MVP
「ユージンちゃん、見たわよあの写真! 滅茶苦茶可愛かった!」
「あ、はい……ありがとうございます?」
「あーゆー恰好好きなのね。お姉さんいいと思うわ」
「罰ゲームって書いてありましたよね!?」
「ああいった衣装コンセプトの写真集発売まだ!? 10冊買います!」
「出ません。一生出る事はありません」
「今日はあーゆー恰好で来てないんだ」
「あんな格好で来るわけないでしょう!?」
◇◆
「……はぁ」
「ふふ、お疲れ様」
次々と声を掛けてくる他所のチームの精霊使い達をなんとか捌き終え、ため息と共にチームの元に辿り着いた俺をミズホがニコニコした顔で迎え入れる。
──本日、俺達はエレメンタラーズアワードの会場にやってきている。
……先ほどみたいな反応を受けるのは予測はしていたので、本日割とギリギリに会場入りしたんだが……休憩時間で尿意を催したのが運のつき。こっそりと会場から離脱し、戻ってきたところで捕獲された結果がさっきの状態である。
まぁ休憩時間は当然時間制限があるから、割とすぐに開放して貰えたのは助かったけど。これ帰りはそそくさと帰った方がいいかな? ちょっと約束があるから速攻で帰るとかはできないんだけどさ。
「ユージンさん飲み物っス」
「さんきゅ、レオ」
トイレから戻ってきたばっかりだったけど、結構喋らされたせいか喉の渇きを覚えていたので、ありがたく差し出されたグラスを受け取り、喉を潤す。その間に、ステージ上の方にはリーグ戦事務局のお偉いさんやMCの人が集まってきていた。丁度休憩時間も終わりのようだ。ここからは個人賞の発表である。
個人賞としては、最多撃破数やダメージ量に関するデータに準じた賞の他、MVPなどをC、B、A、Sの4つにわけて表彰する。ちなみにデータに準じた賞は当然最初からわかっているが、MVPだけはこの会場で発表されるため、今の時点ではわからない。
とはいえ、余程の事がない限りはMVPは各リーグの優勝チームから選出される。今回は最多撃破数はレザントに持っていかれているが、そのレザント達に俺達はリーグ戦で完全勝利をしているので、うちからの選出は間違いないだろう。
「ま、順当にいけばMVPはサヤカだろうなー」
完全にウチのチームのエースとして成長し、最早Aリーグのエース達と比べてもそん色ない実力を身に着けたサヤカ。リーグ戦でも当然活躍しているし間違いないだろうと思いつつそう口にしたが、当のサヤカはきょとんとした顔で首を傾げる。
「? いや、どう考えてもユージンだろう」
「はぁ? ないない」
後方支援型の精霊使いは元々選ばれにくいし、サヤカの派手な活躍は最後方の俺はよく見ている。どう考えったてここはサヤカだろ。
そう思ってサヤカに向けて言葉を続けようとした俺の肩が優しく掴まれ、体の向きをステージの方に変えられる。
「ほらほら、もう発表が始まるわよ。答えはそれでわかるんだから、大人しくしてなさい」
耳元でミズホの声でそう言われる。どうやら触れてきた主はミズホだったらしい。いや、ゾワゾワするからそんな耳元で喋るのやめて頂ける? そんな近くで言わなくてもちゃんと聞こえるから。
とにかくそんな感じで、個人賞の発表が行われて行く。発表は下部のリーグから行われていくのでまずはCリーグ。そしてCリーグが終わった後はBリーグの各賞が順次発表されていく。
そしてBリーグの個人賞も殆ど終わり、残すはMVPのみとなった。
呼ばれるのはサヤカだろうなーと考えながら、MCの言葉を待つ。
「BリーグMVPは──チームエルネスト所属、ユージン選手となります! 壇上へどうぞ!」
あれ、サヤカじゃないの? ユージンってBリーグのチームでそんな目立った活躍した奴いたっけ?
「ユージン? ユージンってば」
「ん? なんだよミズホ」
「呼ばれてるわよ」
「へ?」
ぽかーんとしている俺にミズホは苦笑いを返すと、ミズホは俺の手を取りステージの方へと引っ張ってゆく。そして最後にポンと背中を押された俺は、その勢いのまま壇上へと昇る。
なんで俺が壇上に? MVPはユージンって人で──って、ユージンって俺じゃねえか! 自分はないって思いこんでいたのでてっきり別の人間だと思いこんじまった。
──え、俺がMVPに? なんで俺? サヤカじゃないの?
頭の中に?が大量に浮かぶ状態のままながらも体はちゃんと反応してくれて、俺は事務局のお偉いさんから表彰を受ける。その際に表彰理由も説明されたんだけど、アスヴァーン戦での活躍の印象が特に大きかったらしい。確かに今回のBリーグは実力的にうちとアスヴァーンが抜けており、その天王山の結果が大きく影響するのはわかるし、あの試合で俺が活躍したかといえば活躍できたと自信を持って言えるけど……それに戦場をコントロールする動きも評価されたと言われた。
ちなみに直接の選出理由にはつながらないが、エキシビジョンでの活躍も話に上がった。まぁ常勝無敗の浦部さんに変則的な試合とはいえ土を付けたんだからそれはわかる。
「それでは受賞した感想をお聞かせ願えますか?」
MCの人から言葉と共にマイクが差し出される。そこまで来てようやく俺の思考が今の状況に追いついた。
それと共に、MVPを受賞したということの実感が俺の体を、心を包み込む。
ほんの2年ちょっと前まで、C1リーグで戦っていた俺が。
こんな体になって知名度自体はあがったけど、別に精霊使いとしての技量が上がったわけではない。そんな中サヤカという新たなエースアタッカーを迎えたとはいえ、ミズホ達と一緒にただひたすら技術を磨き戦術を詰めて、ついにB1リーグで優勝するまでに上り詰めることが出来た。
そしてBリーグとはいえ、そのリーグの最優秀選手に選出されるなんて……そんな事これまで考えたこともなかった。
そっか、俺がMVP……MVPかぁ……勿論チームメイトの皆のおかげではあるんだけど、ようやく喜びが、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
感想とか、何をいえばいいかわからない。だけど、なんとか口を開こうとして……何故かその前にステージ下の精霊使い達がざわめいた。
「どうぞ」
横からMCの人の声。それと同時に、白いハンカチが差し出される。
その意図がわからずきょとんとして彼の方を見ると、彼は優し気な表情で言った。
「涙を拭いてください」
と。
涙? と思い、頬を触れると、そこは濡れていた。
え、なんで泣いてるの俺? 嬉し涙、これ? 全く無意識にでていたそれは、感情が制御できていなのか止まる気配がない。この体は本当に感情がすぐに表に出るんだから、もう!
嬉しさとか、驚きとか、様々な感情が混ざり合った結果、きっと体も困惑していると思う。だけど逆にこの涙で今の自分を理解して、意識は落ち着いてくれたので、俺は差し出されたハンカチで涙を拭ってからマイクを手に取り、万感の思いを込めて言った。
「いろいろと感情や気持ちが追い付いていない感じで上手くはいえないんですけど……ただ正直な気持ちを告げるとすれば、ただひたすらに嬉しいです! ありがとうございます!」
◆◇
尚余談ではあるが。このアワードの映像はきっちり生配信を行われていたし、なんならこの発表時は俺の顔がアップで映されていたため、頬を紅潮させた俺の泣き顔はアキツに全国ネットで配信されていた。その結果ネットでは例の罰ゲーム写真の熱が冷めやらぬ中新たに話題が提供され、再び俺の話題で湧き上がる事になったのは言うまでもない。
そして「次から次へと話題や素材を提供してくれるユージンちゃんマジ天使」などと言われるようになっていたのをレオ経由で知るのは数日後の事である。




