エキシビション⑩
俺の【八咫鏡】もそうだが、精霊使いの魔術は一回作り上げたらそれで終わりという訳ではない。皆、その魔術を上手く利用した戦術を組み上げていくし、魔術自体だってブラッシュアップしていく。俺はそれを頻繁に行っている自覚があるし、俺みたいな中位クラスの人間ではなく上位の精霊使いだってそれは行っている。先ほど浦部さんもこれまで見たことない使い方をしてきてたしな。
そして今回、ブラッシュアップした魔術を新規投入してきた精霊使いがいる。それがヴォルクさんだった。
ブラッシュアップの内容自体は割と単純だった。彼の魔術、【封印される世界】によって生み出される結界は本来一度発動するとその範囲は固定されるが、戦闘後にその範囲を変動できるようになったという話を、以前のミーティング俺達は彼から聞いていた。
……それ、このエキシビションの戦闘の為に、ロッテさんやフレイさんはともかく次期同じリーグでぶつかる俺達に教えていいのか? とも思ったが、恐らく知られても大きな影響はないという判断なんだろう。
で、その効果は単純なものに聞こえるんだけど、特に俺みたいな遠距離や中距離を主戦場にする精霊使いからすると死ぬほど厄介なんだよな、これ。
なにせ【封印される世界】は"絶対侵入不可"であり、内部からも外部からもその結界を超えて移動する事はできない。その結界が動いたらどうなるかといえば……その結界の収縮や拡大に合わせて強制的に移動させられるのだ。すなわち、強制的に主戦場に引きずりだされる。逆に近・中距離を主体とする精霊使いなら拡大する結界に押されて戦場からはじき出される可能性もある。即ち、戦場をコントロールできるのだ。他にも細々とやれることは多いだろう。直接的な攻撃力はないとはいえ、相性次第で厄介極まりない魔術である。
尤も今回は単純な目的だ。
展開した結界の端に位置していた浦部さんの機体が、結界に押されて動き出す。彼女は【千手千眼観音】の腕を使ってなんとか動きを押しとどめようとしたが、それが無理だと判断すると自らその機体をヴォルクさんの機体へと向けた。まぁ結界の中にいるのが浦部さんとヴォルクさんしかいない以上とれる行動はそれだけにはなるだろう。ヴォルクさんを倒せば結界も解除されるしな。
そうして、二人は再び交戦状態に入る。
先程まで二人がかりでなんとか戦っていたが、今度はヴォルクさん一人だ。【千手千眼観音】の腕も使ったラッシュに当然ヴォルクさんは一気に劣勢に立たされる。だが先程ロッテさんがギリギリまで自分の霊力を削ってまでヴォルクさんの霊力を回復させていたので、少しの間なら持つ。
そして、その少しの間があれば十分だった。
二人の格闘戦が始まっても結界の収縮は続く。そして最終的には二人の機体がギリギリ収まるサイズにまで収縮した。その結果、二人の機体はまるで抱き合うような体勢で身動きが取れなくなる。
それが、俺達が待ち望んだ瞬間だった。
「アルファさん!」
『うん!』
アルファさんの名を呼び、結界の収縮とともに二人に距離を近づけていた俺は彼らの方に向けてライフルを構え、目いっぱいの霊力を込め更に【八咫鏡】の増幅も重ねて引き金を引いた。
勿論、どれだけ攻撃力であっても【封印される世界】の結界を貫くことはできない。だから俺が狙ったのは──彼らの足元だった。
球状になった結界の面をなぞるように放たれた俺の銃撃は当然結界に傷一つつける事はなく、ただその結界の外側にある地面を大きく抉り取る。その結果彼らの足元の地面は消失し、だが位置を固定されている結界の中に残った地面と共に、二人の機体は空中に取り残された。
その結果、結界と地面の間に空間が産まれ──そこに唐突に魔法陣のような模様が現れる。それは過去に直接見たことがある──【ドゥームズディ】の模様。俺の銃撃が生み出した、結界の下に生まれた地面にアルファさんが魔術を行使したのだ。そしてそのすぐ上には浦部さんとヴォルクさんの機体。
【ドゥームズディ】発動までの数秒のタイムラグ。普段の浦部さんなら余裕で回避する事は可能な時間。だが【封印される世界】で拘束されている浦部さんはその行動をとる事ができない。
そして【ドゥームズディ】の発動と共に【封印される世界】が解除され、二人の機体がの赤黒い光の間欠泉に包まれた。
これを防ぐ手立てはない。二人の機体の霊力ゲージが一気に削れてゆき、ヴォルクさんのゲージが離脱を現すグレーアウト表示となる。そして浦部さんのゲージもグレーアウトに──なる寸前で赤い光の中から精霊機装が飛び出してきた。その機体は放たれた砲弾のように凄まじい勢いでこちらの方に突進し、その機体から伸びた数本の腕が、【ドゥームズディ】の射程の為距離を詰めていたアルファさんと、確実に足元を削るためにやはり距離を詰めていた俺達の機体に襲い掛かる。
「うぐっ……!」
回避はできなかった。上から叩きつけるような打撃を受け、俺の残り少なかった霊力ゲージもグレーアウト。だが霊力を大分残していたアルファさんの機体は問題なく持ちこたえ、そして──背面から襲い掛かった光に貫かれ浦部さんの機体は動きを止めた。
最後の銃撃は……ロッテさんか。
「はぁーーーーーーっ」
その結果を見て、俺は大きくため息を吐いた。いやぁ、最後のアレ、安全策に出すぎたなぁ!
大地を大きく削る銃撃とか事前に試してもなかったから、パワーが足らなくて【ドゥームズディ】発動の為の場所が作り出せないなんてことがないように全開射撃しちゃったけど……さすがに【八咫鏡】まで乗せる必要はなったんじゃないか? あれ使ってなければ最後の浦部さんの攻撃耐えきれただろ。
というか俺の方に数が多く来てたから、確実に俺だけは道連れにする気で来てたよなぁ、浦部さん。
そもそも計算上は【ドゥームズディ】で削り切れると思ってったのに削り切れなかったの、どうやってやったかはわからないけど【千手千眼観音】でガードしたのかな? どれだけ万能なんだよあの腕……
まぁでも、だ。浦部さんは落とした。結果としてフレイさん、ヴォルクさん、俺と三人も持っていかれたが残りはバートンのみ。それに対してこちらは秋葉ちゃんもアルファさんもまだ大分霊力を残しているから……勝負は事実上確定しただろう。
「んーーーーーっ!」
ずっと触れていた操縦宝珠から手を離し、俺は横倒しになった機体の中で大きく背伸びをする。それと同時に自然と口元が緩んでいくのが抑えきれない。
そう、俺達は現役精霊使いの中で最強……いや精霊使い史上最強とも呼べる浦部さんに勝ったのである。もちろん機体数はこっちの方が多いとか、味方は各チームのエースクラスだってのはあるけど。それでも勝ちは勝ち。そしてなにより、"きちんと仕事が出来た"というのが大きい。化け物じみた浦部さんを始め半数以上がSリーグクラスの精霊使いの中、俺は俺の仕事ができていた。これはこれからAリーグで戦う事になる俺にとっては大きな自信になる。最後の詰めの甘さが出たのは課題だけど……
あとやっぱりいろいろ条件付きとはいえ、浦部さんに勝てたのは嬉しい! 感覚的には鬼畜難易度のゲームのラスボス倒した感覚を数倍にしたくらい。
「えへへ……やったぁ」
顔がにやけるのが抑えきれず、思わずそう言葉を漏らしながら胸元で小さくガッツポーズをとる。
と、そこで気づいた。
そういやこれエキシビジョンで。機体内部にカメラ設置されているわけで。
そのランプは現在俺の事を映していることを現しているわけで──
だから、なんで撃墜された精霊使いの操縦席映してるんだよ! まだ戦闘中の秋葉ちゃんとかアルファさん映せよ! というか、もっと俺の事ももっと戦闘中の格好いいシーンを映してくれよ!
◆◇
その後、秋葉ちゃんとアルファさん(+遠距離から実弾兵器でロッテさん)に襲い掛かられたバートンは投降。俺達の勝利が確定した。特殊ルールのエキシビジョンとはいえ負けなしの浦部さんを倒した俺達の戦いは、後日大きく話題になった。
そして、それと合わせて俺のだらしない笑みを浮かべた姿のキャプチャがネット上に溢れかえったのは言うまでもない。畜生、しまらねぇ……




