救助隊?
結局目が覚めてもまだ周囲は暗闇のままだった。
時計を確認したら、時刻は7時を回ったくらいだった。大体5時間前後は眠っていたようだ。
とりあえず眠気は問題なく解消されていたので、レオと、彼に付き合って起きていたサヤカ(彼女は元々徹夜とかに強い)と見張りを交代する。
その後、俺にちょっと遅れて目を覚ましたミズホと雑談をしつつ長い夜をすごし、アキツ側では13時頃となった頃。いまだ暗いままの森の中に変化が生じた。
俺達の機体が並ぶ場所、そこより少し離れた開けた場所の辺りの空間が一瞬歪む。直後今度は透明(というよりは向こう側を映している?)なキューブが出現し、それが上の方から溶けるように消失していくと──そこには大型のトレーラーのような車両とコンテナが出現していた。
コンテナはよくわからんが、トレーラーの方は見覚えがある。確かグラナーダの探索に行くときに利用していた車両のハズだ。ということは、あれはアキツ側から送り込まれたものか?
現れたそれらに注視していると、トレーラーの扉が開き、そこから人影が二つでてきた。
──それは、見知った姿だった。
俺は操縦席のハッチを開いて顔を出すと、眼下にいる二人に向けて声を張り上げる。
「ルーティさん! ホロウさん!」
一見人と同じだが、その頭には通常人にはない角が生えている。
以前関わったグラナーダ人の二人が、そこにいた。声を掛けた俺の姿に気づいた二人はふわりと浮き上がってこちらに飛んできたので、俺は一度操縦席に戻って機体の前に右手を移動させると二人はそこに着地した。そしてホロウさんは流れるような動きでそのまま跪く。
「ご無事で良かった。女神ユージン様」
「いや、その呼び方やめてくださいっていいましたよね?」
最近直接会う事はなかったせいか、ホロウさんが俺の事をアレな呼び方で呼んできたので即座に突っ込む。
その反応に彼ははっと顔を上げてから、頭を下げる。
「失礼した。ユージン殿」
「はい、それで」
本当は殿をつけられるのもむず痒さを感じるんだけど、以前いろいろ交渉した結果がこの呼び方なので受け入れる。
それにそんな事よりも聞きたい事がある。
「ルーチェさん達が、何故ここに?」
彼女達はいま、ロスティアで同胞と一緒に暮らしているハズなんだが……
その問いに、彼女はにこりと笑ってから言った。
「まずは皆さん揃ってからにしましょう。それに身も清めたいですよね?」
確かに、俺だけが説明受けても二度手間になるもんな。 ……ん? 身を清める?
◆◇
「あぁぁぁぁぁ……さっぱりしたー!」
あれから、目覚めたてのサヤカに声をかけ、まだ眠っていたレオを起こした俺は(ミズホは自分から出てきた)、胸を放り出した状態で歓喜の声を上げていた。
別に露出趣味に目覚めたわけではない。というか別に外でそんな事をやっているわけではなく、ちゃんと窓のブラインドを全部降ろした例のトレーラー……巨大キャンピングカーの中である。
ちなみに下も今はパンツいっちょだ。なんでこんな格好しているのかといえば、濡れタオルで体を拭いてたわけである。
ルーチェさん達やこのトレーラーと一緒にこちらに送られてきたコンテナなんだけど、あの中には水や食料をはじめとした消耗品が大量に詰め込まれていた。これにより飲み水の心配をする必要が一切なくなったし、体を拭くのに水も使える余裕が出来たわけだ。ルーティエさんもこちらが昨日風呂に入れてないと思ってそういってくれたわけだね。
まぁいっても一晩お風呂入らなかっただけだから耐え切れない程じゃないんだけど、余裕があるなら当然体を拭くくらいしたいのは当然という事で、お言葉に甘える事にしたわけだ。このトレーラー、簡易キッチンみたいなのもついているからお湯も沸かせるしね。
尚残念ながらシャワーはついていない。そこまで求めるのは贅沢だろう。というか、トイレがついているだけで神だ。やはり日本生まれの現代人でアウトドアもそんなしたことない人間にとっては、外でのトイレとか落ち着かないからな……
というわけで、全身暖かい濡れタオルで拭いてさっぱりである。
「はい、風邪ひいちゃうから早く服きましょうねー」
「あ、うん」
そう口にするミズホはすでに下着どころか、ちゃんとした服に着替えていた。早い。見ればサヤカもすでに下着を身に着けてズボンを穿いているところだったので、俺も慌ててブラから身に着ける。それから、ジャージがあったのでそれを上下身に着けた。ドルフィンパンツとか大き目なシャツもあったけど、この後寝るならともかく、これから動く時間だからなぁ。まだ外暗いけど。後レオだけならまだしもホロウさんもいるので、あまり無防備な恰好は躊躇するしね。レオは基本的な所で紳士だし、ホロウさんが俺に抱いている感情もそういった類のものではないと思うので覗いたりはしないだろうけどさ。
……いや、レオの場合ミズホやサヤカが俺にちょっかいを出そうとしている声とか聞いたら反射的に見てしまう可能性も否定できないが。
「ん、それじゃお話をしましょうか」
とにかく下着も服も換えて全身も拭いてさっぱりした俺達は、設置された通信機を取り囲むようにして座り込んだ。(ちなみにレオは念のために機体で待機で通信機参加。濡れタオルと着替えは操縦席に配達しておいた)。そうして同じように腰を下ろしたルーチェさんの言葉に耳を傾ける。
「まず最初にお伝えする事ですが、残念ですが、すぐにはアキツに戻る事はできません」
彼女の言葉に、俺達は皆揃って無言でうなずく。その反応に、ルーチェさんはきょとんとして首を傾げた。
「驚かないんですか?」
「まぁ……予測できてたしなぁ?」
言いつつミズホ達に顔を向ければ、こくりと同意が返ってくる。この会話をする前……というか着替えをする前には恐らく時間がかかるんだろうな、というのは予測できていた。
その理由は、補給物資の量だ。コンテナに格納されていた消耗品や着替え等の量がどう考えても数日分という量じゃなかったのだ。俺達4人に2人増えて6人になったけど、それを考慮してもである。そもそも発電機まであったし……明らかにある程度の長期戦を考えている物資だったもんなぁ。
「そうであって欲しくはなかったけどねぇ。いろいろ予定が狂うもの」
「だが、貴方達が来たという事は、帰れないというわけではないのだろう?」
「ええ」
もし帰る方法がないのであれば、ルーチェさんやホロウさんをこちらに送り込むなんて事は流石にしないハズだからな。行方不明者が増えるだけになる。
「現在論理解析局で分析中なので私の方から詳しい事は説明できないのですが、現在アキツとこの世界の繋がりに関してどうもアキツ側が上流、こちらの世界が下流のような繋がりになっているようで」
『通常は逆っすよね?』
この辺りは論理崩壊に関してちょっと学んでいれば皆知っている情報だ。
イメージとしては上流下流というと言葉通り、上から下へ流れるという話だ。ただし流れるのが水ではなく、その世界そのものという話。通常はアキツが下になる事が基本で、だからこそ漂流や論理崩壊が発生するのだ。
これ単純にどちらの世界が上とか単純な話ではなく、むしろアキツの世界の特性のようなものらしい。ちなみにほぼ繋がりっぱなしの状態ともいえるアキツと地球はこの論理で言うとほぼ同じ高さにあるといえるだろう(地球側がちょっと上)。
その上流下流が逆になったからこそ、俺達が別の世界に漂流したってことだよな。だから戻りずらいって事か。そう話を聞くと、まぁそうなるよなとは思う。
「どれくらいかかりそうか予測はついてます?」
一週間くらいだといいかなーという期待を込めて聞いてみたが、ルーチェさんには首を振られた。
「いえ、私達がこちらに来る時にはまだ全然分析が進んでいませんでしたので。その辺りは2~3日後にセラス局長がこちらにいらっしゃいますので、その時に説明し頂けるかと」
「え、セラス局長がこっちに来るんですか?」