これから②
というわけでミズホとの関係性が変わったわけなんだけど。
……いや、変わったというか曖昧だったものが確定したって感じかな。だから、正直な所あまり大きな変化なんてものは起きていない。
元々半同棲でべたべたされてたし、そこにキスという行為が追加されただけ、な気がする。いや、ボディタッチとかのスキンシップのレベルもちょっとあがった気はするけど。
……アイツ、なんかキスで俺の事を遊んでいる気がするんだよなー。
人前でするのは俺が嫌なので基本キスする時は人気のないところってのはアイツ守ってくれてるんだけど……なんか不意打ち気味にしてくるんだよなぁ。そんでその後は目を弓にして笑うんだよ。絶対こっちの反応を楽しんでるだろ。
更にたちの悪い事に一応回避できる余裕は与えてくるんだよな……だから本当にしたくないは回避できる。ようするにされるということは……ぐぬぬ。
こっちからも仕返ししてやりたいんだけど、身長差がなぁ……俺からだと背伸びしてしなきゃいけないから、なんかこっちから求めるような感じになっちゃうんだよな、うーん……。座ってるところとかを狙えばいいのかもしれないけど、アイツ勘がするどいのかこっちから仕掛けようとすると感づくんだよな。しかも感づいた上でこちらがキスするのを待つ。その結果こっちの方が恥ずかしくなってしまうって話。
まぁ今までさんざん世話になった上に待たせたわけだし、それくらいは受け入れるけどさ。でも完全に今ミズホに主導権を握られている状態だから、いつかはこちらで主導権を奪いたい。
ちなみに周囲にはちゃんとご報告しました。範囲としてはサヤカとレオ、それにチーム関係者かな。さすがにそれより外の範囲で話す必要はないかなって。表での態度は特に変える気もないし……フェアリスの皆とかヴォルクさんみたいに親しい人には聞かれたらちゃんと答えるつもりだけどさ。なおチーム関係者の反応は概ね「あ、うん」程度の反応だった。それ以外だと「ようやくですか」だった。……普段からミズホはチーム施設内では俺にべたべたしてたし聞かれたら「愛してるわよ?」とか臆面もなく答えてやがったし、俺がたまに恋愛関係とかの話題が出た時に「男と付き合う気はない」と明言してたのもあって普通にチーム内では感づかれていた模様。レオに至っては「それじゃこれからはもっとイチャイチャするんっスね」とか目を輝かせて言って来やがった。人前じゃやらねえよ!
そんな皆とちょっとだけ違う反応を見せたのがサヤカだ。いや聞いたときの反応自体は別に驚いたとかそういうわけじゃなくみなと同じ感じで「そうか」と口にしただけだったんだけど。その後になんでかミズホの方を見て二人でアイコンタクトみたいな事をしていたんだよな。何、その反応?
なんにしろ、ミズホと付き合った事自体では大きな変化はなかった。だがその派生で動いたことがある。
アイリの件だ。
以前解析局から連絡を受けた通り、アイリは現在里親を探していない。まだ幼くまた同種が存在しないため彼女の成長は不確定な所が多く、安全性を考えれば解析局預かりにしていた方がいろいろ都合がいいためだ。何かの能力の目覚めた時のフォローがしやすりからね。
ただ現時点では特にそう言ったことはなく安定してるし、最近は割と時間に余裕があったのもあってアイリはよくミズホ邸に泊まりに来ている。そうして相変わらず「ママ」と呼んで慕ってくれているわけだ。
そんなアイリの”戸籍上”のママになる考えは前からあった。ただこれまでは将来的にこちらの世界で暮らすかを決めかねていたので、名乗りでてはいなかったんだけど……ミズホと一生添い遂げることを決めたからな。生活の比重もこちら側を更に上げていくし、最終的にはほぼ完全にこちらで暮らす事になるだろう。両親の墓参りとかいくつか今後も続けたい事はあるから向こうに足場は残したいところではあるけど。
ただ一緒に暮らしていく以上、ミズホとはこの件はちゃんと相談しなければいけないのは当然の事。なので相談してみたところ、彼女は諸手を上げて賛成した。
アイリとの付き合いの長さは俺と同じだし、泊る時などは可愛がっているようだったからその反応はわかるけど……あまりにもあっさりOKだったので冗談交じりに「まさかアイリに手を出す気ないだろうな?」といったら、何故かにまぁと笑った後に「ユージン以外に手を出す気はないわよ?」と告げられた後無茶苦茶濃厚なキスをされた。アイリに嫉妬したと思われたらしい。違うわい。
とにかく。そう言う事で最終的に完全に引き取るのはまだ結構先になるだろうけど、今後解析局と調整して少なくても戸籍上アイリをうちの子にする予定も出来た。そうなれば名実ともにママだ。……2年ちょっと前は自分がママになるなんて考えたこともなかったなぁ……当然だけど。「すでに持ち属性の中にママってなかったけ?」とかミズホに言われたが大分意味が違うだろアレは。
ちなみに当然こちらにいる時でも仕事があるからずっとアイリといるなんてのは不可能だけど、それに関しては俺達に限らず別段共働きの家庭とかわらないだろうし、遠征の時は連れて行っていいとチームに許諾もとっている。多分あと1、2年もすれば安全性も確認できるだろうとのことで、そうしたら一緒に暮らす事になるけど、そうなっても問題ないハズ。アイリはちゃんと出来たいい子だしね。
そうなれば3人家族……サヤカが一緒に暮らしている間だったら4人家族の誕生だな。
またそういったもろもろの動きに伴って日本側の生活も少し整理した。といっても今後さらに減らしていくしかもしれないが現時点ではまだ関わっている仕事があるし、生活費も最低限は稼ぎたいから会社を辞めたわけではないけど(バイトにする事も考えたけど、正直今の仕事の方が融通がきく)。ただサヤカからの提案であちら側では一緒に暮らす事になった。
日本側の活動時間が少なくなるにつれて荷物もある程度整理したから減りつつあるし(最早残しておいても意味がない男物の服とか全部廃棄したしな)、アキツ側でも一緒に暮らしているのにわざわざ日本では別に暮らさなくてもいいのでは? 家賃もったいなくないという話だ。
一応完全プライベートな時間を持てるっていうメリットはあったけど、それだけの為にそれなりに高い家賃を払い続ける意味があるかと言われればまぁ確かに、とはなるよね。アキツ側では割と誰かが側にいる事が多かったせいか、今はもうあまりプライベートな時間でしたい事が思いつかなくもなってるし。
ということで、今住んでいる部屋は解約し、サヤカと二人で生活する事になった。家賃は折半を提案したんだけど向こう側での収入がサヤカの方が大きいため(俺は仕事日数を減らした関係で大分収入は減ってるし今後は更に減ると、向こうの収入を換金するのはレートが悪すぎてもったいないと言われた)、サヤカの方が多めに出す事で押し切られた。というかサヤカが全額出すって言われたんだけど、そこはさすがに固辞したよ。
んで、そのかわり日本で二人とも過ごす時の家事は俺が多めに埋め持つことになった。ええ、洗濯とかもやりますよ、下着とか今更ですからね? なおこれは俺から言い出したんだけど、そうしたらサヤカに「仕事辞めて家庭に入った新妻みたいだな」と言われた。いや以前に比べれば稼働時間半分程度だけどまだ仕事はやめてないし、あと新妻はやめろ。
そんなこんなで大なり小なり環境や関係性に変化がありつつも、これまでと同様に時間は過ぎてゆく。
そうした新しいシーズンがまた始まる。




