい。数の不利があるのでその、一気に削って置きたくて、その、事前に決めてました」


インタビュアーに対する回答が自分でも情けないくらいにどもってつかえつかえになる、その様子を横で見ているミズホがクスクス笑っているのが視界に入った。


ばっか野郎!俺の人生でこんな数の記者から注目されたことなんて過去に一回もないんだよ!数十の視線がこっちに集中してるんだ、まともに喋れなくなっても仕方ないだろこんなもん! モデル稼業でカメラになれてるからって調子に乗るんじゃねぇぞ!


そう頭の中では怒鳴るが当然それを表にはだせず、俺は早く終われ早く終われと頭の中で唱えながらインタビュアーの質問にしどろもどろに答えていく。


「狙った4発全弾命中させたときはどう思いましたか?」

「えっとその、最初は狙ってたのは二発だけで、その後いけそうだったんでもう二発いって……うん、この勝負もらったって思いました」


本当の所はガウルの反応に呆れていたわけだが、そんなセリフを公の電波に乗せる度胸は俺にはない。


「その後の相手の動きをけん制する銃撃も見事でした。流石Cランク№1の狙撃手と謳われるだけありますね」


Cランクで遠距離からの狙撃する精霊使いって殆どいないじゃん。


「あはは……一応その、これだけが取り柄というか、はい。その、自分の腕でほこれぶっ!」


「……」

「……」


「大丈夫ですか?」

「らいびょうぶれふ……」


痛い。喋ってるだけで舌噛むとかどんだけ緊張してんのよ俺。


ちなみに記者さんズは俺が普通に喋れるようになるまで少しの間待ってくれた。──そんなやさしさよりここで俺のインタビューを打ち切って欲しかった。


だが俺の望みはかなわず、インタビューは続行される。というかさっきの待ってる時の記者さんズの目、優しさじゃなくて”獲物は逃がさないぞ”っていう肉食獣の目だったよね。


「終盤に見せた霊力弾での狙撃は匠の技でした。あそこまで綺麗な軌道を設定できるのはBランクでも殆どいないと思います」

「ひゃ……いや、さすがにそこまでじゃないです、ないです」


「後期リーグ戦最高のスタートを飾ったわけですが、後期の目標は」

「えっと、はい、昇格ライン……2位は目指したいです。前期3敗しちぇ……してるので優勝は厳しいので」


「好みの男性のタイプを伺っても?」

「はい、その、好みはちょっとまてなんだその質問!? 俺は男だって知ってるでしょ!?」


普通のインタビューの中で唐突に差し込まれた奇妙な質問に流れで答えそうになった俺は。すんでのところで気づき大声で突っ込む。この会見ゴシップ誌みたいなところは参加できないハズなのでどこの記者だよ今の!?


「ブプッ!」


質問の主を探して周囲を見回す俺の横で、ミズホが噴き出した。


「さっきまであんなにどもったり噛んだりしてたのに、突っ込みでいきなり流暢になるのおかしいでしょ」


彼女の言葉につられ、記者たちも笑う。なんだこの和やかな雰囲気──まさか俺の緊張をほぐすためにこんな質問を?


そんなわけないだろ。


ああ、もう試合に関する質問は終わった気がするし終わりでいいよな! そう決めて後ろに下がろうとしたら俺が一歩下がるよりも早い動きでマイクが突き出された。あかん、顔が笑ってるけど目が完全にまだ逃がさないぞって言ってる、


──結局その後明らかに試合とは関係ないものを含めていつくかの質問に答え、ようやく俺は解放された。ミズホと位置を入れ替わり、俺とは違いカメラの数にも全く動じず質問に答え始めるミズホを見ながら俺はそっとため息を吐く。本当はいますぐこの会場を後にしたいところだが、さすがにそういう訳にもいかない。多少まだ俺に対する視線を感じるが、少なくともカメラはインタビューを受けているミズホの方に行っているしこれくらいは我慢しよう。次の試合の時間もだんだん差し迫ってきているはずだ、そこまで長引くことは無いだろうし。


そう思って、部屋の入り口側に備え付けらている時計の方に視線だけ向けた時、俺は部屋の入口近くに予想外の人物がいる事に気が付いた。


ガウル・ラルステン。先ほど俺に絡んで調子に乗ったことを言っておきながら今日の試合で何もできずに撃破された男がそこにいた。


基本的に試合後のインタビューが行われるのは勝者側だけだ。何かの記録を達成したとかそういったことがあれば話は別だが、そうでなければ敗者側は荷物を纏めてさっさと撤収である。実際その場にいるのはガウル一人だけで、他のチームメンバーの姿はない。


……実はこれ、チームメンバーに責められて居場所がなくてこっちに来たとかだったら笑うな。何せ試合開始直後に大量被弾し事実上の戦力外化で数の優位を速攻で殺した形だ。大戦犯もいい所である。しかも俺直接は見てないけど聞いた話では試合前の会見で結構調子くれたセリフ吐いてたらしいので、チーム全体に恥をかかせた部分もあるだろう。


まぁ敵さんのチームの内部の話なんて知ったこっちゃないけどな。


ちなみにその戦犯君は今俺の方をすっごい顔で睨みつけてきている。おお恐い恐い、恨みを買っちゃったかな? まぁ元から面倒くさいタイプの敵意を向けられてたし今更どう思われようとどうでもいいけどな。それに今期の対戦はこれで終わったわけで少なくとも向こう3か月ほどは顔を合わす機会もないからな。


ただ、気づいてしまった以上視線がうざいな。あんまり熱い視線でみられても鬱陶しいんだが。いっそのこと中指でも立てて更に煽ってやろうと思ったが、さすがにヒト目がある中でそんなことしたらアカンか。だいたい中指立てるジェスチャーがこっちでも同じ意味かもわからんし。実は”愛してます”を示すハンドサインだったら自殺ものだ。


ならアカンベーでもしてやるか? こっちはちらっとこっちの放送で見たことがある。厳密には違うかもしれんが挑発的な意味合いがあるのは間違いないだろうし……とはいえ、他の視線もあるし目立つよな。


ああ、だったら──


俺はガウルと視線を合わせる……よし、あいつもこっちの視線に気づいたな。それじゃ──と、俺はぺろりとガウルに向けて舌を出してやった。これくらいなら他の記者たちに見られてもおかしく思われないだろ。そして肝心の相手には──よし、苦虫をかみつぶしたような顔をしてから身を翻して部屋を出て行った。意図が伝わって嬉しいよガウル君。


正直性格が悪い事やってるとは思うが、今更ながらに割と奴の発言を腹に据えかねていたんだと思う。なんともいえない満足感を得た、俺はインタビュアーに向けてまだ饒舌に話しているミズホへと視線を戻した。


ちなみに会見後。


「ユージンさん、さっきカメラに向けて舌だしてたけど何だったんスかアレ?」

「えっ、カメラに向けてなんてやってない……」

「いや普通にカメラ回ってましたっスよ?」

「エッマジデ」

「えまってまってまって録画、誰か録画してないかな? 撮ってそうな子にメール送らなきゃ」


そうそうにスマホを操作し始めたミズホは置いといて。

あれカメラで撮られてたのかよ、でもまぁあの時メインで回ってたのはミズホに向いてたし全国ネットで流れてはないだろうし、あの程度なら問題ないだろ。

日本だったらアインシュタインの例の写真と並べたコラとか作られそうだけど、こっちにはアインシュタインいないしな。






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