後期リーグ戦初戦⑤
実弾に霊力を乗せて放つ武器に比べ、霊力そのものを放つ武器は当然ではあるが霊力のコストが重くなる。実弾の場合その実弾が持つ質量や速度、すなわち運動エネルギー等がそのまま霊力に加算されるのだが、霊力弾はそれらを全て霊力で補うからだ。だが当然そのデメリットを補うメリットもある。
「……っ!」
狙いを定め引き金を引くと、銃口から白く光る弾丸が射出される。
射出された弾丸は真っすぐ狙い定めた獲物──敵の中距離戦機に飛来する。……が、きっちりこっちの方をモニターで捉えていたのか、そいつはその場で急制動して動きを止めた。弾道が自分の進行方向に向かって放たれたことに気づいたのだろう。やはり向こうのチームの中では彼が一番の手練れな気がする。
──が残念、その選択は外れだ。
次の瞬間、光が破裂した。
いや、正確には分裂だ。敵の機体の前方をそのまま抜けると思われた一条の光は、突如として三つに分裂した。そして元の軌道をまるで無視して敵の機体へと向かう。
動きを止めてしまっていた機体には、回避不能な一撃だった。分化した内一発は逸れたが、残りの二発は彼の機体に直撃する。
それでも彼はガウルより百倍優秀だった。想定外の攻撃を受けたにも関わらず追撃があることを予測し、即座に機体を動かす。そこへ彼の予測通り俺の放った二撃目が襲い掛かる。今度は先程と違い止まっていた彼の機体を直接狙った射撃だ、特殊軌道の操作は入れていない。だから彼はなんとかその二撃目に関しては回避を──できなかった。
飛来した光は今度は先程と異なり彼の機体に向けて緩やかな弧を描くと、再び彼の機体へとぶち当たる。
これが、霊力弾のメリットだった。
威力はあるし霊力のコストも抑えられるがその軌道は実弾のもの通りにしかならない実体弾と異なり、霊力だけの塊である霊力弾は様々な動きをさせることが出来る。
ただし、いくら霊力弾といえど遠隔操作を行う事はできない。ある一例を除き、霊力は放たれてしまえばそれ以降は制御不可能だ。ではどうやって操作するのか。答えは単純、射出前に霊力に対して設定をしてやればいい。
先程の攻撃、一発目と二発目はそれぞれ異なる設定を行って放っている。
一発目は、詳細な軌道を設定した。タマモに対して明確な弾道のイメージを伝えその通りの軌道を描くように霊力弾を設定して射出している。
二発目は単純だ。相手の霊力をロックオンし、それに対してホーミングするように設定した。まぁホーミングと言っても多少軌道が変わる程度でどこまでも追跡するわけではないんだが(追跡性能を上げる事はできるが、上げれば上げるほどコストが重くなってしまう)、先程の動きを止めた状態への一撃であれば充分な軌道だった。
後者の誘導弾は割と単純な技で地域リーグとかでもたまに見かけられる技だ(スポンサーや試合報酬の少ない地域リーグではコストを抑えるために霊力弾が多用されるのと同時に、未熟な腕でも当てやすいので割と多用される)が、前者の方は明確な軌道を引いてやらないと思い通りにはならないため難度が高い。そのため地域リーグレベルでは使用者皆無、Cランクでも殆どいないので彼も恐らく自ら受けるのは初めてだったろう。
何にしろこれで2発命中。それ以前にも実体弾を数発当てているから、まだ戦闘不能までは余裕があるものの彼のゲージも大分削れてきている。そのため射線を切るためにビルの向こう側にその姿を隠したが、その位置はミズホに対して攻撃を飛ばしにくい位置だ。レオの方は狙えるだろうがこっちはこっちで最接近してど付き合いをしているため易々と援護射撃できる状態じゃない。事実上彼の仕事を遂行するのは困難になった。
「支援機の頭を押さえた。ミズホ、そっちへの支援はいるか?」
なんとかうまいポジションを取ろうとしている支援機に牽制の攻撃を叩き込みながら、通信機にそう声をかけると即座に応答が帰って来た。
「いらないわ、もうすぐ終わるもの」
確かに相手の残りゲージは4割5分を切っていた、機体数ハンデの関係で向こう側は残霊力4割で戦闘不能になるから彼女の言葉の通りになるだろう。レオの方は──相手よりレオの方が残霊力は上回っている。あの戦い方だとあとはもうどっちがタフかだけの勝負なので、こっちもあとは時間の問題だ。
終戦だな、後は適度に消耗を抑えつつ支援機の動きだけ拘束するか。
今回被弾は一切受けていないが、開幕の全開駆動でのぶっ放しもありそれなりに霊力は消耗している。まだ翌週に響くほどの消耗はしていないが、こないだのような防衛出撃が発生する可能性を考慮すると無駄な消耗はしないに越したことはない。隠れた支援機はさすがに自分でも射撃を行っているだけあって上手く射線を切ってきてはいるので、無理に落としに行かなくてもいいだろう。中、遠の支援機は前衛が落ちればそれで終わりだ。
そしてそれから数十秒後。
まずミズホが相手していた機体が霊力の残量が4割を切り戦闘不能に。それによって浮いた駒となったミズホが支援機へと向かったところ、もうどうにもならないと判断し投降したのだろう、彼の機体のゲージもグレーアウトした。それを確認して最後にレオと殴り合っていた奴のゲージがグレーアウト。
『試合終了! 勝者、エルネスト!』
「お疲れ様ッス!」
「お疲れ様~」
「おう、お疲れ様」
試合終了の示すアナウンスが流れ、直後通信機から二人の言葉が流れ出したので俺も同様の言葉を返す。
「いやー、圧勝だったわねぇ。ここまで圧勝だったの久しぶりじゃない?」
「少なくとも俺が加入してからだと初めてっスよ、しかも4機相手に! お二人ともやっぱりすごいっス!」
「今回のMVPはユージンだけどね。開幕のアレでほぼ勝負決まってたでしょ」
「さすがに一気に削りきれるとは思ってなかったけどな」
今回は上手く行き過ぎた、さすがにもう一回戦ったらここまでのワンサイドゲームにはならなかったろう。それでも今の向こうの実力なら負けるつもりはないが。地域リーグから一気に上がってきてしまったせいで普通に技術も経験も不足、戦術もできていない。C1上位はそんな状態で霊力と数のごり押しで勝ち抜けるほど甘い場所ではないのだ。
「これでユージンの注目度もまた上がるわねぇ」
「うっ」
忘れてた……いやそりゃ無様な負け姿を晒すよりは百倍いいけどさ。
「ナナオさんが言ってましたけど、明らかにC1の開幕戦に来る数じゃないメディアが集まってるようっスよ」
「次がSリーグの試合だからそっち目当てじゃないか?」
「リーグ戦関連じゃないメディアもいくつか見かけたらしいから、少なくともその辺りは間違いなく話題の美少女目当てだと思うけどね」
「マジか」
勘弁してくれよー、俺たくさんのカメラ向けられるの苦手なんだよー。前期のB2への昇格戦の時にきたメディアのカメラの数でもクッソ緊張したのに、そんな好奇心まみれの視線向けられたらどうなるんだ俺?
くっそ、どうにかならんか。……ええと、
「ユージン選手は急な腹痛の為記者会見に参加できなくなりました。なので本日はオーゼンセ、クローガーの2名の会見となります、ご了承ください──ってならない?」
「なるわけないでしょ」
「っていうか、それ今度俺達二人が精神的にきつくなる会見っス、勘弁してくださいよ!」
ですよね。




