新たな伝説は生まれないが属性は増える可能性がある。
基本的にはアキツではエルネストの面子と一緒に行動する事が多い俺だけど、勿論他の友人と一緒に行動する事もある。サヤカもミズホも家ではべったりだけど、別に束縛してくるタイプじゃないし。
特にこちらの滞在期間が長くなってからは、そういった外出も増えている。以前のようにこっちで動けるのが週末だけだとトレーニングと試合、それに伴う移動であんまり動き回れなかったけど今は週の半分はこっちにいるからね。ついでにいえば試合明けの日は基本オフだから、割と自由に動けるし。
まぁ、あんまりそういった相手は多くないけどさ。エルネスト関係者を除けば、リゼッタさんとノイエさん、ヴォルクさん、フレイさん、エリーさん。ちなみにノイエさんはフェアリスのアルファさんでエリーさんは聖女様だ。二人ともエキシビジョンを切っ掛けに親しくなってしばらくしてから、名前で呼んでくれってなったのよね。特に聖女様にはやたらと気に入られたらしく、同じ遠征先になった場合は大抵声を掛けられたりする。
それからフレイさん。一応あんな事があったわけでしばらくは疎遠になるかなと思ったら普通に声を掛けて来た。割とメンタル強くない? ただこれまでと違って模擬デートっていう形式は撮ってなくて普通に友人として会うだけだけど。……ていうか俺は模擬のつもりだったけど、フレイさんは普通にデートのつもりだったのかな。そう考えるとすごく恥ずかしくなってくるんだけど。
まぁでも友人として話すならやっぱり男性の方が話しやすいから助かるからフレイさんとかヴォルクさんとの付き合いは大事にしたい。女性陣の話題にも大分ついていけるようになったけどさ。でもフェアリス4人の中に混じるのは死ぬ。あれは無理。
個別だったら全然平気なんだけどねー。
今日もリゼッタさんと買い物に来てたりしてる。仕事明けのついでみたいな感じではあるんだけど。
基本的に広告とかのスポンサー系のお仕事はチームで受けることが多いんだけど、今回はリゼッタさんとの二人でお仕事だった。
どうも最近、リゼッタさんとセットでの仕事の依頼が増えつつあるらしいんだよね。……いや、原因は解ってるんだけど。間違いなくコスプレ写真のアレだろう、タイミング的に。
今回のは話が出たのがその写真がバズる前だからちょっと違うけど。元々俺とリゼッタさん小柄で童顔という共通項があるので、ある程度そういう引き合いはあったのだ。んで今回のはうちとフェアリス両方のスポンサーをしてくれている企業ということもあり引き受けたのである。
んで、その撮影も終わった後リゼッタさんに誘われてお洋服を買いに来ているというわけである。
「あ、それ可愛らしい。ユージンさん、自分でもそういうの選ぶようになったんですね」
気になった服を体に当てて鏡を見ていると、横からリゼッタさんにそう声を掛けられる。
今俺が見ていたのはハイティーン向けの少し可愛らしい感じの服だ。
「んー、まぁ、似合うし」
リゼッタさんにそう返してから、鏡に映る自分に視線を戻す。うん、客観的にみて似合ってるのは否定できない。
ただリゼッタさんがそういうのは当然といえば当然か。こういった服自体は別に以前から着てはいたけど、これまではミズホやサヤカ、後はそれこそリゼッタさんに勧められた奴だけで、以前リゼッタさんと服を見た時は割とラフな感じな奴やあまり性別を感じさせない服ばかり選んでたので。
「センスもいいと思います。お似合いです」
「それこそリゼッタさんやミズホに鍛えられたから」
センスのいいリゼッタさん達が選んでくれていた服は、見事なまでに俺に似合っていたわけで。そんな自分をずっと見ていれば、さすがに自分にどんな服が似合うかなんていうのは理解してしまうわけで。
性別はもうおいておくとして年齢は付き合いの深い女性陣の中では(浦部さんやエルネストのチームスタッフをを除けば)一番年上だから、本当はもう少し上の年齢の奴……それこそ女性服でも格好いい着こなしをしているって思うミズホやサヤカみたいな恰好したいんだけど、超低身長と童顔のせいでそういった恰好は完全に服に着られている感じになって全く似合わないんだよな。サヤカには「ほほえましい感じがするな」とか言われるし……女の子になるにしても外見は年相応が良かったよ。ていうか毎度思うけど、このサイズになるんだったら胸は貧の者であってほしかった。大きいメリットがない。
まぁそれは言っても仕方ない事なので、素直にこのくらいの服を着てるんだけどね。ちなみに周囲にはローティーン向けの服も似合うんじゃないと言われるけど、さすがにそれは勘弁にして欲しい。憤死する。
いや、今の俺をこの姿になった直後の俺が見ても憤死すると思うけどな。
「ふふっ」
「……どうしたの?」
俺の姿を見ながらリゼッタさんが口を押えて小さく笑ったので問いかけると、リゼッタさんは目を弓にした笑みを見せて、
「いえ、以前一緒にお買い物した時はかなり悩んでるみたいで眉間に皺を寄せて服と睨めっこされていたので。その姿も可愛かったですけど」
「あー、うん、そうね?」
まだ服のセンスが磨かれていない頃はいろいろ頭の中で考えつつ選んでたからなぁ。そりゃそういう表情にもなってただろう。あと最後の言葉はつけなくていいんですよ?
「でも、今は楽しそうな表情でお買い物してて……うふふ」
いや、そんなダイレクトで指摘されるとさすがに恥ずかしいんですけど!? 後人を慈しむ目で見ないで!?
「まぁ、性別問わず自分に似合った服を探すのって楽しいじゃないですか」
「ふふ、そうですね」
こくりと頷くリゼッタさん。ちなみにそんなリゼッタさんは俺が選んでいるものよりも可愛らしい系統が多い。滅茶苦茶似合ってるし可愛いけどね。数はないけどガッチガチのゴス系とかも持っているらしい……というかまぁ見せてもらった事もある。はい、めっちゃ似合ってました。
ちなみに俺は無理です。似合うって言われるし似合いそうな気はするんだけど、さすがにフリフリが多いような服はちょっと……似合っても俺の中にわずかに残っている男性面のセンスが抵抗をするのです。まぁ仕事で着る事はあるんだけどさ。お姫様の恰好とか……仕事系はむしろそっちの恰好が多い。
「あの、ユージンさん?」
「ん? なんですか?」
視線を戻して別の服を物色していると、すすす、とリゼッタさんが俺の方に身を寄せてきた。
「あの、ご相談があるんですが……」
「なんですか、畏まって。リゼッタさんにはお世話になってますし、俺に出来る事ならなんでも」
「今度コスプレしてイベントにでません?」
「でません!!」
「えー、前言撤回早すぎません?」
聞いた瞬間に即答した俺に、リゼッタさんがぷくぅとほっぺを膨らませる。あんまりプライベートでは幼い動作を見せないイメージがあるリゼッタさんには珍しい反応。可愛いけど。
でも、さすがにそういうものは許して欲しい。
「でも別にえっちな格好とかじゃなくて普通の制服っぽい奴ですよ? 丁度ユージンさんが似合いそうな奴があるんです」
「いや、でもイベントとかはさすがにちょっと」
ファン感とか広告の撮影とか仕事絡みでやるのは大丈夫だけど、プライベートでやるとのはかなり抵抗がある。
「あ、じゃあせめて、スタジオで合わせみたいな感じは駄目ですか? ほら、こないだみたいに」
「えーっと」
「私の頼みでも駄目ですか? ほんと、普通の学生服なだけですよ?」
わざわざ俺より視線を下にして上目遣いやめていただけます?
しかし学生服か……こないだの小悪魔ルックよりはましかな。というか、その小悪魔ルックの時といいリゼッタさんには色々お世話になってるからな……その程度ならまあいいか。
「わかりました、そのくらいならいいですよ」
「きゃー、本当ですか! やったぁ!」
頷いた俺に、彼女は俺の右手を両手でつかんでぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ。可愛いなぁ。
──その後リゼッタさんによって投稿された写真(とある学園物アニメのコスプレ)が、元キャラ再現度が高すぎるとして滅茶苦茶話題になるのはまた別の話。
「そうしてここからコスプレイヤー ユージンちゃんの伝説が始まるんですね」
「始まりませんよ?」




