味方(?)の裏切り
「などと申しておりますが耳が紅くなっておりますので、照れは抜けきってないと思われます」
「おいミズホぉ!?」
味方から撃たれた!
……いや、この状況下でそもそも味方がいると考えるのが誤りだった。あえていうなら味方と呼べるのは一緒に撮影されてくれているリゼッタさんくらいだろう。
皆の視線が一度俺の耳元に集まるのを感じる。衣装に合わせて髪をツインテにされている(サヤカにやられた)せいで耳元で露出しているのが致命的だった。
耳の色を確認した面々──特にロッテさんやフェアリスの面々の高角が上がるのに気づいた時、俺は自身の頬が一気に熱を孕んだのを感じ、思わず両手で顔を覆って座り込んでいた。
……なんかヴォルクさんの声で「おお……」とか呆けるような声が聞こえたんだけど、何?
「いや、ほんと何なのかしらねこの可愛い生き物。持ってかえっていい?」
「ウチのチームの自慢の子ですからね。勿論あげませんよ」
「レンタル移籍はどうかな? うちからはユリア出すから」
「いらん」
「その即答はあんまりじゃないか?」
「何の話してるんだよぉ……」
あ、いかん。目の前で人の身柄の話をしている連中に突っ込み入れたら照れが入ってるせいか声が震えた。となりに座り込んだリゼッタさんが背中を撫でてくれているけど、ごめんなさいさすがに泣いていません。
「というか、さっき自分でも行ってたけど撮影とかイベントでコスプレしているのにいまだに恥ずかしさが残るの?」
そう不思議そうに口にしたのはアルファさんだった。俺より遥かにこういった格好をする頻度が多い彼女達はさすがにもうこういう感情とは無縁なのかな。
というか俺も単純にコスプレするだけならもうそこまでなんだよ。たださっきも言った通り、衣装の種類がな。あと今の状況。
俺は座ったまま顔を覆っていた手だけ下げて、アルファさんを見上げながら彼女の問いに答える。
「俺、この中では年齢かなり上の方なんですよ……」
この面子の中で俺より年が上なのはほとんどいない。特に女性陣は浦部さんを除けばみんな俺より年下だからな……で、更に衣装がちょっと派手だとはいえギリギリ現実的なのも悪い。これがもっと現実離れした奴ならむしろそんなに気にならなかったと思うんだけど……
ようするに今の俺の状態は外見的には似合っている(これは自分でも認めざるを得ない)けど、精神的には年下(人によっては5歳以上下)の女の子達の前で子供向けの恰好をしている26歳青年男性なのである。
それでもこれまでの経験からちゃんと恥ずかしさが表に出るのは抑え込めていたのに、ミズホのアホのせいで防波堤が決壊してしまった。ミズホの奴後で説教だからな!
……とりあえず恰好云々よりも思わず取ってしまった今の反応の方が恥ずかしいというのは頭で理解しているため、大きく深呼吸をして意識を鎮めさせてから立ち上がる。
そしてもう一度深呼吸をしてから、俺は特にロッテさんの方に向けて告げる。
「次揶揄うような事してきたら、そこで撮影終了で!」
「えー、別に揶揄ってないけど?」
「……俺が揶揄われてると感じたら終了で!」
「横暴だー!」
うるさい、なんならもう何枚も写真は撮っただろうに。スタジオ時間はまだまだあるけどスタジオ時間いっぱいまでやるとかいってませんからね。
……と、本当にロッテさんあたりが揶揄って来たら強制終了してやろうと思ってたら、その後は一切そういった行為はなしに、普通にポーズ指定とかされつつ撮影は続いたという……しかもそんな事いっちゃったせいで逆に撮影ここまでにしようとかいえなくなり、スタジオの終了間近くらいまで撮影は続いたという。こいつら……
◆◇
「あー、普段の恰好は楽だ……いろんな意味で」
「お疲れ様っス! 飲み物どうぞっス!」
なんとか撮影も終わり、リゼッタさんと一緒に着替えを終えて皆の元に戻ると、レオが俺とリゼッタさんにペットボトルを差し出してくれたのでありがたく受け取る。
そういや今日コイツついてきてはいたけど、特にカメラとかも向けてきてなかったな。まぁこいつは俺のコスプレとかは興味ないだろうし、リゼッタさんと一緒にとっていたとはいえべたべたくっつくようなポーズは特になかったからな。後こいつ人前ではそれなりに自重するし……こいつが一応味方だったか。
……いや特に止めるとかそういうことをしてくれるわけでもないから、せいぜい中立、傍観者だな。
「ぷあっ」
撮影中はそこそこ水分補給はしていたけど、終わった安堵かまた喉は渇きを得ていたので、ごくごくとペットボトルの三分の一くらいを一気に飲み込む。あー美味い。
「てかまだ誰も帰ってなかったんですね」
ペットボトルの蓋を閉めつつ見回せば、先ほどの撮影にいた面子は全員残っていた。
「今日はまだ時間に余裕があるので!」
秋葉ちゃんも正気に戻ったようでなによりだよ。ロッテさんとかフェアリス組みたいに揶揄ってくるような事はなかったけど、滅茶苦茶写真は撮りまくってたよね? 呼び方も”ちゃん”になってたし間違いなくスイッチ入ってたでしょうさっきまで。
「私服姿も堪能しておきたかったからね。その恰好もボーイッシュな感じだけどすごく似合ってるわよ、センスいいじゃない」
「……ミズホとサヤカのコーディネイトですからね」
普段着はともかく人と会う時とかある程度ちゃんとキめる必要がある時の恰好は基本二人のコーディネイトだ。センスは俺と比べるまでもないし、そういった用途の服はちゃんときちんとした奴選んでくれるからな。俺の意見もちゃんと聞きいれてくれるし。部屋着とかちょくちょくぶっこまれるけど……
「こっちの写真も撮ってSNSに上げていいかな?」
リゼッタさんがそう頼んで来たので、頷いておく。この格好なら会報とかで撮ってる写真と変わらないから全然構わないし、何より今日一日付き合ってくれたリゼッタさんの頼みを断るわけがない……ってなんで他にも何名か撮ってるの? リゼッタさん以外に許可してないんだけど……まぁいいか。
というかSNSに上げるといえば、
「あの、今日あげる写真ってロッテさんが上げるんですか? ……まさか全員バラバラに上げるわけじゃないですよね……?」
ユージン痛恨のミス! 一枚って話だけをしててこの辺確認してなかった。
恐る恐る質問をしながらロッテさんを上目遣いに見上げると、彼女はにっこりと笑って、
「安心して、全体通して一枚だけよ。リゼッタちゃんも映ってるし、さっき話して皆が取った中で一番いい写真をフェアリスのアカウントで上げてもらう事にしたわ」
「……そうですか」
「すっごい安心した顔してるわね?」
それはそうでしょ。ここで全員一枚ずつ上げるわよとか言われたら憤死してたぞ、俺。
とにかくこれで罰ゲームは終了だ。後はSNSを出来るだけみないようにしている俺にとってはこの後いくら拡散されようとも大きな影響ない。……あ、ちゃんとどういった経緯で撮影したものなのかは書いてもらうようにお願いしておかないと、俺が自分の意思であんな恰好したことになってしまうな。
「それにしても、皆の反応が見えないのが残念だわ」
「あれ? アルファさんもSNSみないんですか?」
フェアリスの面子はそういうの割とチェックしているイメージがあったけど意外だな……とか思ってたら彼女はきょとんとしてから首を振り、
「そうじゃなくて今回のエレメンタラーズアワードの事よ。ウチは今回参加できないけど、貴女達は参加するでしょ?」
「あ」
そうだよ、エレメンタラーズアワードがあるじゃん!
今期はシーズン終わってるし、他の精霊使いに会う機会はしばらくないからそれまでには話題も収まってるだろとか思いこんでたけど、直近で全員ではないとはいえそれなりの人数の精霊使いがでるイベントあるじゃん!
うわぁぁぁぁぁ出たくねぇ、絶対言われるだろコレ……




